セクハラに甘いフランスでゆらぐ価値観 「君のお尻かわいいね」、はOK?
ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が数十年にわたって、スタッフや女優にセクハラをし続けていたことが1ヶ月前、10月5日にNew York Timesで報道された。
その波紋は、この1ヶ月で、これまでセクハラに甘かった国、フランスにも広がっている。
職場でのセクハラは1/5の女性が体験しているのにも関わらず、そのうち1/3の被害者は誰にも話すことができず、訴訟に持ち込んだ女性の95%が職を失っているからだ。その一方で、フランスはラテン文化国の常として、相手のセックスアピールや服装の趣味をホメることは、職場でも日常茶飯事。セクハラとナンパ、そして真剣なアプローチの間の線引きが難しいといった問題にも直面している。
「#豚を告発しろ」がアクセス数Top10に
ワインスタイン事件が明るみに出てすぐ世界中で広がった#MeTooに加え、フランスでは、ジャーナリストのサンドラ・ミュラー氏が#balanceTonPorc(豚を告発しろ)への投稿を呼びかけている。これに応じ、自分が経験したセクハラ被害について投稿する人々が13日から激増。15日にはアクセス数トップ10に入った。
ほとんどは、加害者の名前は伏せているが、なかには名指しで告発しているものもある。また、公共ラジオ放送局ラジオ・フランスのジャーナリストが「某有名プロデューサーに狭い廊下で詰め寄られ、『イヤといっても無駄だぞ』と脅された」など、半匿名もある。
これに対する反応は真っ二つに分かれる。
一つは、「これまで女に生まれたからにはこういうことは誰でも経験するものと思って我慢していたが、やっと自由に発言できるようになった」というものと、「これでは、密告。証言がウソだったらどうするの?気に入らない男を中傷誹謗もできるではないか」というもので、どちらも一理あると思う。
国民の3/4が「セクハラ」の定義を理解していない
しかし、これらTwitterの投稿の中では、いろいろなことが混同されているように感じられる。
子どもの時のお医者さんごっこから、しつこいナンパ、ちょっとヤリ過ぎだったお誘いなど、平手打ちを食わせれば終わることと、上司からのセクハラ、強かん未遂までが同じレベルで語られていることだ。これはちょっとマズイのでは……
それもそのはず、アメリカで1970年代に生まれたセクハラという概念が、フランスで軽罪として認められるようになったのは1992年、労働法にセクハラが導入されたのは2012年、初のセクハラ防止キャンペーンは昨年のこと。(日本では1989年に初のセクハラ民事裁判が起こされ、1997年、男女雇用機会均等法が改正されセクハラ規定が整備された)。
それゆえに、いまだに「セクハラとは何か」という定義が定着していない。政府の人権擁護機関による「2014年職場でのセクハラに関する調査」によると、フランス人の3/4は、セクハラ、ちょっとエッチな冗談、ナンパ、真剣なアプローチの区別がついていないという統計もある。
日本では絶対NGな「君のお尻、可愛いね」という声かけ フランスでは…OK?
10月なかば、テレビ局France 2では、ワインスタイン事件を受け、『セクハラ・みんなの問題』というタイトルのドキュメンタリーを放映したが、その中で、セクハラに関するクイズの場面が出てくる。50人ほどの老若男女に「職場での女性に対する暴力防止の会」(AVFD)の会長で弁護士のマリリン・バルデック氏がクイズを出し、YesかNoで答えるというものだ。
Q1「朝、職場に現れた女性の同僚に、口笛を吹いて、『君のお尻かわいいね!』と言うのはセクハラか?」
みなさん、これ、どう思います?
日本人の感覚なら、これは、いくらなんでもセクハラかと……
ところが、このフィルムの中での結果は、
Yes 48%
No 52%
そして、バルデック氏による答えは、「しつこく、毎朝言うのはセクハラになりますが、1回言うだけならOK」というものだった。
フランスでは、気心の知れた相手のセックスアピールや服装の趣味をホメることはよくあること。言い方や視線がサラっとした軽いものであれば、必ずしも悪くとられない。ちなみに30%のカップルは職場で出会っているということだ。
Q2は、「ランチの最中に、上司が部下の女性の足にテーブルの下で触れるのはセクハラか?」
これに対する答えは、イエスと答えたのは38%、ノーと答えたのは62%。
男性が女性の足にテーブルの下で触れることは、明確に「性的なお誘い」。その上、上司と部下の関係。だから、これも日本であれば明らかにセクハラになるはずが、フランスではそう思ってない人が大多数だ。
ラテン文化特有の男女関係
そして、「セクハラ議論は男女間の関係を悪化させるか」という質問に、51%がYesと答えている。
半数以上の人々が、セクハラ議論に懐疑的である背景には、フランス人は人種的にはゲルマン系だが、文明からいうとラテン系の国であることがある。
男性が道を歩くカッコイイ女性に口笛を吹いたり、賞賛の言葉をかけるのは普通、女性が一人でキャフェのテラスに座っていれば、「一緒におしゃべりしてもいい?」と書いて折りたたんだメモをウェイターさんが届けてくれたりすることも、これまではよくあることだった。すべての女性が必ずしもそれを「不愉快なセクハラ」とは感じていないし、いかに女性目線を理解するかが男性の腕の見せ所でもある。
思いのほか男性も多かったセクハラ反対デモ
10月29日、フランスの各地でセクハラ反対デモが行われた。私も、パリ、レピュブリック広場でのデモに行ってみた。雨が降っていたこともあり、参加者は約1000人ほどと、デモ好きな国フランスにしては少ない。しかし、思いのほか、男性の参加者が多いことに驚いた。4分の1は占めていただろうか。その一人に「どうして来たの?」と聞いてみたところ、「セクハラを受け、レイプされた女性が、僕たちの母であり、妹であり、妻で、娘であることもあるのだから、無関心ではいれないよ」ということだった。
「#豚を告発しろ」に投稿する女性の気持ちもわかる。恥じるべきは、被害者ではなく加害者、責任が誰にあるかは明確にすべきだ。
しかし、男女が睨み合う社会にはなって欲しくない。これを機会に、家庭で、会社で、学校で、「こういうアプローチなら歓迎なんだけど」と女性が説明したり、あるいは男性が「よくわからないよ、女性の反応」と、男女間の感性の違いについて、オープンに話し合うことができればいいと思う。