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米英の王子が恋に落ちる映画『赤と白とロイヤルブルー』の清涼感が心地良すぎる

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

もしも、アメリカ大統領の息子とイギリス国王の息子が恋に落ちたら?そんな仮定を基にしたケイシー・マクイストンの原作小説『赤と白とロイヤルブルー』が、アマゾン・プライムにより映画化され、8月11日から配信が始まった。どう考えても立場的に恋の成就は無理そうな2人が、葛藤を抱えながら自由な未来に向けて突き進んでいく物語の構成もさることながら、アイデンティティという誰もが避けられない課題を禁断のラブロマンスの中に仕込んだストーリーテリングと、魅力的な俳優陣の熱演も相まって、本作はまだまだ蒸し暑い晩夏の疲れを吹き飛ばす1作になるはずだ。

馴れ初めはケーキ塗れ
馴れ初めはケーキ塗れ

物語は端からぶっ飛んでいる。アメリカ初の女性大統領、エレン・クレアモントの息子、アレックスは、イギリス国王の長男、フィリップの結婚式に参列した際、フィリップの弟、つまり国王後継者の予備軍(スペアですね)であるヘンリーと口論になり、巨大なウェディングケーキの下敷きになるという失態を演じてしまう。その場面が翌朝のタブロイド紙に掲載されたことは言うまでもない。しかし、次期大統領選で再戦を狙うクレアモントはこの事件が選挙に悪影響を与えることを恐れて、アレックスにヘンリーと表面上仲良くすることを命じる。やがて、2人は互いに誤解があったことを謝罪し、携帯番号を交換して密かな交流がスタートする。

新しい米英外交のかたち
新しい米英外交のかたち

そこからの展開は素早い。新年パーティでの再会→お互いの気持ちの確認→フォーリンラブ→初めてのセックス(ここでセクシュアリティに関する微妙な違いが分かるのはクィア映画ならでは)→関係の発覚→親への告白→自分が置かれた立場から来る葛藤と迷い→逃避→再びの和解→& moreと、次々と目の前に現れる壁を打ち砕き、前進していく大統領ジュニアと英国王子を応援したくなるのは必至だ。ここで気が付くのは、恋愛というものが基本的に、葛藤と不安の連続で、時には、自分が置かれた立場や家族との関係が足枷になることもあるということ。反面、2人が自分たちの性的指向を過剰に覆い隠さず、見ていてハラハラするくらい無邪気に愛し合っている点。おかげで、彼らに張り付くシークレットサービスやMI5のボディガードたちは、仕事上、見て見ぬふりをしなくてはいけないのだが。

本作で長編映画デビューを果たし、脚本も担当しているマシュー・ロペスは、自身もゲイであることを公言していて、ニューヨークのゲイ・コミュニティを愛情と皮肉を込めて描いた舞台『The Inheritance』(2018年に初演)の脚本でブロードウェイとウエストエンドを制覇した才人だ。ロペスはミュージカル『お熱いのがお好き』(2022年)でも、第76回トニー賞の脚本賞を受賞。同作はそれも含めて合計4部門に輝いている。アマゾンは久しぶりに逸材を世界に送り込んだことになる。

 マシュー・ロペス
マシュー・ロペス写真:Shutterstock/アフロ

ここで目ぼしいレビューを拾っておこう。CNNエンターテインメントのブライアン・ローリーは、『2人の王子が真実の愛を互いの中に見つけた時に何が起きるかを描いている』と、また、ニューヨークポストのローレン・サーナーは、『欠陥はあるが楽しくてキュートでハートフルなロマンチック・コメディ』と、それぞれ可もなく不可もない論調だが、BBCのルイス・ステイプルズは、『イギリス人とアメリカ人のあからさまなステレオタイプだ』と一蹴。最も本質を突いているのはニューヨークタイムズのエミリー・ニコルソンだろう。曰く、『ライバルからロマンチックな”べッド仲間”へと変化していく生意気なカップルを我々も応援しないわけにはいかない』。筆者も同意見だ。

美しいカメラワークも魅力の一つ
美しいカメラワークも魅力の一つ

“ベッド仲間”を演じるのは、メキシコ、中東、地中海にルーツを持つテイラー・ザカール・ペレス(アレックス)と、カミラ・カベロがヒロインを演じたミュージカル『シンデレラ』(2021年)で王子役を演じたイギリス人俳優、ニコラス・ガリツィンの2人だ。どちらも清潔感があり、感情表現が自然で、物語の運命を握る役目を充分にわきまえた好演だ。配役とその背景には色々読み解き方がある。ヘンリーは現在、その去就に注目が集まっているイギリスのハリー王子を否が応でも連想させるし、ユマ・サーマンが演じるクレアモントはアメリカ初の女性大統領という設定だが、勿論、アメリカでは女性大統領は未だ出現していない。また、劇中でクレアモントと握手するイギリスの首相は黒人女性という設定だが、イギリスではマーガレット・サッチャー、テリーザ・メイ、リズ・トラスと女性の首相は登場しているが、黒人で女性の首相はまだ誕生していない。そう考えると、本作はセクシュアルマイノリティの描き方が大胆かつオープンであるばかりか、人種の設定が斬新だったNetflixの人気ドラマ『ブリジャートン家』(2022~)を現代、もしくは来るべき近未来に置き換えたアマゾンの勝負作と捉えることもできそうだ。

レビュー集積サイト
レビュー集積サイト"ロッテントマト"でも高評価を獲得

(C) Amazon Content Services

『赤と白とロイヤルブルー』

Prime Videoで独占配信中

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。TV、ラジオに映画コメンテーターとして出演。

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