あまりに「お母さんファースト」の彼。不安になって婚約を破棄しました(「スナック大宮」問答集24)
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京・西荻窪、愛知・蒲郡、大阪・天満のいずれかで毎月開催している。2011年の初秋から始めて、すでに90回を超えた。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。本連載「中年の星屑たち」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接に聞けておしゃべりできるのが嬉しい。
初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。
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「私ファーストな人だ」と相手を喜ばせるのが人たらしの特徴
「結婚を考えていた彼がいました。でも、あまりにお母さんファーストなんです。この先の生活に自信が持てなくなり、私から婚約を破棄しました」(38歳の独身女性)
世の中には「人たらし」と言われる人間が一定数いる。もちろん、悪い意味ではない。他人に対して細やかな気遣いを忘れず、縁を太く強くしようとする人々だ。彼らの特徴は、気遣いの受け手に「こんなに気を配ってくれるなんて、この人は私に惚れているのかな。とにかく私ファーストな人だ!」と嬉しい錯覚をさせること。
筆者の友人にも人たらしの男性がいる。営業職で責任のある立場にいるのでもはや職業病なのだろう。年に数回会って飲み交わす程度だが、飲み会の前後には心のこもったメールをくれたり気の利いたお土産をくれたりするのだ。美辞麗句や高級品ではなく、筆者の近況や趣味嗜好を思いやったうえでの文面と品物だとわかる。人間なら誰でも持っている承認欲求を満たすのが、最高の気遣いなのかもしれない。
彼にとって筆者は友人の一人に過ぎない。おそらく彼は少なくとも数十人に対して同じように気を配っているのだろう。その中には、当然ながら配偶者や両親も含まれる。彼は人を喜ばせるのが好きなのと同時に、人間関係をできるだけ円滑にしておくと仕事や生活が豊かになりやすいことを知っているのだろう。
結婚する前から成熟している男性は上手に浮気をする可能性大
母親にとって息子は「最高の恋人」とよく言われる。理性では息子にとってお嫁さんが一番だとはわかっていても、感情的には自分に甘えてほしいし自分を大切にしてほしいのだ。
よくできた息子であれば、母親と一緒にいるときは妻のことなどはあまり話さない。わずかな時間でもいいので「お母さんファースト」の息子を演じる。
そして、自宅に帰れば母親のことはすっかり忘れたような顔になり、妻や子どもに朗らかに接する。ちょっとしたお土産も忘れないだろう。このときに彼は心身ともに「家庭ファースト」の人間になっている。
冒頭の女性が婚約破棄をした男性は、良くも悪くも未熟なコドモなのだと思う。おそらく母親から過干渉をされて育ったのだろう。「お母さんファースト」の一面をよりによって婚約者に見せてしまった。ちょっと可愛いけれど、アホである。
ただし、結婚する前の段階で、常に「私ファースト」で振る舞ってくれて、仕事もできて、親きょうだいとの関係も良好で、友人もたくさんいるような男性は、「私」という結婚相手の助けを借りずに成熟しすぎているようにも思う。すでに様々な顔を使い分けられる大人であるため、上手に浮気をしている可能性も高い。
未熟なところがある者同士が肩を寄せ合って、たまにはケンカをしながらも支え合い、それぞれが大人になっていく。それが結婚だ。粗削りだけれどキラリと光る部分がある原石を見つけて、自分好みに磨いていくことを楽しむ過程が結婚生活だとも言える。
マザコンの男性は女性に弱くて心優しい傾向がある。そんな石を拾い上げ、自分も彼に拾い上げてもらい、お互いに切磋琢磨していく道もあるかもしれない。