プライズゲームへのシフトますます鮮明に 3年ぶりアーケードゲームの祭典を取材した
一般社団法人 日本アミューズメント産業協会(JAIA)が主催する、アーケードゲームの展示イベント「ジャパン アミューズメント エキスポ 2023」(※以下、JAEPO)が、2月9~10日にかけて幕張メッセで開催された。
JAEPOは、毎年2月に開催される業界恒例のイベントだが、コロナ禍により2021年から中止していたため、今回が3年ぶりの開催となった。
以下、筆者が会場で展示タイトルやイベントを見たうえで気付いた、今後のアーケードゲーム、およびゲームセンターの展望などをお伝えする。
「プライズゲームありき」の傾向がさらに加速
筆者は1993年からほぼ毎年、JAEPOの前身にあたるJAMMA、およびAOUショーの会場に足を運んでいるが「大手、中小メーカーを問わず、プライズ(景品)ゲームと景品の展示がこれほど目立つのは今回が初めてだ」と率直に思った。
特に、開催2日目の一般公開日は(※初日は「ビジネスデイ」のため業界関係者しか入場できない)、どのメーカーのプライズゲームも家族連れや20歳前後の若いグループ客でにぎわい、本イベントの名物であるクレーンゲームの「フリー(無料)プレイコーナー」の入場整理券が、12時頃に早々と配布が終了するほどの盛況だった。
一般公開日には新作ゲーム機の展示に加え、自社で展開するオンラインクレーンゲームや、ゲーム連動アプリの会員増加を狙ったイベントを実施するメーカーもあった。
JAIAが発行した「アミューズメント産業界の実態調査:報告書」によると、2020年度のオペレーション(店舗)売上高の4,187億円のうち、プライズゲームの占める割合は約6割、2,425億円となっている。
現在もプライズゲームは、スマホでも遊べるオンラインクレーンゲームも含めて好調で、オペレーターによってはコロナ禍以前の数字にまで回復したとも聞いている。おそらく2021年度以降は、プライズゲームのオペレーション売上高、オペレーション売上高全体の構成比率ともに、さらにアップするのは確実と思われる。
よって、各社の展示がプライズにシフトしたのは必然の成り行きであると言える。今後もしばらくの間は本イベントの展示、ゲームセンターのオペレーションともに、プライズゲームが中心になるのは間違いないだろう。
景品を出展していたメーカーのうち、筆者が特に気になったのが、今回が初の単独ブース出展となるブシロードクリエイティブだ。
種類はそれほど多くなかったが、同社のブースには海外製の人気ゲーム「エーペクスレジェンズ」や「デッドバイデイライト」の関連グッズ、オリジナルブランドのフィギュアなど、他社とは一線を画す景品が展示されていた。
ちなみに同社は、筆者も出展スタッフの説明を聞くまでまったく気付かなかったのだが、すでにJAIAに正会員として加盟しており、今後ますます景品ビジネスにも注力すると思われる。
カードゲームやスマホ・家庭用ゲームソフト、あるいは自社IP「バンドリ!」などのキャラクタービジネスで豊富な実績を持つブシロード(の系列会社)の参入で、さらにプライズゲーム市場が盛り上がるのか、今後もその動向には大いに注目したい。
ビデオ、メダルゲームの注目作と今後の課題
プライズゲームとは対象的に、ビデオとメダルゲームを出展していたメーカーは非常に少なかったが、ゲームの出来自体は総じて良い印象を受けた。
その中でも筆者が特に好印象を受けたのが、コナミアミューズメントが出展した「桃太郎電鉄 ~メダルゲームも定番!~」だ。
本作はその名のとおり、家庭用ソフトの大ヒット作「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!」の世界観をプッシャー型メダルゲームに持ち込んだ作品。最大4人まで同時プレイが可能で、目的地に着くと大量のメダルが獲得できたり、貧乏神やスリの銀次とメダルを奪い合うイベントが発生したりするなど、メダルゲームと「桃鉄」の要素がうまく融合しており、とても面白かった。
昨今はコロナ禍の影響もありビデオ、メダルゲームのオペレーション売上高は大きく落ち込んでいる(※)なか、来月から稼働を開始する予定の本作が人気を集め、メダルゲームコーナーを持つ店舗がV字回復するきっかけになることを期待してやまない。
※筆者追記:前掲の「アミューズメント産業界の実態調査:報告書」によると、ビデオゲームもメダルゲームも、オペレーション売上高は10年前の半分以下になっている。
映像のみの出展となったが、初公開となった「アイドルマスター」のシリーズ最新作「アイドルマスター TOURS」も注目のタイトルだ。シリーズ第1弾の登場から実に18年、久々にアーケードでシリーズ最新作が登場することになる。
本作の稼働は来年で、今夏にはロケテストを実施する予定があるとのこと。特に、家庭用の「アイマス」シリーズのファンであっても、元祖アーケード版は知らないであろう大学生以下の若いファンを取り込み、ゲームセンターの活性化に貢献することを期待したい。
ビデオゲームの出展で気になったのは、eスポーツ関連のタイトルだ。
タイトーブースには、有名シリーズの最新作となる注目タイトル「ストリートファイター6 タイプアーケード」が出展されていた。出展のアナウンスが開催の直前になったせいなのか、最新作がいち早くプレイできるにもかかわらず、ほかの人気を集めていたタイトルに比べるとあまり注目されていなかった。
ゲームの展示コーナーに長蛇の列はできなかったが、11日に開催したプロゲーマーをゲストに招いたステージイベント「ストリートファイター6 タイプアーケード トーク&エキシビションマッチ」には相応の来場者が集まっていた。本イベントはネットでライブ配信もしていたので、この機会を利用して本作のゲームシステムの解説や、稼働日が家庭用の発売日と同時期になるのかなど、もっとアーケード版に注目してもらえるような情報を発表してほしかった。
コナミアミューズメントのブースで開催された、同社が手掛けるeスポーツ大会「BEMANI PRO LEAGUE」のエキシビションマッチなどの関連ステージイベントは、おそらく今回のJAEPOでは最多の来場者を集めていた。
プロゲーマーたちの好パフォーマンスもあって、イベントの盛り上がり自体には文句のつけようがなかった。ただ欲を言えば、本イベントを通じて来場者にもライブ配信の視聴者にも、本大会の概要や選手たちがゲームセンターとどのような関係にあるのかをもっと伝えてほしかった。
そう考えた理由は、ほぼ毎日どこかのゲームセンターに足を運んでいる筆者であっても、本大会や選手たちの存在を客に知ってもらうために積極的なアクションを起こしている店が、本大会に参戦中のオペレーター(※)の直営店であっても非常に少ないように思えるからだ。
※筆者注:本大会に参加する選手たちは、オペレーターが結成したチームに所属したうえで参戦している。
せっかくアーケードゲームを使用した競技大会を開催しているのに、ゲームセンターに足を運んでも本大会の存在が身近に感じられないのはあまりにももったいない。今後も本大会を長く続けていくのであればプレイヤー人口の増加、ひいては対象ゲームの設置店舗のインカム(売上)向上にもつながるビジネスモデルの構築を考えるべきではないだろうか。
次回は実施内容を刷新、開催時期も11月に変更
毎年2月に、2日間にわたり開催するのが恒例だったJAEPOだが、次回は11月25日に1日だけの開催となり、運営スタイルも大幅に変更することがJAIAからすでに発表されている。
JAIAの発表によると、今回の入場者数は2日間合計で14,374人で、前回(2020年)の15,241人には及ばなかった。
今回はコロナ対策のため、前回までは販売していた当日券を用意せず、前売り券だけを販売して定員をオーバーしないようにコントロールしていたので、前回の数字を下回ったのはしかたがないだろう。むしろ、コロナ禍にあって前回とほぼ変わらない来場者数だったのは、業界にとって明るいニュースとなったように思う。
円安などに起因する景品や輸入機材のコスト上昇に加え、電気代の高騰という予期せぬ出来事にも見舞われたアーケードゲーム業界。まだまだ予断を許さない状況が続くが、次回以降のJAEPOでも我々をあっと驚かせるような、楽しいゲームやサービスを披露することを大いに期待したい。
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