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『M-1 2023』敗者復活戦、他大会彷彿のルール改革で「脱人気投票」「出番順の有利・不利解消」

田辺ユウキ芸能ライター
(C)M-1グランプリ事務局

『M-1グランプリ2023』の決勝進出者が12月7日に発表され、ダンビラムーチョ、カベポスター、くらげ、マユリカ、ヤーレンズ、真空ジェシカ、さや香、令和ロマン、モグライダーの9組がファイナリストとなった。12月24日の決勝戦では敗者復活戦の勝者1組を加え、計10組が第19代王者をかけて漫才を披露する。

決勝進出者の顔ぶれはもちろんのことだが、決勝進出者の発表会見で特に目を引いたのが、敗者復活戦のシステムが大幅に変更されるというアナウンスだ。

これまでの敗者復活戦では、エントリーした十数組が一気にネタを披露し、すべてに順位を付け、そのなかのトップが決勝へ駒を進めていた。その審査は、現地で鑑賞している観客と視聴者によるネット投票でおこなわれていた。

ただ今回は、敗者復活戦のエントリー者たちをA、B、Cの3つのブロックに7組ずつ振り分け、そのネタをランダムに選ばれた現地の観客が審査・投票し、各ブロックから1組ずつ通過者を決定。絞られた3組は、あらためて芸人審査員が審査し、そこでファイナリストが決まる。

つまり2023年大会の敗者復活戦では「予選審査」と「決戦審査」の2つの審査が実施されることになる。さらにA、B、Cブロックでの戦い方に関しても、まず「1組目対2組目」がおこなわれ、その勝者が3組目と激突し、さらに勝ち上がった方が4組目と対決する「勝ち残りのサバイバル方式」が採用される。

「人気投票」と揶揄される審査方法を変更、「視聴者投票」廃止の背景とは

2022年大会の決勝3位、ロングコートダディは準決勝で敗退。敗者復活戦へまわることに/(C)M-1グランプリ事務局
2022年大会の決勝3位、ロングコートダディは準決勝で敗退。敗者復活戦へまわることに/(C)M-1グランプリ事務局

SNSでは、敗者復活戦の大幅なルール変更がかなり好意的に受け止められている。それにしてもなぜ好評なのか。

新ルールで支持を集めているのが「審査」である。従来の敗者復活戦は、前述したように視聴者らのネット投票の票数で順位が決められていた。ただ、そういうルールの性質上、一般的な知名度が高かったり、ファンを多数持っていたりする芸人が有利とも言われ、「人気投票」と揶揄されることもあった。そのほか「この芸人が敗者復活戦を勝ち上がったらドラマがある」という過度な感情が入って審査される場合も考えられる。特にネットによる「視聴者投票」は誰でも気軽に参加できることから、その日のパフォーマンスの良し悪しとは別の作用が働く可能性があった。特にお笑いは生の空気感がとても大事。それを視聴者が画面越しで審査するのは問題でもあった。一方、『M-1』を国民的行事にしていくためには、こういった視聴者を巻き込むシステムも間違いなく必要だった。

今回、その「視聴者投票」を廃止した背景には、審査の透明性や公平性を求めたほか、『M-1』がすでに国民的行事として認知されたという判断からきているのではないか。また敗者復活戦にエントリーする芸人たちも、今回の審査方法であれば、「ちゃんと実力で判断される」と納得できる要素が以前より増えると思われる。なにより「決戦審査」をお笑い芸人が担当することで、これまで問題視されていた人気投票的な要素はかなり薄れると予想される。

『THE SECOND』『THE W』を思わせるシステムを導入

さらに興味深いのは、敗者復活戦の新ルールが他のお笑いの大会の成功例を参考・導入したように見える点だ。

現地の観客を信頼する形の審査方法は、2023年に始まった芸歴16年目以上の芸人が対象の『THE SECOND』をモチーフにしているように思える。『THE SECOND』は、現地にいる100人の観客に持ち点が与えられ、それを各自が振り分けながら審査・採点するもの。大会や番組の制作側もお笑いファンの“目”を信じて採点を託し、結果的に成功を収めた。『M-1』敗者復活戦の新ルールはランダムで選ばれた観客の審査・投票なのでニュアンスはやや異なる。それでも、『THE SECOND』と同じく“本当”のお笑いファンたちが重責を担う内容となっている。

「サバイバル方式」は、女性芸人による大会『THE W』を彷彿とさせる。同大会の審査方式は何度かモデルチェンジを繰り返しながら、大型賞レースのなかでも独自の路線を確立させた。2019年から2021年までは決勝進出者10組がA、Bの2ブロックに分かれて「サバイバル方式」がおこなわれていた。そして2022年は決勝進出者12組がA、B、Cの3つのブロックに分かれて戦った。お笑いの賞レースではよく「出番順の有利・不利」の話題があがるが、同方式を採用する『THE W』はそれが少ない傾向がある。これまでの『M-1』の敗者復活戦では十数組がぶっ通しでネタを披露するので、1組目や最終組が不利に働く場合が大きかった。「サバイバル方式」導入はそういった出番順の有利・不利に配慮したのではないか。

今回の敗者復活戦の新ルールは、現時点で「最良」と言っても良い。11月には、敗者復活戦の定番だった屋外会場から屋内会場への変更が発表された。屋外特有のネタ中の音のトラブルも起きづらくなり「公平性」が高められた。今回の「観客審査」「サバイバル方式」で敗者復活戦はますます充実度が増した。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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