Yahoo!ニュース

木材利用ポイントって何? 国産材の救世主か、それとも……

田中淳夫森林ジャーナリスト
すべて国産材で建てている住宅。このような家は全着工軒数の数%しかない。

前回、木づかい運動に触れたが、木材利用ポイントについて知っている人が意外と少ないことに気づいた。そこで、この制度を紹介するとともに、その裏と表を考えてみよう。

木材利用ポイント制度は、林野庁が基本的に国産材の利用を促進するために始めた事業で、今年度に410億円を計上している。条件を満たした木造住宅の新築や、内装・外装などに木質系の素材を使うこと、さらに木製品の購入に対し、木の量に応じて木材利用ポイントを付与し、定められた金品やサービスと交換できる。

ポイントを申請できるのは、この事業の登録業者でなければならないが、今年4月1日以降に着工もしくは請負契約すると、最大60万ポイント(60万円相当)が与えられる。

ポイントの還元は、現金ではない。30万円までは木工事の支払いに使えるから、作り付け家具やデッキの建設などに利用できる。残りは、地域振興に関わる品の購入という取り決めだ。商品券、地域の農林水産品、農山漁村地域の体験型旅行、森林づくり・木づかい活動に対する寄附、被災地に対する寄付などに交換できるとされているが、まだ出揃っていない。

事業の目的は、国産材の需要を増やして林業振興につなげ、それが山村の復興にもなることである。

ここで難しいのは、厳密に「国産材の使用」とは謳えないこと。明示すると輸入材の非関税障壁となりWTO(世界貿易機構)の条約違反になりかねない。そこで「地域材」という言葉を使っている。しかし、この言葉は意味が不明確で、結局木材なら何でもよいことになる。木造住宅でも使われる木材は半分以上が輸入材なのだから、過半が輸入材になりかねない。

それを防ごうと、数々の条件を付けた。そこで官僚ならではの巧妙な? 条件を考え出している。

まずポイントを付与する木材は、素性がはっきりしていること。具体的には

1、都道府県により産地が証明される制度またはこれと同程度の内容を有する制度により認証される木材・木材製品

2、森林経営の持続性や環境保全への配慮などについて、民間の第三者機関により認証された森林から産出される木材・木材製品

3、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に基づき合法性が証明される木材・木材製品

1の証明が成されるのは、否応なく国産材だけだ。都道府県が証明するのだから。

2は森林認証制度によって環境に配慮されて生産された木材であることを指す。FSCやSGEC、あるいはPEFCなどの認証がある。いずれにしても、出回っている認証材の量が極めて少ない。

3の合法証明は、公共事業に供するのに必要だから国産材は多くが付けている。一方で輸入材は、まだ欠いているものが少なくない。

これだけでも輸入材は使いにくいのだが、極めつけは、あらかじめ適用する樹種を定めている。スギ、ヒノキ、カラマツ、トドマツ、アカマツ、クロマツ、リュウキュウマツ、アスナロの8種類である。つまり国産材に限っている。

そのほかの樹種については「資源量が増加しているもの」というしばりを掛けている。資源量の増加の判断については、登録業者等から提出された客観的かつ科学的なデータに基づき行うものとする。輸入材のデータを海外から探し出して認可を望む熱心な工務店がどれほどいるだろうか。事実上、輸入材をシャットアウトしているのである。

さあ、これで林業家や国産材を扱っている業者は手放しで喜べるだろうか。

残念ながら、そう簡単ではない。これが即国産材の需要を増やすと思えないからだ。仮に増えても別の問題もある。

まず、これまで国産材を使ってきた建築家や工務店が申請しても、国産材の新たな需要を増やすことにはならない。また山主と結んで産直住宅を建てていたビルダーも、合法証明などを取っていないことが多い。

輸入材で住宅を建設してきた工務店などが、ポイント目当てに国産材に切り換えればよいが、供給に不安のある国産材を扱うだろうか。大工も材質が違うと加工法も変わるから、いきなり国産材に変えられると喜ばない。

それにハウスメーカーにとって、60万円程度なら値引きできる範囲内だから、ポイントに期待するより値引きで対抗してくるだろう。

そもそも注文が増えても、乾燥材が少ない、製品アイテムやロットが揃わない、といった国産材が抱えている問題点をクリアできるのか。木材は乾燥していないと強度や形状が安定しないし、多様で大量の注文に応えられなければ信用も落ちる。

心配なのは、結局、需要の先食いになることだ。もともと国産材住宅を建てるつもりだった施主がポイント目当てに駆け込むだけなら、需要そのものは増えない。むしろ事業終了後に落ち込むだろう。家電エコポイントは、ポイント期間が終わると一気に販売が落ち込み業界を苦しめた。さらに来年度かから消費税率アップとなれば、住宅着工件数の激減が予想される。

国産材を使ってみたものの、ちゃんと納品できなかったり施主からクレームが出たりすることもあり得る。そんな目にあったら、工務店はすぐに輸入材にもどすだろう。評判は地に落ちて、国産材は制度前より落ち込みかねない。

もっとも望ましいのは、この制度をきっかけに国産材で住宅を建てようと考える人が増えることだ。そして工務店が国産材も悪くないとその後も使い続けるようになれば、長期的に期待できるようになる。そのためには、国産材の供給側がよほど気合を入れて取り組まないといけないだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

田中淳夫の最近の記事