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森保JAPANは会心スタート。外国人監督は不要か?

小宮良之スポーツライター・小説家
ハリルJAPAN時代は不遇だった南野だが、森保JAPANでは躍動(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

日本人監督のメリット

 ロシアW杯、日本人の西野朗監督が率いた日本代表は、観客の心を動かすような戦いを披露している。選手たちは剽悍で、献身的で、勇敢だった。日本人の長所である俊敏性や技術の高さを、コンビネーションとして十全に用いていた。

「チーム一体」

 それは敵にとって脅威になり、味方の士気を高めた。日本人の良さを生かした戦い方だったと言えるだろう。

 そしてW杯後も、代表は日本人の森保一監督の号令で錨を上げた。その船出はこれ以上ないものになっている。中南米の伏兵であるコスタリカを相手に、終始イニシアチブをとって、3―0と完勝。若手の台頭目覚ましく、ベテランがそれを支えていた。

 なぜ、初戦からこれだけ完成度の高い試合ができたのか?

 答えは明快である。

 それは、日本人監督のアドバンテージによるものだ。

日本人の良さを生かした、無理のない戦い方

 森保監督はサンフレッチェ広島を3度、Jリーグ王者に導いている。広島の選手だけでなく、多くの日本人選手の長所、短所を把握。どうやって用いれば、最大限に実力を引き出せるのか――。そのイメージは描けていたはずだ。

 代表メンバー選考からして、無理がなかった。

 広島時代の教え子である槙野智章、佐々木翔、青山敏弘などを招集。さらに、中島翔哉、南野拓実、室屋成、遠藤航、三浦弦太など同じリオ世代の選手を数多く組ませ、短期間で最大限の能力を引き出している。また戦術システム的にも、4-2-3-1に近い4-4-2という、最もオーソドックスなシステムを選択することによって、負担が少なかった。

 森保監督ならではの采配、といったところだろう。日本人である故に、日本人の良さも悪さも分かっている。ノッキングする部分が少なかった。

 では、日本人監督は最高なのか?

 その結論を出すのは時期尚早だ。

日本人監督礼賛の流れ

 ヴァイッド・ハリルホジッチの解任以降、日本代表における「外国人監督の待望論」は著しく縮小している。

 その理由としては、ハリルホジッチの日本サッカーに対して挑発的な表現があったり、代わりに就任した西野監督が結果を残した点が挙げられる。そもそも、日本サッカー協会には世界サッカー市場に乗り込んで外国人監督と契約できる人物がいない。外的な要因もあるだろう。

 ともあれ、「日本人のことは日本人が分かっている」という風潮が生まれつつある。

 過去には、多くの外国人監督が日本サッカー代表を率いてきた。彼らはその豊富な経験で、日本を国際舞台で活躍せしめ、日本サッカー全体を啓蒙し、進化させる仕事に従事している。ハンス・オフト、フィリップ・トルシエ、ジーコ、イビチャ・オシム、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、そしてヴァイッド・ハリルホジッチは、それぞれ何かをもたらしたはずだ。

 では、彼らのメリット、デメリットはどこにあるのか?

外国人監督のデメリット

 外国人監督は、まず圧倒的に情報量が少ない。例えば、日本人指導者がベトナムを率いたとする。選手の予備知識は乏しく、スカウティングするだけでも時間を要する。そのため、メンバー選出に齟齬が出やすい。

「Jリーグで先発に定着していない無名選手を抜擢するも、予想していたプレーレベルにはなく、その後は一度も呼ぶことはない」

 そういうケースが起きている。

 とりわけハリルホジッチは独善的な傾向があり、選手選考のアクが強過ぎた。東欧の中堅リーグで試合に出ていた選手に惚れ込んで選出するも、再び、呼ぶことはなかった。その一方、トップリーグのスペインで主力になっていた乾貴士のような選手を、代表の当落線上に置いていた。乾のようなレベルの選手がロシアW杯に選ばれなかった可能性が高い、という事実はゾッとさせるものがある。

 では、外国人監督の指導はなにももたらさないのか?

外国人監督が与えるカタルシス

 外国人監督が与えるカタルシスがあることを、否定するべきではない。違った考え方や視点を持ち込むことで、大いに刺激となる。その違いに辟易する人がいても、プレーを深く考察するきっかけを与えられる。

 ハリルホジッチは選手の反発を受けることが多かったが、目指した「縦に速い攻撃」は正しい方向性だった。ショートパスで攻め込むことに強迫観念のあった選手たちの意識を触発した。また、プレーインテンシティの低さをたびたび指摘していたが、それも的外れではない。戦術的にも、プレッシングとリトリートを併用した守り、トランジション(攻守の切り替え)の徹底は世界標準だ。

 ハリルホジッチの問題は、伝達手段の部分にあった。あまりに一方的で頭ごなし。日本人の短所は執拗に批判し、長所も否定した。「とにかく縦に蹴れ」という命令は偏りすぎ、持ち味のスキルの高さを無視していた。また、パワーやスピードに目を向けるあまり、データ重視で、俊敏性や献身性という日本人の良さには目を瞑ってしまった。

 しかしロシアW杯で西野監督が用いた戦い方は、批判を浴びていたハリルホジッチのやり方を実用化したものである。ハリルホジッチはなにごとにも極端すぎ、日本人のキャラクターを無視し、ノッキングを起こした。ただ、理論そのものは間違っていたわけではなかった。

日本人として小さくまとまってはならない

 皮肉にも、外国人がもたらす違和感が日本サッカーにカタルシスを与えてきた。進化するためには、肯定も、否定も必要なのだろう。うまくいかない面倒や衝突が、図らずも日本サッカーが前進する力になってきた。

 森保監督は日本人としてのメリットを生かし、最高に近いスタートをしている。人格者だけに敵が少なく、マスコミや解説者からも一様に絶賛を受ける。日本人スタッフのみで、意思の疎通も滑らかだ。

 しかし、外国人代表監督がいないことの影響はじわじわと出てくる。

「日本人だけでまとまる」

 それは発展途上にある国で、本来は得策ではない。サッカーは破壊、再生を繰り返し、強く逞しくなるスポーツ。進取の気性を忘れず、切磋琢磨できるか。日本人監督のメリットをデメリットにしてはならない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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