ユーチューブが教えてくれたネット社会の脆弱性
KNNポール神田です。
日本時間では、2018年10月17日の午前10時くらいだが、米国本土ではちょうど17時〜21時のゴールデンタイムだから大ニュースだ。フィラデルフィアの警察では110番(911番)しないでというメッセージをだしたという。
フィラデルフィア警察のTweet
私達のYouTubeがダウンしています。しかし、110番しないで、私達には直せません。
Yes, our @YouTube is down, too. No, please don't call 911- we can't fix it.
にわかに信じがたいが、YouTubeがダウンすることによって、110番の通報するほど、YouTubeはすでに、社会的な『動画インフラ』を構成していることを物語っている。
YouTubeはあくまでも、広告主から広告代金をいただき、広告を視聴者に見せながら、無料で運営しているGoogleなどを傘下に持つAlphabetの企業だ。無料で利用している側がたとえ止まったからといって、何もクレームを言えるものではない…。
そして、YouTube側のTwitterのメッセージにトラブルの説明はない…
また、YouTubeがダウンして2時間近く視聴ができないからといって、米国の電波管理部署のFCC(連邦通信委員会)や日本の総務省にお小言を言われるものでもない。YouTubeは、許認可事業である『電波』を利用していない『インターネットサービス』だからだ。
これが、ユーザーが費用をまかなっている『NETFLIX』や『amazon Prime Video』だったらどうだろう?停止したらそれに関するペナルティが発生するはずだ。しかし、『YouTube』側にはそんなペナルティは一切発生しない。
いや、それだけではなく、YouTubeがほぼ独占的に全地球レベルの動画共有のプラットフォームを握っている時点で、たくさんのリスクが存在することが改めてわかった。そして、その『論理』は『Google本体』にまで当てはまるのだ。
もはや、『Google』や『YouTube』がないと生活できなくなってしまっている
たかが、2時間弱『YouTube』が停止したことは、ゴールデンタイムの米国時間帯では『テレビ』が映らないのと同じ状況だと容易に想像できる。もはや、巨大インフラであるテレビが映らなくなる…ということは停電以外では、想像しずらい状況だからだ。まさか、警察に通報するとは…。
それでも『YouTube』がたとえ2時間でもダウンしてしまったことは事実だ。そして、我々はその原因を追求することもできなければ、その権利を一切もちえてはいない。それは、米国の一私企業の無料サービスのダウンであるからだ。『ご迷惑をおかけしました』で事は、すんでしまうのである。
我々が『YouTube』を視聴し、広告を見て、間接的に購買行動を起こすことによって『YouTube』は広告収益を上げる。何億も稼げる『YouTuber』が常に話題になるが、『YouTube』のほうがはるかに儲かっている。
ちなみにヒカキン氏の年収は6億円とも言われ、テレビ東京HDの四半期純利益の7.4億円に肉薄している。1539人を雇用するテレビ東京の1/5をヒカキン氏1人が叩きだしているといっても過言ではないだろう。
そんな、21世紀のアメリカンドリーム的な職業を生み出しているのがYouTubeの『プラットフォーム』だ。
プラットフォーマーとしての『YouTube』
テレビ局のような『視聴率』という間接的な調査による『率』ではなく、ネットでは、PV数や滞在時間という具体的な『数』というリアルな数値によって売上まで予測できる。そして『番組制作費』や『電波料』という名目もない。YouTubeは番組を作らないし、広義のインターネットのネットワークにタダ乗りしているプラットフォーマーである。
筆者もそうであるが、動画のバックアップとしてのYouTubeの利用から作品の最終掲載先としてのYouTubeを選択している人が多いのではないだろうか?もはやYouTuberでなくても、誰もがアカウントを取得していれば、自分限定の動画としてYouTubeのアップロードが可能となっている。4K映像からVR映像まで、最先端の動画フォーマットも採用されている。
しかしだ、今回のような突然のトラブルで『ダウン』され、理由も明示されないことは、『怖さ』を感じた。
YouTube依存、Google依存の怖さ
もしも、今回のようなYouTube側のトラブルシュートで問題なく復旧するようなダウンであればよいが、一私企業がハックされて、数日ダウンするようなこともありえるのかもしれない。想像したくないが、動画データが消失してしまうようなこともあり得る。
すでに、Googleが提供している『Google Photos』にすべての写真や動画を無限にアップロードしている。もちろん、自分で管理するよりも、Googleの方が『リスク』も少なく『経済的』であるからだ。そのかわりにGoogleは『個人』を特定しないまでも、いろんな人間の行動をAIで学習し続けて『広告』に反映するというトレードの関係だ。もちろん、我々はGoogleとの『契約書』をしっかり読みもせずに契約してしまっている。
もしも、同様のことがGoogleにも発生し、『検索』できなかったらどうだろうか?『Gmail』を開けることができなかったら…。『カレンダー』のデータがすべて消えてしまったら…。
そう、GAFA企業のサービスがストップすることによって、経済的な損害、時間的な損害、いろんな障害が社会に発生することだろう。
『説明責任』のいらない無料サービス
日本政府が、『行政指導や勧告』を示唆するが、高度なハッキングに対しては何の効力も持たない。GAFA企業のセキュリティは、すでに国家のセキュリティ以上の強固さをもっている。それゆえに狙われているのだ。
『タダより良いものはない』というネット社会の脆弱性
むしろ、GAFA企業のサービスに、しかも無料のサービスに、生活、仕事、社会を委ねているのが現状なのかもしれない。
社会的なコストをかけてでも、有料でも良いので、『ご迷惑おかけしました』だけで、すまされない有料サービスを検討してもよいかもしれない。しかし、有料サービスが無料サービスよりも『品質』が高くなるかというとそうではないからむずかしい。『タダより良いものはない』ネット社会の脆弱性を浮き彫りにした『事件』だったと言えよう。