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Mrs.GREEN APPLEのMV公開停止、“コロンブス問題”を知っていたかどうかは説明するべき?

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:イメージマート)

3人組バンド、Mrs.GREEN APPLEが6月12日に披露した、楽曲「コロンブス」のミュージックビデオの内容が「差別的である」として公開停止となった。

また「コロンブス」をキャンペーンソングとして起用するコカ・コーラは、「いかなる差別も容認しない」として同曲を用いた全広告素材の放映を停止。さらに6月14日出演の音楽番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)では同曲と5月リリースの「Dear」を演奏する予定だったが、所属事務所であるユニバーサルミュージックの申し入れにより「Dear」のみに。このように各方面へと影響が広がっている。

これを教訓として、どのように今後へ繋げていくか

今回の問題点の一つは、「コロンブス」を楽曲の題材にしていたこと。かつてコロンブスは「アメリカ大陸発見の偉業を成し遂げた英雄」として見られていたが、近年、その一団が先住地を侵略・植民地化し、先住人を奴隷として扱ったと認識されるようになった。そういったことから、アメリカでは祝祭日となっていたコロンブス・デーも数年前より取りやめる動きもあるほど。

もう一つの問題点は、「コロンブス」のミュージックビデオのストーリーだ。歴史上の人物に扮したMrs.GREEN APPLEのメンバーが、島へやって来て、そこで暮らす猿を人力車の引き手として使ったり、文化や学問を教えたりする場面が登場。これが植民地支配、西洋中心主義の肯定を連想させるという指摘があがった。

Mrs.GREEN APPLEとユニバーサルミュージックは6月13日午後、「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていたため、公開を停止することといたしました。公開前の確認が不十分で、皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」と声明を発表した上で、ミュージックビデオの公開を停止した。

テレビのニュース番組やネットニュースなどでも大々的に取り上げられている、この問題。ただもっとも重要なことであり、しかしいまいち言及されていないことは「これを教訓として、どのように今後へ繋げていくか」である。

ミュージックビデオの制作、内容に不備があっても立ち止まりづらい実情

ここでまず触れておくべきなのは、ミュージックビデオの制作過程だ。

ミュージックビデオは本来、アーティストとディレクター(監督)たちの話し合いのもとで、作品のメッセージ性、ストーリー案、構成などが練られ、企画(企画書)が作られていく。絵コンテも描かれ、予算規模によっては事前に代役を使った“試し撮り”などもおこなわれる。そうやってカット割なども確認された上で撮影へ入っていく。

メジャーアーティストのミュージックビデオとなると、かなりの数の関係者と予算が費やされ、撮影と編集が実施される。完成後も、その内容に“危うさ”はないか、いわゆるコンプライアンス的な部分も確認される(それでもテレビ番組ほどの体制が敷かれるわけではなく、あくまで“チェック”程度が多い)。

一方、工程がたくさんある割に、時間面は決して十分とは言えない場合が多々ある。筆者もいくつかのミュージックビデオに携わったり、もしくは取材をしたりしているが、いずれも相当なスピード感が求められる印象だった。ミュージックビデオの公開日がきっちり設定されていると、内容に不備があったとしてもそこで立ち止まりづらいのが実情である(もちろん状況によるが)。

意思決定の面では、楽曲の生みの親であるミュージシャン側、予算を出している事務所側の意向がやはり強くなりがちだ。そのため、ディレクターや制作スタッフが内容に違和感を持っていたとしても、なかなか言い出しにくいことも考えられる。

コロンブスのことをどのように捉えて曲とMVが作られたかの検証と説明

Mrs.GREEN APPLEのようなメジャーミュージシャンのミュージックビデオであれば、やはり、相当な数の関係者が関わっているはず。ただ、関係者が誰一人としてミュージックビデオの内容や、そもそもの問題となった「コロンブス」という楽曲のワードやテーマに異論が唱えられなかったこと(もしくは異論があっても企画が通ったこと)を考えると、言い出しにくさがあったのか、もしくは昨今の“コロンブス問題”について全員知らなかったとするのが妥当だ。

「全員知らないなんて、さすがにそんなはずはない」とも思える。だが、過去にニュースにもなっているとはいえ、これが日本で暮らす人たちにとっての現実なのかもしれない。かつては義務教育でそのように教えられていなかった。現在は興味がある話題だけをネットニュースのなかからチョイスして読み、またSNSで流れてくる情報を中心にして知識を蓄えることが増えてきた状況から、“コロンブス問題”は思っている以上に日本において馴染みが薄いものなのかもしれない。

今回のMrs.GREEN APPLEの「コロンブス」はまさに、そういった部分からくる知識のなさが招いた出来事である。そうなると、「ミュージシャンやミュージックビデオ制作者たちが“コロンブス問題”をどれだけ知っていたか」「英雄視されていたイメージが止まったままで楽曲やミュージックビデオが作られたのではないか」という説明と検証も必要に思える。

特にMrs.GREEN APPLEは影響力がきわめて強いミュージシャンだ。前述した部分が明らかにされないまま、楽曲の存在が広がってしまうと“同じこと”の繰り返しになってしまう。

炎上や批判を受けてミュージックビデオが公開停止になったわけではないこと

あと、同件を報道する側、SNSユーザーの言及・批判の仕方にもやや違和感を覚えてしまう。

報道面でいうと、「炎上や批判を受けて公開停止が決定された」と思わせる記事の見出しや内容が少なくないこと。この問題はあくまで知識の欠如から起きたものだ。それを前提として「公開停止になった」ということをはっきり伝えないと、ミスリードを起こしかねない。あとやはり、コロンブスが現在の国際社会でどんな風に捉えられているか知らなかった人もきっといるはず。同件のなにが問題なのかいまいちつかめていない人も然り。そういう状況のなかで「炎上や批判を受けて公開停止が決定された」と思わせる報道内容(特に見出し)は、誤った認識を招きかねない。

また一部のSNSユーザーからは、炎上を焚きつけているような投稿がなされている。無知さをバカにしたり、見下したり、皮肉ったりする投稿も数多い。上から目線で「こんなことは常識なのに」と言っているだけでは、当然ながら今後には繋がらない。SNSでも言及されていることだが、“コロンブス問題”を知らなかったというユーザーも意外と多くいる。つまり「果たしてどれだけの人が、詳しく“コロンブス問題”を説明できる状態にあっただろうか」ということになる。

そんななかにあって、Mrs.GREEN APPLEとユニバーサルミュージックの対応は、早急かつ真摯的であった。おそらくこの経験をもとに、差別や人権についての認識を深めながら作品づくりに取り組んでいくことだろう。

ただ、バンドの公式ホームページに記載された文を読むと、「差別的な意図や悲惨な歴史を肯定する考えはなかった」「配慮が足りていなかった」としているものの、説明にまわりくどさも感じられ、分かりづらさがあった。ミュージシャン側が明らかにした方が良いのは「知っていたかどうか」という認識面である。それによって批判の角度もまた変わるかもしれない。それでもその点をはっきりさせることが、バンドの今後のためにも、そして「“コロンブス問題”について今回初めて気づかされた」という人のためにもなるのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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