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英語で「おもてなし」なんて要らない。日本語でどんどん話しかけよう

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:英会話で「おもてなし」(読売新聞)

昨日、日本橋駅のA3出口を出たあたりで、地図をグルグル回している白人のおばさんを見かけた。道に迷っているようだ。どうしようか。「May I help you?」だけ流暢な英語で話しかけて、早口でいろいろ言われたら聞き取れなくて恥ずかしい思いをする。いつものように無視して通り過ぎてしまおうか……。

学生時代にベトナム旅行をしたときのことを思い出す。ハノイ市内の公園付近で道に迷い、華僑っぽいおじいさんの二人組に話しかけた。おじいさんたちは中国語らしき言葉であれこれ教えてくれる。地図はあったのでなんとか意思疎通ができた。

そこにベトナム人のおじさんたちがやってきて、「そんなのはでたらめだ。オレが教えてやる」(ベトナム語なのでわからなかったがたぶんそんな意味)と言い始めた。華僑のおじいさんたちは激怒し、路上で言い争いが始まる。近くにいた人たちも集まってきて、なんだか民族紛争のような様子になってしまった。

ケンカは良くないけれど、言語や民族の多様性を肌で感じる機会になった。彼らが英語に通じていたらこのような経験はできなかった。一方で、僕が中国語やベトナム語に流暢だったらもっと興味深い体験ができたかもしれない。

今朝の読売新聞の都民版によると、舛添新都知事は東京五輪に向けた英会話のレッスンを推進するらしい。競技場や選手村が整備される地域でほぼ無料の英会話教室を開く。「高齢者にとっては、英会話のレッスンが認知症予防になり、6年後の五輪が目標になる」とのこと。大きなお世話だ。

東京に滞在していると、他人への親切を進んで実行している人は決して多くないと感じる。老人に席を譲らない、重そうな荷物を持って階段を上がっている女性を見ても知らんぷり。混雑している場所では平気で人を押しのけながら歩いて、ぶつかっても謝りもしない。見知らぬ人とコミュニケーションをして恥をかいたり面倒なことになったりするのをひたすらに避けているようだ。

このような東京で英会話を推奨しても、外国人との心理的な距離がますます開くばかりだと思う。「こないだ習ったあの英語表現を使おう」などと思っているうちに話しかけるタイミングを逸してしまう。訪日客の割合は中韓両国の人が多数派なのに英語だけを勧めるところもいただけない。国際化は、英語能力などではなく、他者と人間的な関わりができるか否かにかかっていると思う。ここは日本なのだから、堂々と日本語で外国人に親切にしよう。

冒頭の白人おばさんに僕は「ご案内しましょうか?」と日本語で話しかけた。おばさんはホッとした表情で地図を見せながら、「Tokyo Station?」とだけ尋ねた。おばさんは英語ネイティブかもしれないけれど、僕は英会話が得意でも好きでもないことがわかったのだと思う。僕は右手で方向を示し、「トーキョーステーション」と答えた。おばさんは笑顔、僕もぎこちない笑顔。そして別れた。僕はホテルマンではない。一般人による「おもてなし」は日本語で十分だと確信している。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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