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森保JAPAN、"心肺"はロシアW杯の控えMFとエースFWか

小宮良之スポーツライター・小説家
ウルグアイ戦は、二人のクレバーさが光った。(写真:松尾/アフロスポーツ)

 世界で最も屈強なディフェンダーの一人であるディエゴ・ゴディン(アトレティコ・マドリー)が、茫然自失の有様だった。

 10月16日、埼玉スタジアム。ウルグアイとの試合で、日本は目覚ましい戦いを見せている。

 相手のウルグアイは、コスタリカ、パナマのようなダークホースではない。本命的強さを持ち、DFゴディン、MFロドリゴ・ベンタンクール(ユベントス)、ルーカス・トレイラ(アーセナル)、FWエディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)らビッグクラブに所属する有力選手を多く擁する。小国ながら、ワールドカップでも常に上位を争う代表チームだ。

 日本はその相手と真正面から撃ち合い、4-3で"マットに沈めた"。

 特筆すべき点は、攻守の強度の高さだろうか。日本は常に先手を奪取。ボールへの鋭い反応以上に、攻めているときは守る準備をし、守っているときは攻めるポジションが取れていた。

 その戦いは、ロシアW杯のベルギーとの攻防を糧とするような猛気で満ちていた。

躍動するチームの”心肺”となった二人

 躍動するチームの"心肺"となったのは、ロシアW杯メンバーだったMF遠藤航、FW大迫勇也の二人だろう。

 ロシアでは出場機会を与えられなかった遠藤だが、この夜は群を抜く存在感を放っていた。相手の攻撃を未然に防ぐようなポジションを取る。スペースに対する反応が鋭敏で、相手に好きなようにプレーさせない。

「防備が充実することによって、攻撃の車輪も回す」

 チームに血を行き渡らせるようなポンプ機能は、ロシアW杯で不動の存在だったMF長谷部誠に通じるものがあった。

 攻撃に関しても、シンプルで効率的。前半、スローインのクイックスタートを感じ、前線でフリックパスに成功し、大迫にGKと1対1の場面を作っている。さらに2点目のシーンでも、簡単に右サイドの堂安律にパスを展開していた。

「攻守両面で前向きにプレーすることができたと思います」

 ウルグアイ戦後のミックスゾーンで、遠藤は淡々とした口調で振り返っている。

「(堂安)律や(中島)翔哉たちには攻撃で存在感を出して欲しい、と思っていました。前に仕掛けられる選手たちを、守備で消耗させないように。自分はリスクマネジメントをしながら、セカンドボールを拾えるか。守備のバランスを取るところでは、トップ下の(南野)拓実がパスコースを切って、フォローしてくれるのは助かりましたね」

 DFラインとFWラインをコンパクトに結びつけた。単に、下がったポジションを取るのではない。味方のパスコースを作りながら、敵のパスコースを消した。

 図らずも、3失点目で、その仕事が浮き彫りになった。遠藤は中盤右でボールを受けたとき、敵のタックルを食らい、ボールを失う。このとき、もう一人のMF、青山敏弘もサイドに釣り出されてしまった。中央にリターンされたボールをウルグアイはそのまま持ち込み、ゴールにつなげた。バックラインはMFの援護なしに攻撃を受けたとき、どれだけ人が後ろにいても、無防備な砦に等しいのだ。

攻守のくさび

 一方、前線で攻守のくさびとなっていたのが、ロシアでも1トップとして勝利に貢献した大迫だ。

 そのポストワークは芸術に近かった。ゴディンの荒っぽいチャージにも全身を使って対応。相手の流れになりそうなとき、前線でボールを呼び込み、拠点を作った。おかげで後方の選手は反撃に移ることができたし、守備の猶予も得ていた。

 大迫は、トップ下の南野やサイドのアタッカー、さらにボランチの選手との距離感も抜群だった。常に顔を出し、パスコースを作り出した。戦術的インテリジェンスが高く、相手バックラインに対するプレッシングも、献身的かつ的確だった。前線から守備で追い込むことによって、敵の攻撃の威力を削いでいた。

 ボールを受け、ゴールに向かう、その単純なプレー精度が高い。ターンは芸術的なほどに滑らか。前半はチーム最多の4本のシュートを打ち、ゴールを狙う上手さと貪欲さも見せた。前半36分には、中島が放ったミドルのこぼれを計算し、押し込んでいる。

「こぼれ球をしっかり狙えたと思います。自分はW杯の悔しさがまだまだ残っていますし、借りを返すために反骨心をもって試合に臨みました。最後まで走り切れて良かったです」

 大迫は語っているが、得点以上の貢献を見せた。

さらなる充実へ

 遠藤、大迫が"心肺"となってチームを動かしていた。二人が生み出す活力によって、南野はスキルの高さと決定力を存分に発揮し、サイドの中島、堂安は躍動。同時に守備では少々脆さのあるバックラインを助け、ウルグアイに持ち味を出させなかった。

 ロシアで控えだったMFとエースのFWは、これから戦術を担う存在になるのではないか。

「ここで得た自信を、チームに落とし込みたい」(森保監督)

 11月16日のベネズエラ戦、20日のキルギス戦、さらに1月に開催されるアジアカップに向け、チームのさらなる充実が見込まれる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。