日本サッカー協会は正しいKPIを提示せよ ハリルホジッチ監督解任から3週間が経過
ハリルホジッチ氏がサッカー日本代表監督を解任されてから、3週間が過ぎた。
これまでの出来事を時系列に簡単に振り返ると以下のようになる。
- 4月9日 日本サッカー協会(JFA)田嶋幸三会長による契約解除の会見(直後に筆者が書いたコラムはこちら)
- 4月12日 後任の西野朗監督の会見(記事はこちら)
- 4月15日 会長のNHKのスポーツ番組への出演(出演時の文字起こしはこちら)
- 4月20日 ハリルホジッチ氏来日 空港での囲み取材(記事はこちら)
- 4月27日 ハリルホジッチ氏の会見(筆者がサポーターとして質問した経緯を説明したブログ)
- 4月30日 セルビア人記者による電話独占インタビュー公開
特に最後の記事は、会見で明かされるべきだった内容がほぼ網羅されており、非常に示唆に富むインタビューである。未読の人は是非読んでほしい。
この3週間でこれだけ様々な情報が公にされても、ハリルホジッチ氏解任の理由は「選手とのコミュニケーションや信頼関係が薄れてきたこと」の一点である。
この解任理由が、いかに常軌を逸しているかをビジネスの視点から解説する。
日本サッカー協会はKPI設定ができていない
それなりに社会経験を積んだビジネスパーソンならば、KPIという言葉を聞いたことがあるだろう。Key Performance Indicatorの略で、日本語に訳すなら重要業績評価指標、つまり組織における業績評価を定量的にはかるための指標のことを指す。
例えば企業の営業担当ならば、毎月の売上高、獲得顧客数などが指標となる。この数字が評価に直結し、来季のサラリーや昇進人事などに反映される。
評価する側とされる側がお互い納得できるように、定量的な数値を用いるのが特徴的だ。数字で表される「実績」は嘘をつかないからだ。
今回の監督解任劇に照らし合わせてみると、田嶋幸三会長の説明によれば、JFAが日本代表監督を評価する際に使うKPIが、単なる定性的な心証で済まされている、ということになる。
想像してほしい。あなたは、とあるプロジェクトのマネージャーを任されたとしよう。3年間の長期プロジェクトにおいて、2年目に訪れたマイルストン(大きな節目)で、本番コンテストの参加権利獲得という「中期目標」を達成する。その後、いざ本番に向けて着々と準備を進めていたら、本番2カ月前に突然「あなたはクビです」と宣告される。理由は「一部の部下とのコミュニケーション不足です」と。
そんな理不尽な理由で解雇されることが、あっていいのだろうか? 定性的な「部下の文句」で解雇が決定されるなんて、組織として絶対にあってはならないことだ。
実際にハリルホジッチ氏は会見で、「解任の本当の理由を明かしてほしい」と語っている。
JFAが陥っているのは「手段の目的化」
ここでまた、ビジネスの基本中の基本である概念、「PDCAサイクル」を用いて解説する。
PDCAサイクルとは、目標地点を定め(Plan)、その目標へ向かい(Do)、その時点での達成度をはかり(Check)、改善(Act)するサイクルのことを指す。このサイクルを正常に回すには、まずは「現在位置」を正確に把握することが重要であり、その把握のために用いられるのが前述のKPIである。
KPIの設定が誤っていれば、コンパスの壊れた船のように、現在位置がわからず、海を漂流することになる。
「コミュニケーションを円滑にすること」が目標の達成度合いを測る指標になるなんて、有り得ない。本来なら「予選突破」だったり「勝率」だったり、もしくは「ワールドカップ本番の成績」だったり、誰もが納得感のある定量的な指標が用いられるべきだ(ハリルホジッチ氏の場合、本番での最終評価を待たずしてクビを斬られてしまった)。
PDCAサイクルのCheck(評価)ステップにおいて、間違った評価軸を用いているため、そこから形成される改善策(Act)が「次の監督もコミュニケーションが円滑に取れる日本人監督で」となってしまった。この方針変更は、絶望以外の何ものでもない。
グローバル化、ボーダレス化が叫ばれる21世紀において、今更「オールジャパン」という標語を使って、「鎖国路線」に舵を切ることがいかに愚策かは、論じるまでもない。
まさにJFAが陥っているのは「手段の目的化」である。目標に到達するためのプロセス(手段)に固執するあまり、手段そのものが目的化されてしまう由々しき事態である。
「もう過ぎたことを蒸し返すのはよそう」なんて言っていては、日本サッカー界の未来はない。JFAの意思決定プロセスが改善されるまで、我々サポーターも含め異を唱え続けていくことこそが、最終的に日本代表強化に繋がると信じている。