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東京五輪約1年延期で「HARUMI FLAG」の引き渡しと価値はどうなる

櫻井幸雄住宅評論家
東京五輪開催が1年延期。すると、選手村マンションの引き渡しはどうなる?筆者撮影

 東京五輪の1年程度延期が決まった。

 そうなると、気になるのが、選手村マンションとして分譲が進んでいる「HARUMI FLAG」がどうなるのか。まだ、正式発表はないので、今後の動きは推測するしかない。推測によっては、「購入者が損をする」とか「価値が大幅に下がる」というものも出てきそうだ。そこで、冷静に今後の動きと、それによる価値の変化について考えてみたい。

 まず、これから始まることになっている新規の販売は、五輪開催時期に合わせて延期されることが予想される。もともと、新規販売は、今年3月下旬に行われる予定だった。それが、新型コロナウィルスの影響で、6月に延期。その6月からさらに延期される可能性があるわけだ。

 新型コロナウィルスと五輪延期による動揺が収まるのを待ち、仕切り直すほうが売り手にも買い手にもよいだろう。

すでに販売済み住戸の引き渡しは?

 当初の予定では、2020年五輪開催で「HARUMI FLAG」への入居は2023年3月。五輪終了後、約2年半かけて内部のリノベーションを行ってから、引き渡しとなる計画だった。

 選手村としての建物は、1人部屋として細かく分けられている。それを、2LDK以上のゆったりした住戸につくりかえ、浴室やトイレ、洗面所、システムキッチンの設備機器もまったく新しいものを設置。内装もピカピカの新品にする。この作業を4000戸以上の分譲住戸すべてに行うので、それくらいの期間が必要だと計算されたからだ。

 その東京五輪が1年程度延期される見通しになった。すると、単純に考えれば「HARUMI FLAG」の引き渡しも1年先延ばしとなり、2024年春。さらに単純に考えれば、これからの販売も1年先延ばしとなり、来年春再開と計算できる。

 以上は、五輪開催が約1年延期された場合の、単純計算。実際には、売り手側の努力や都合というものがあるはずなので、そのとおりにはいかないだろう。

 たとえば、これからの販売は1年もあけず、3ヶ月から半年程度先から、一度に売り出す戸数を減らして再開するかもしれない。もちろん、それは新型コロナウィルスの感染拡大が収まったのを確認して、という前提付きだが。

 それよりも、気になるのは、すでに契約済み住戸の引き渡し時期だ。

五輪延期でも、引き渡しは延期しない可能性も

 「HARUMI FLAG」では、すでに第1期の販売が行われ、約900戸が契約済みだ。

 入居時期が延びると、いくつかの支障が想定される。といっても、当初の入居時期に合わせて、「今の持ち家を売ってしまった」「今の賃貸住宅の契約を解除してしまった」という人がいるかどうか……当初の入居予定時期2023年3月までまだ約3年あるので、すでに売ってしまった人や賃貸契約解除してしまった人がいるとは考えにくい。

 想定される支障としては、賃貸暮らしの場合、更新料を1回多く支払わなければならないケースがあるかもしれない。入居を待っている間に住宅ローンの金利が上がるのではないか、という不安もあるだろう。

 一番困るのは、子どもの小学校入学が2023年4月で、その前月に入居できるから、と「HARUMI FLAG」を購入した人。もし、入居が1年遅れたら、とりあえず別の小学校に入学し、1年後に転校ということになりかねない。せっかくできた友達と別れさせるのはかわいそうという声も出てきそうだ。

 「HARUMI FLAG」への入居が1年延びたら、困る人も出てくるだろう。そこで考えられるのは、すでに契約を終えている第1期の購入者用住戸はリノベーション工事を先行させ、当初の予定通り2023年3月に引き渡すことだ。それ以外の住戸は、順次リノベーション工事が完了した棟ごとに引き渡しを行う。

 もともとの計画では、4145戸の分譲住戸をすべて2023年3月に引き渡す予定だった。それをやめて、できあがり次第、順次引き渡しにする方式にすれば、すでに契約した人たちは約束通りの時期に入居できることになる。

 ちなみに、「HARUMI FLAG」では、2棟の超高層棟(計733戸)があり、その引き渡し時期は2024年9月の予定だった。

「HARUMI FLAG」の完成予想模型で、中央部で乳白色の建物になっているのが、2棟の超高層棟。販売に関してはまだ“白紙”状態だ。筆者撮影
「HARUMI FLAG」の完成予想模型で、中央部で乳白色の建物になっているのが、2棟の超高層棟。販売に関してはまだ“白紙”状態だ。筆者撮影

 この2棟は選手村として使われることなく、まったくの新築マンションとして販売されるもので、当初から五輪閉幕後に建設工事が始まることになっていた。そのため、五輪開催が1年延期されれば、着工も1年延期され、それに準じて販売も延期されるので、五輪延期による影響なしといえるだろう。

急いで工事して、ミスの心配は?

 五輪終了後に工事が始まる超高層棟はともかく、選手村として使われた中層棟について、順次引き渡しで工事を急ぐと、建物の質が低下するのではないないか、という不安を抱く人も出てきそうだ。

 が、その点も心配はいらない。というのも、「HARUMI FLAG」は、現時点で基本構造はすでにできあがっている。東京五輪後に行うのは、間取りの変更や内装、設備の設置など内部の造作工事だけ。そのため、工事を急いだからといって、建物が傾いたり、雨漏りがするようなことは生じない。

 今回、東京五輪の延期は1年程度となる。1年であれば、上記のようなやりくりが可能だ。これが、もし2年の延期だったら、さらに多くの問題が生じることになっただろう。

 すでに契約した人が当初の予定通りに入居でき、これから販売される住戸には五輪延期から導いた入居時期が示され、それを納得した人が購入することになる。この手順で販売が進められれば、「五輪延期」という不測の事態が「HARUMI FLAG」の価値を落とす可能性は低い。

 東京五輪、そして「HARUMI FLAG」は、新型コロナウィルスに揺さぶられたイベントであり、マンションということになりそうだ。それらは、新型コロナウィルスなどには負けなかったことの象徴になってほしい。そうするために、関係者の大きな努力がこれから始まろうとしている。

 

 

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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