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現役競走馬とレースや競走馬の生産から離れた馬の権利や立場はどう違う?【馬の権利の線引きについて】

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
撮影 Laura Battiato

馬はライフタイムにより所有者が変わることが多い

 日本の競馬で走っている競走馬には必ず血統書と所有者である馬主が存在する。そして、馬は民法上では所有者の"モノ"として扱われる。そして、馬にまつわる案件は所有者である馬主に許諾を得る。しかし、競走馬の場合、ライフタイムにより所有者が変わることが多いため、案件に対する線引きが難しいのだ。

競馬のレース前の取材の重要性

 まず、競馬にまつわる権利について解説する前に、競馬のレース前の取材がいかに広告的な意味を持っているかを書いておく。

 筆者は競馬サークルに30年以上おり、東西トレセンを中心に取材活動をしてきた。トレセンでは競馬に出走予定の馬の状態についての取材はかなり協力的だ。JRAの売上はここ数年3兆円を超えているが、この産業を支えているのは馬券売上だ。したがって、馬券購入のための参考情報は欠かせないものとなる。日刊紙と専門誌がそれぞれ記者クラブを持っており、JRAと密に連絡をとりあい、日々の競馬新聞などの情報媒体の作成に勤しんでいる。筆者のようなフリーの取材者も媒体と協力しながら取材を行っている。

 特に関西は昭和時代、シンザンを育てた名伯楽である武田文吾師がマスコミとの共存共栄を説いた影響もあり、武田文吾一門を中心に伝統的に取材には協力的だった。ファンの拡大が競馬の売上と社会における認知につながる。昭和時代は特にギャンブルへのダークなイメージが強かったから、マスコミを通じて競馬を知ってもらうことでファンが増え、イメージアップにも繋がるとされていた。

 ただし、レースとは関連性の薄い行事などにおける権利は別だ。プロ野球選手をはじめ世界のプロスポーツのように騎手の肖像権やパブリシティ権は守られており、日本騎手クラブや各個人事務所や芸能事務所等が管理している。

 一方、ややこしいのは競走馬の権利だ。

競走馬と元競走馬の案件に対する線引き

 昨今、競走を引退した馬たちがフィーチャーされている。特に人気ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の影響は大きく、数十年前に活躍した競走馬たちが俄然クローズアップされている。

 先に書いたとおり、馬は民法上では"モノ"である。つまり、所有権の持ち主は、その"モノ"に対して全面的に直接支配する権利を持つ。競走馬はレースを引退した後は、種牡馬や繁殖牝馬となったり、乗馬や養老馬になるが、この馬たち(以後、元競走馬とする)の権利はどう線引きされているのだろうか。

 筆者も競走馬や元競走馬に関するグッズ製作等を行っているので、その中で認識していることを解説する。

 一般的に、現役競走馬時代に関連する案件は現役時代の馬主に許諾を得る。その勝負服のデザインはその時代の馬主に帰属するし、華々しい優勝実績も現役時のものだからだ。一方、勝負服やレースの優勝実績とは直接的に関係のない案件ついては、その時代に馬を所有している人に許諾をとるケースが多い。これが基本的な線引きだ。

 馬の所有者と繋養されている牧場が異なる場合は、馬の所有者に許諾をとり、撮影が必要な場合は管理者である牧場と調整する。

 しかし、このように基本的な線引きはあれど、実際に元競走馬にまつわる物を制作する際も、現役競走馬時代に所有していた馬主に確認してもらったり、許諾を得たりすることは多い。この世界は狭いし、その馬がいちばんフィーチャーされたのは現役時代だからだ。特にその馬にとって今必要なノベルティではなく、一般的な売り物であれば、なおさらだ。

 取材についても、気を遣う。トレセンから離れた馬を取材し、媒体に掲載するときは取材対象者に対して声をかけている。トレセン内では「取材=掲載」が前提であり、先に説明したとおり、その行為が馬券売上にもつながるので好意的だ。しかし、元競走馬の場合、取材対象者には直接的な"見返り"がない。見返りどころか、取材行為が馬の所有者の迷惑につながることさえある。

 このように、現役競走馬とレースや競走馬の生産から離れた元競走馬とでは、バックボーンがまるで異なるし、権利も複雑だ。

 昨今、同人誌やグッズ製作等で元競走馬を扱うケースがある。グッズ製作は明らかな商用だし、同人誌も商業誌と同様に"商用"であることに変わりはないので、こういった案件を成立させたい場合は、まず企画書等で所有者に事前に相談した上で話を進めてはいかがだろうか。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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