天の川銀河はラニアケアの10倍巨大な構造の一部だった!?最新地図により驚愕の新事実が判明
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「最新地図と天の川銀河に関する新事実」というテーマで解説していきまそ。
遠方銀河の特異速度の分布を研究している「コズミック・フロー」という研究グループは、天の川銀河から比較的近くにある約5万6000個の銀河の運動を測定しました。
その結果、驚くべき事実が浮かび上がってきました。
なんと天の川銀河はこれまで考えられていたより10倍も大きい、超巨大な銀河の集団の一員である可能性が浮上してきたのです。
今回の話題はこれを理解するための前提知識が多めなので、まずはそれらを丁寧に解説します。
●宇宙の大規模構造の動き
私たちが住む地球は太陽系に属しており太陽系は天の川銀河と呼ばれる銀河に属しています。
そして宇宙には膨大な数の銀河が存在していて、それらは銀河の集団を形成しています。
重力で拘束し合う銀河の集団を銀河群、重力で拘束し合うより大規模な集団を銀河団といいます。
太陽系が属している天の川銀河も100個ほどの銀河とともに局部銀河群、英語で言うとローカルグループと呼ばれる銀河群に属しています。
また局部銀河群も、より大きなスケールで見た時にさらに大きな銀河の集団の一部にすぎず、銀河群や銀河団の集合体である超銀河団を形成しています。
そして宇宙は、膨大な数の銀河が集まった「銀河フィラメント」と呼ばれる領域と、銀河がほとんど存在しない「ボイド」と呼ばれる領域が複雑に入り組んだ構造をしており、その構造は泡に例えられます。
泡の表面が銀河が密集している領域で、泡の中の空洞にあたる部分がボイドです。
このように非常にマクロなスケールで宇宙を見たときに現れる、泡状構造を「宇宙の大規模構造」と呼んでいます。
○銀河フィラメントの流れを知る
膨大な数の銀河が織りなす「銀河フィラメント」には、重力によって生じる「流れ」があります。
あらゆる銀河は、周囲と比べて特に高密度で重力的な影響が大きい領域である「引力の盆地(Basins of Attraction, BoA)」に向かって流れているのです。
この流れの分布を理解することは、宇宙の大規模構造の特性や、さらにはダークマターの性質といった、宇宙論の根源的な問題を解決する上で非常に重要になります。
この宇宙は膨張しており、その効果で自分を中心として遠くの天体ほど速い速度で遠ざかっています。
この宇宙膨張に起因する後退速度は、「ハッブル流」と呼ばれています。
それに対して宇宙にあるあらゆる天体は、近所にある銀河や銀河団などと重力的に作用しあうことによる運動もしています。
これを「特異運動」と呼びます。
地球から遠方の銀河の光を分析し、どれくらい波長が伸びているのか(赤方偏移しているか)の情報から、地球に対する後退運動が分かった時、そこからハッブル流の成分を差し引いて残ったものが特異運動です。
天の川銀河から比較的近場にある様々な銀河の特異運動を調べることで、銀河フィラメントの「流れ」を把握しようという試みが行われているのです。
●天の川銀河の所属に関するこれまでの理解
○超銀河団について
マクロなスケールの宇宙の話でよく耳にする「超銀河団」とは、自身の重力で拘束された銀河の集合体である銀河群や銀河団が、さらに大規模に集まった、より巨大な銀河の集合体です。
超銀河団は近傍の天体から重力的な影響を受けるものの、銀河群や銀河団のように、構成する銀河同士の重力で束縛し合っているわけではありません。
そのため最終的に宇宙膨張と共に広がっています。
また超銀河団は銀河群や銀河団と異なり、明確な定義が存在しません。
そのためどこまでを一つの超銀河団とするかの線引きは難しいものがあります。
実際には例えば近くにある銀河の集合体や、同じ「引力の盆地」から引っ張られる銀河の集合体で一つの超銀河団としてまとめられるケースが多いようです。
○おとめ座超銀河団について
おとめ座超銀河団とは、天の川銀河が属する局部銀河群を含む超銀河団で、局部超銀河団とも呼ばれています。
おとめ座超銀河団は不規則な形状をしていますが、直径が1億光年以上もあります。
100個程度の銀河群や銀河団を含んでおり、その総質量は太陽1000兆個分とも言われています。
おとめ座超銀河団の中心付近には、天の川銀河からおとめ座の方向に約6500万光年彼方にある「おとめ座銀河団」と呼ばれる、約2000個もの銀河が重力的に拘束し合っている巨大な銀河団が存在します。
おとめ座超銀河団を構成する全ての銀河は、なんと超銀河団の中心部ではなく、超銀河団の外にある特定の重力源から引かれるような運動をしていることが知られています。
おとめ座超銀河団全体を引っ張る巨大重力源は、「グレートアトラクター」と呼ばれています。
○真の超銀河団「ラニアケア」
グレートアトラクターに引っ張られている天体は、おとめ座超銀河団を超える範囲にまで分布していました。
天文学者たちが個々の銀河の運動を詳細に調べた結果、なんと直径5億光年以上、おとめ座超銀河団の100倍以上も広大な領域にわたって存在するあらゆる天体が、グレートアトラクターに引き寄せられていました。
この2014年に新たに発見された、グレートアトラクターに引き寄せられる全ての銀河の超巨大な集合体は、「ラニアケア超銀河団」と命名されました。
ラニアケア超銀河団はおとめ座超銀河団を拡張した概念なので、当然おとめ座超銀河団を内包しています。
さらにはグレートアトラクターも、ラニアケア超銀河団に内包されています。
ラニアケア超銀河団では直径5億光年を超える広大な範囲に10万個以上もの銀河が存在しており、その総質量は太陽の10京倍とも言われています。
ラニアケア超銀河団の内外では天体の運動の方向性が全く異なっているため、このラニアケア超銀河団こそが「真の超銀河団」と呼ばれることもあるようです。
なおグレートアトラクターは非常に巨大な質量を持っており、その正体は恐らく超巨大な銀河の集合体ですが、地球から見て観測困難な天の川銀河中心方向(天の川)の裏側に位置しているため、現在でもその性質は深い謎に包まれています。
●最新地図から新事実が判明
遠方銀河の特異速度の分布を研究している「コズミック・フロー」という研究グループが、天の川銀河から比較的近くにある約5万6000個の銀河の運動を測定した結果、驚くべき事実が浮かび上がってきました。
この研究成果は2024年9月にnatureの論文で公表されています。
なおこの最新の地図では、天の川銀河から見た後退速度が約3万km/s以内の銀河の、特異速度の分布が示されています。
○新事実について
今回の研究により、グレートアトラクターを含むラニアケア超銀河団全体が、同じ場所に向かっている可能性が新たに示されました。
行く先は、1930年代に発見され、ラニアケアの10倍の体積を持つことで知られている「シャプレー超銀河団」です。
少なくとも6億5000万光年にわたる、近隣の宇宙で最も大きな銀河の集中地帯です。
最新の研究により、天の川銀河を含むラニアケア超銀河団全体は、シャプレー超銀河団の一員である可能性が浮上したということになります。
この新たなシナリオが正しい具体的な確率は約60%とのことです。
なお近傍の大規模構造には、より巨大な構造も存在しています。
その名は「スローングレートウォール」というもので、シャプレー超銀河団よりもさらに2倍以上巨大とのことです。
○今後の課題
もし天の川銀河がラニアケアよりもはるかに大きな引力の盆地の一部であるとすれば、現在の宇宙論モデルでそれほど巨大な構造を上手く説明できないという問題が生じます。
また最新の地図においては遠方の銀河ほど情報が不確定で、さらに最新の地図の範囲は観測可能な宇宙全体のほんの一部に過ぎないため、今後さらに高精度でより巨大な範囲の地図の生成が求められています。
とてつもなくマクロなスケールにおける宇宙の構造とその運動に関する、今後の情報に期待です。
今回紹介したような「宇宙の地図」は、私たち一般人でも宇宙の姿を理解するのに役立つ貴重なものです。