39歳。公務員。知り合いのいない東京でも和やかに飲み交わす相手が欲しいです~スナック大宮問答集48~
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京、愛知、大阪などの各地で毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催140回を超えている。のべ2800人ほどと飲み交わしてきた計算になる。
今月からは友人知人の会社事務所や自宅を開放してもらっての「家飲み!スナック大宮」も実験的に開催している。アルコールと酒肴は持ち寄って、それを話のネタにして交流する試みだ。第1回は、結婚相談所「東京世話焼きおばさんの縁結び」(東京・神楽坂)に協力してもらった。代表の小野寺さんとは20年来の友人なので安心だ。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代までの「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めて対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***ヒロシさん(仮名。既婚男性、39歳)との対話***
県民の利益につながっているのか?と疑問に思う業務ではモチベーションを保つのが難しい
――某県の職員であるヒロシさんは11年ほど前からの「常連」ですよね。最近のお仕事はいかがですか?
県民のためになることをやるという大きなミッションはありますが、それに至るまでには各担当者に様々な小さなミッションがあります。内容によっては「これは本当に県民の利益につながっているのか?」と疑問に思うことがあり、そういうときはモチベーションを保つのが難しいです。
今のミッションは、国(中央省庁)の後押しを得たり、国の方向性を探って県に届けたりすることです。得た情報を本庁の各部署が使ってくれなければ意味がありません。それだけに、やる価値があると思える仕事をうまくこなせて、県民の利益にもつながったと実感できたときはやりがいを覚えています。
――最初にスナック大宮に参加しようと思った理由を覚えていますか?
11年前も中央省庁への出向で上京していました。1年間と出向期間は決まっていましたが、東京でも一緒に飲む相手が欲しいしいろんな店にも行ってみたいと思ったのがスナック大宮に参加した理由です。私の地元では普段読んでいる記事の書き手と一緒に飲むような機会はほとんどありません。ライターさん主催の飲み会に参加できるなんて東京っぽいなと嬉しかったのを覚えています。
去年の春に再び東京の出先機関に異動になり、妻と一緒に都内で暮らしています。2年後にはまた地元に戻るので、東京にいる間は大宮さんのウェブマガジン「冬洋酒」のオフ会も含めて、できるだけ参加するつもりです。
参加者同士のいい意味での「内輪感」。持ち寄りで仲良く飲んでいる雰囲気を楽しみました
――それは光栄です。僕としては読者の声を聞きつつ、今日みたいに取材先も確保でき、みなさんの会費からギャラも少しいただいているので小遣いまで得られます。もちろん、僕自身も飲み会を大いに楽しんでいるという一石数鳥の「仕事」なんです。各地の飲食店での月1回開催では足りないと思って「家飲み!スナック大宮」を企画しました。いかがでしたか?
お店ではない1フロアの空間だったので参加者とのいい意味での内輪感があり、酒とつまみを持ち寄ってみんなで仲良く飲んでいる雰囲気がありましたね。近年の大宮さんは「晩婚」などをテーマに執筆されていますが、それ以前の文章を知っている方も参加していました。僕も古い読者なので、『ロスジェネ世代の叫び! ボク様未婚男』(※筆者が過去に長く続けて連載)などの話ができて面白かったです。先日の集まりは、新しい読者と古い読者、スナック大宮の常連と初参加者、のバランスがちょうど良かったのではないでしょうか。
――俯瞰して分析して下さってありがとうございます(笑)。今後のスナック大宮について何かご意見があればお聞かせください。
大宮さんについてゆるい感じで話をしながら一緒に飲めるのがスナック大宮の良さだと思います。初対面の人とも共通の話題があるので安心です。この雰囲気は今後も変わらないでほしいですね。あと、西荻窪のアジア食堂「ぷあん」や大塚の蕎麦店「小倉庵」など、スナック大宮を何度も開催しているお店がありますよね。いい感じの飲食店を再訪してみんなで飲み食いするのが僕も好きなので、そういうお店とのつながりも保っていただけると嬉しいです。
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キーワードは「公私混同」。立場や役割が流動する社会で人と人がフラットに等身大につながる
以上がヒロシさんとの会話だ。公共心と遊び心をブレンドしたような公務員をときどき見かけるが、ヒロシさんはその典型例のように感じた。人が喜んでいる姿を見るのが大好きで、そのための尽力は惜しまない姿勢。余力があれば本業以外でも活躍してほしい人物だ。
公務員なので副業はできないと思うが、スナック大宮を手伝ってもらったお礼に一杯ご馳走するぐらいならば問題ないだろう。年末に忘年会がてら開催する予定のスナック大宮in東京・西荻窪のチーママをお願いすると、「全力でやらせてもらいます! 謝礼のサシ飲みも楽しみです。スナック大宮では大宮さんとゆっくり話すことはできないので」と快諾。主催者である筆者の気持ちは早くも軽くなった。参加者の満足度も上がることだろう。
最近の筆者は「仕事仲間」「取材先」「読者」「友人」の垣根を意識的に取り払おうとしている。自らの職業人生を振り返ってみると、かつての取材先が読者になってくれたり、友人に取材をしたり、読者が仕事仲間になったりしていることに改めに気づいたからだ。相手と自分の役割を勝手に固定すると、人生の豊かさを損ねてしまうだろう。だから、ヒロシさんのような好人物にはこちらから「仕事」を依頼したり飲みに誘ったりしている。
仕事とプライベートをきっちり切り分けたがる人は少なくない。かつての企業社会ではそれが通じたのかもしれない。しかし、転職や独立が当たり前になり、会社以外のコミュニティの重要性も高まっている現代は、むしろ「公私混同」をするべきだと思う。社会や自分の多様な変化に楽しく対応するために。
昔の地域社会では、八百屋が米屋で米を買い、米屋が八百屋で野菜を買っていた。その子どもたちは同じ学校に通っていたりした。「お客様は神様」などではなくてご近所さんだったし、公私の分かれ目などはほとんどなかったのだ。
現代人は生まれ育った地域に縛られることはない。しかし、人間関係をフラットに捉え直してコミュニティに参加し、等身大の人間同士としてつながる必要はあると感じている。