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「よりよい方向へ、できること考えたい」退会が相次ぎ、解散に至った市P連

大塚玲子ライター
P連改革をめざし、2年かけてさまざまな提案や行動をしてきたが…(写真:イメージマート)

 先月、東京都小学校PTA協議会(都小P)が、全国組織である日本PTA全国協議会(日P)からの退会を決めたことを機に、P連(PTAのネットワーク組織)のあり方に注目が集まっています。

 都小Pの退会は、日Pに毎年多額の分担金を納めているわりに還元がなく、会員の声を吸い上げる機能もなかったことが理由といいますが、これらの問題点は全国の多くのP連にも共通するものです。

 今後は、現場に目が向いていない日PやP連からの退会が増え、解散に至るケースが少なからず出てくることも予想されます。

 解散はタブー視されがちですが、「入っている意味がない」と思われている団体がなくなるのは当然のこと。義務感だけで存続するのは、むしろ不健全でしょう。

 筆者は以前も解散したP連を取材しましたが、「やらされ感」で続けるより、ずっと前向きだった印象です。

 最近では、滋賀県草津市のPTA連絡協議会(以下、草津市P連)が6月に解散していたことが、京都新聞で報じられました。

 どのように解散に至ったのか? 事務局は既に存在せず取材はかないませんでしたが、過去に草津市P連副会長を経験した元PTA会長の堀江尚子さんと、2019年度に同P連を最初に退会したPTAの会長・八木良人さんに、お話を聞かせてもらいました。

「これでは意味がない」と思ったワケ

 草津市P連は、堀江さんがPTA会長になった2017年度当時から、加盟する20数校・園のPTAの半数ずつが、1年置きに活動する、というやり方でした。ちょっと珍しい形です。

 毎年ほぼメンバーが入れ替わるので、3年以上会長職に就いている人以外はP連のことはほとんどわからないまま、「前年通り」の活動を繰り返すしかありませんでした。

 全国のP連のなかには教育委員会が深く関与し、すべてお膳立てしているようなところもときどきありますが、同P連は独自に事務局員を雇用していました。たまに教育委員会から会議を求められることもあったものの、かかわりは比較的薄かったようです。

 市P連で行うイベントは、年1回のPTA大会(講演会)のみでした。ただし、大会は毎年6月頃に開催しており、年度が明けてから準備を始めていたら間に合いません。そのため、講師選びは事務局が独断で行わざるを得ませんでした。

 また、大会には多額の費用をかけているわりに、収容人数が少ない小さな会場しか使用せず、参加するのは動員されたPTA役員ばかりでした。「集まらないとあかんからやっている」状態に、堀江さんはもどかしさを感じていたといいます。

 「ちょうど改正個人情報保護法が施行されるときだったので、市P連では入退会届のことなどを議論したかったんです。ほかにも子どもたちのなかで起きているいろんな問題があったので、会長同士の情報交換や意見交換もやりたかった。

 そういうことを八木さんなど仲間のPTA会長たちと相談して、市P連に2年かけて提案や行動をしてきたんですが、結局ほとんど実現しませんでした。これでは続ける意味がない。決断することも自分たちの役割だろうと感じ、まず2019年度に八木さんのPTAが退会し、自校のPTAも2020年度に退会しました」(堀江さん)

市P連を退会して、一番驚いたこと

 P連を抜ける際に一番驚いたのは、保険のことでした。それまではずっと「市P連を抜けると(県Pが扱う)保険に入れなくなるよ」と言われて退会をためらっていたのですが、実際にはP連の保険に入れなくても誰も何も困らなかったからです。

 「PTA活動の保険はうちのPTA単独で簡単に代理店と直接契約できましたし、県Pがあっせんする任意の保険(子どもが被保険者となる総合保障の保険)も、加入者がすごく少なかったんです。私はほとんどの保護者が入っていると思っていたんですが、実際は全世帯の3%くらいしか入っていなかった。毎年その程度だった、と聞いて『え、今まで、なんやった?』と思いました(苦笑)。保険に入っていたご家庭からも、一切苦情などはありませんでした」(堀江さん)

 この年度は他校のPTAも続々と、市P連を退会しました。先に抜けた八木さんや堀江さんのPTAの話を聞いて、「P連の保険に入らなくても問題はない」ということがわかったからです。(*1)

 校長先生たちに解散を反対されるようなこともありませんでした。たまに、日PやP連を抜けようとすると校長先生たちが反対にまわることがあるのですが、草津市では幸い、そのようなことはなかったようです。

 最終的に市P連が解散したのは、今年(2022年)の6月でした。もともと、2020年度はコロナ禍でほぼ活動しておらず、2021年度も同様の状況が続き、県Pからも抜けていたので、自然消滅に近い形だったのでしょう。

 「いま、子どもたちや学校の周りには、たくさんの課題があります。いじめもあれば、学校に行っていない子どもたちもいるし、制服を着られず苦しんでいるトランスジェンダーの子どもたちもいるし、各PTAでやるべきことはいくらでもある。本当はP連でもそういう問題を共有して話し合ったりできるとよかった。そういうことをせず、前年通りの活動を繰り返すだけなら、解散は当然の流れと思います。

 PTAもP連も、何のためにこの活動、事業をやるのかを、常に自分ごとで考えていかなければなりません。必要と感じることなら、まっすぐに伝えればいい。『協力したい』という人は、意外にたくさん出てきます。市P連は解散しましたが、今後よりよい方向に向かうよう、一保護者としてできることを考えたいです」(堀江さん)

 「草津市のPTAは改革が進んでいます。市P連も、できるなら改革したかった。会長会を開催して、情報交換や話し合いをするなかで、単Pだけでは解決できない部分を進めていきたかった。でも、それができなかったからやめることになりました」(八木さん)

 うちのP連も同じだ、と思った方も多いかもしれません。P連のあり方や存続を見直す動きは、これから全国に広がっていくことでしょう。

 PTAを改革するのと同じようにP連を改革できるなら、それももちろん素晴らしいことですが、「自校のPTAのことで手いっぱいで、P連の改革にまで手がまわらない」という会長や役員さんも多いでしょうし、草津市P連のように、頑張っても残念ながら結果が出ない、ということもあります。解散というのも、一つの選択です。

 PTAもP連も、あればあったで使い方はいろいろあると思いますが、あくまで任意団体です。無理やり続けるべきものでもありません。

 解散しても、何かしらネットワークが必要だと感じる人が出てきたら、そのときに新しいものを構築することは可能です。

 「やらされ感」のまま仕方なく続けるよりも、そのほうがずっといいとも考えられます。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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