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突然届いた督促状~知らないと怖い!「相続分の放棄」と「相続放棄」は大違い!

竹内豊行政書士
「相続分の放棄」と「相続放棄」は大違いです!十分気を付けましょう。(写真:イメージマート)

山下健次さん(仮名・43歳)は、ひと月前に父・昭一さん(仮名・享年83歳)を亡くしました。亡くなる直前まで元気で、朝食を食べている最中に突然倒れて脳いっ血であっけなく亡くなってしまいました。相続人は母・静江さん(仮名・78歳)と兄・健一さん(仮名・47歳)、そして次男・健次さんの3人です。

健一さんは独身で父母と同居していました。これからは母親と二人で生活していくはずです。一方、健次さんは妻と子ども2人の4人家族です。

そこで、「親父の遺産はどれだけあるのかわからないけど、兄貴は今まで親の面倒を看てもらっているし俺は遺産をもらえる立場じゃないよな・・・」と考え、相続を放棄することに決めました。

「相続放棄」は手続きが面倒

そこで、健次さんは、相続をどのようにしたら放棄できるのか調べてみました。すると「Yahoo!くらし」の「相続の放棄の申述」というホームページで「相続放棄」の方法が書かれていました。しかし、相続関係を証明するために被相続人(死亡した人)の生まれてから死亡するまでと相続人の戸籍を集めたり、相続放棄の申述書を作成して家庭裁判所に提出しなければならないなど、面倒な手続きが待っていました。

「相続分の放棄」を選択

仕事が多忙を極めていた健次さんは「これは面倒だな。もっと簡単な方法はないかな・・・」と思いさらに調べてみました。すると「相続分の放棄」というものを見つけました。

この方法は、家庭裁判所に申請する必要はなく、「私は、亡父・山下昭一の相続につき、その保有する相続分の全部を放棄いたします。」といった「相続分を放棄する」という内容の書面を作成し、その書面に、実印を押印して印鑑証明書とともに他の相続人に届けるだけですむのです。

「これは簡単だ!」と健次さんは、さっそく書類を作成して印鑑証明書とともに兄・健一さんに書留で郵送しました。「これでよし!あとは兄貴とお袋で遺産を分け合ってくれればいい」と健次さんはスッキリした気持ちになりました。

突然届いた督促状

父・昭一さんが亡くなってから半年が過ぎたある日、健次の自宅に貸金業者から突然「督促状」が届きました。健次さんは「新手の詐欺だな」と捨てようとしましたが、念のため開封すると、なんとそこには「亡父・昭一さんが貸金業者から生前借りていた1千万円の内、健次さんの法定相続分・4分の1に相当する250万円を支払え」という内容でした。

「そういえば、親父はギャンブル好きだったよな。まさか借金までしてのめり込んでいたとは・・・。いやまてよ、俺は『相続分の放棄』をしたんだから無関係ないんだ!」と思いついた健次さんは、さっそく貸金業者に電話をしました。そして、自分は「相続分の放棄」をしたのだから関係ないので兄と母親と話し合ってくれと伝えました。すると貸金業者の担当者から信じられない言葉が返ってきました。

「そちらさまがされたのは、『相続放棄』ではなく『相続分の放棄』ですね。それでは債務は法定相続分をご負担いただくことになります。期日までにお支払いいただきますようお願いいたします」と言って取り付く島もなく電話を切られてしまいました。

果たして、貸金業者から告げられたとおり、健次さんが行った「相続分の放棄」では亡父親が残した借金を背負わなくてはならないのでしょうか。

「相続分の放棄」とは

「相続分の放棄」とは、相続財産に対する法定相続分を放棄する意思表示をいいます。つまり、健次さんは「相続分の放棄」をすることで「私の相続分(4分の1)を放棄します」と意思表示したことになります。

「相続放棄」と「相続分の放棄」の違い

「相続分の放棄」は「相続放棄」と同じように見えますが、次のような違いがあります。

・相続放棄では、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述を行うことが必要です(民法915条)。

一方、相続分の放棄では、時期に制限はありません。また、方式も問われませんが、通常は署名押印(実印)された書面で行われます。

・相続放棄は、相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示です。つまり、相続財産(プラスの財産)も相続債務(マイナスの財産)も共に承継を拒否するものです。

一方、相続分の放棄は、あくまで相続財産の承継を放棄する意思表示であり、相続債務についての負担を免れるものではありません。

「相続分の放棄」では借金から逃れられない

このように、相続分の放棄では、被相続人が残した負債から逃れることができません。

もし、「亡親の遺産はいらない」というのなら、家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことをお勧めします。相続放棄をすれば、「まさかの借金」を背負う心配はありません。手続きは多少面倒でも、それだけの効果は期待できるということですね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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