羽生竜王のタイトル通算100期に試練―竜王戦七番勝負展望
10月11日に開幕する第31期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)は羽生善治竜王(48)にとってタイトル獲得通算100期の大記録がかかっている。
羽生竜王に次ぐ記録は大山康晴十五世名人(1923年~1992年)の80期。第3位が中原誠十六世名人(71・引退)の64期と差が開く。
挑戦者の広瀬章人八段(31)は2010年に王位の獲得実績があり、タイトル戦登場は今回で4回目。この夏から秋にかけ自己最多の11連勝(10月8日現在・継続中)を記録し順位戦A級でも3勝1敗と好調を維持している。
現在の調子では広瀬八段が圧倒
今回の七番勝負はズバリ広瀬八段有利と見る。理由は最近の両者の調子の差だ。
<羽生竜王の最近10局>
7月17日棋聖戦五番勝負第5局
対豊島将之八段 ●
7月20日棋王戦本戦
対宮田敦史六段 ○
7月23日NHK杯
対高野智史四段 ○
7月26日順位戦A級
対糸谷哲郎八段 ●
8月8日順位戦A級
対深浦康市九段 ○
8月15日王将戦2次予選
対佐藤康光九段 ○
8月30日王将戦2次予選
対広瀬章人八段 ●
9月10日棋王戦本戦
対広瀬章人八段 ●
9月15日日本シリーズ
対豊島将之棋聖 ○
9月21日順位戦A級
対久保利明王将 ○
<広瀬八段の最近10局>
8月27日竜王戦挑戦者決定戦第2局
対深浦康市九段 ○
8月30日王将戦2次予選
対羽生善治竜王 ○
9月6日竜王戦挑戦者決定戦第3局
対深浦康市九段 ○
9月10日棋王戦本戦
対羽生善治竜王 ○
9月14日叡王戦予選
対中田宏樹八段 ○
9月14日叡王戦予選
対野月浩貴八段 ○
9月19日順位戦A級
対阿久津主税八段 ○
9月28日王将戦リーグ
対郷田真隆九段 ○
10月2日王位戦予選
対千葉幸生七段 ○
10月5日順位戦A級
対三浦弘行九段 ○
羽生竜王は今年度に入ってから名人戦七番勝負で佐藤天彦名人に2勝4敗で挑戦失敗。棋聖戦五番勝負では豊島将之八段(当時)に2勝3敗で敗れ失冠、夏前までは負け越しだった。
夏以降復調し直近6勝4敗と上り調子ではあるが、挑戦者の勢いと比べると見劣りする。8月以降広瀬八段との直接対決で先手番を持って2連敗しているのもマイナス材料だ。
シリーズ序盤で広瀬八段が先行するようなら、星が開いてのタイトル奪取も十分考えられる。
接戦になれば羽生竜王の経験が生きる
羽生竜王防衛のシナリオを予想すると、こちらは一進一退の接戦から番勝負の経験を生かして抜け出す展開が考えられる。
データからは本棋戦に関し羽生竜王は最年少獲得19歳(1989年)と昨年の最年長獲得両方の記録を達成しており相性が良いだけでなく、過去の対戦成績も羽生が15勝8敗と大きく勝ち越している。
ただし、初の公式戦手合いとなった2010年から翌年まで広瀬が3連勝(前年の新人王戦記念対局・非公式戦を含めると4連勝)、その後羽生9連勝もはさんで今年に入ってからは広瀬の2連勝と星が偏る傾向があり、第1局が流れを左右する大一番になるだろう。
戦型は相居飛車中心か
広瀬といえば初タイトルを獲得したころの四間飛車穴熊と、王手のかからない穴熊玉の特徴を生かした独特の終盤感覚が印象的で『四間飛車穴熊の急所』など穴熊関連の著書が多い。しかし近年は相居飛車の将棋を指すことが多く、振り飛車穴熊は「裏芸」としてめったに用いない。
今回のシリーズでも角換わりを中心とした相居飛車を志向することだろう。
敗れればほぼ28年ぶりに無冠となる羽生竜王にとって今シリーズはまさしく「背水の陣」。研究時間にまさる若手に対抗するため、特に苦戦の続く後手番ではあっと驚くような秘策が見られるかもしれない。