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前期チャンピオン藤井聡太竜王(19)白熱の終盤戦を制して朝日杯2回戦進出 船江恒平六段(34)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月16日。愛知県名古屋市・名古屋国際会議場において第15回朝日杯将棋オープン戦1回戦▲藤井聡太竜王(19歳)-△船江恒平六段(34歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は12時4分に終局。結果は95手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 また同時におこなわれた▲永瀬拓矢王座(31歳)-△阿久津主税八段(39歳)戦は12時6分、125手で永瀬王座が勝ちました。

 2回戦の藤井竜王-永瀬王座戦は、同日このあとおこなわれます。

藤井竜王、白熱の終盤戦を制する

 対局開始前におこなわれた振り駒の結果、先手は藤井竜王に決まりました。

 後手番の船江六段は横歩取りに誘導します。近年、横歩取りは先手に分があると見られています。しかし後手の方からも常に新研究が示され、決定的な結論が出ているわけではありません。朝日杯は持ち時間40分の早指し。そうした条件であれば、深くまで研究している側にアドバンテージがあるかもしれません。

船江「自分の指したかった戦型になったので、そこまではよかったんですけど」

藤井「本局、序盤から船江六段に積極的に動かれて、少し苦しいという感じ。自信のない形勢が長かったかな、と思うんですけど」

 藤井竜王は中盤、惜しみなく時間を使います。どんな時間設定でも強い藤井竜王ですが、藤井ファンから見れば、はらはらする進行だったかもしれません。

 42手目。船江六段は決断して飛車をぶつけます。残り時間は船江17分、藤井4分。藤井竜王は時間を使い切って、あとは60秒未満で指す「一分将棋」となりました。

 両者ともに妥協なく踏み込んで、手数としては短いうちに終盤戦に。互いに相手玉に迫り、一手を争う状況となりました。

 53手目、藤井竜王は盤上中央の角を取るか、それとも相手玉近くの金を取るか。そこで金を取った手が船江六段の意表を突きました。

船江「途中からちょっと、自分の考えてなかった手を指されて」「金取られたんですけど、そのときちょっと、びっくりしたんですけど。びっくりしてるようでは将棋は勝てないですね」

 船江六段はそこで残り時間6分をすべて使い、両者ともに一分将棋に。そして54手目、相手陣に飛車を打ち、王手をかけました。

 藤井竜王が詰将棋が得意なことはよく知られています。一方で、船江六段もまた同様。両者ともに解くのも早く、また創作者としても優れた作品を残しています。

 両者ともに決定的なミスはなく、勝敗不明の寄せ合いとなりました。一分将棋の中、観戦者もドキドキするような戦いが続きます。そしてそこから抜け出したのは、藤井竜王でした。

 79手目。藤井竜王は歩を成って相手玉に迫ります。自玉が詰まないと判断しての、正確な見切り方でした。

 95手目。藤井竜王はじっと端1筋の歩を突いて、相手玉を受けなしに追い込みます。船江六段は攻防ともに見込みなしと判断。ここで投了しました。

藤井「終盤はけっこう粘り強く指すことができたのかな、というふうに思います」

船江「チャンスはあったような気もするんですけど、なんかわからなかったです。最後は力の違いを見せつけられました」

 両者の通算対戦成績はこれで藤井竜王の3連勝となりました。

 朝日杯2回戦は藤井竜王と永瀬王座という、タイトルホルダー同士の組み合わせとなりました。船江六段は現地大盤解説を担当します。

船江「しゃべる方が好きなので、そちらでがんばります」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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