山本裕典はホスト企画で再び脚光、渡部建・宮迫博之は地上波復帰で明暗 不祥事タレントたちの現在地
「僕なんか一回、干された人間だし、終わった人間なんでどうでもいいんですけど、街歩いてても忘れられてた山本裕典が思い出されているんですよ。忘れられてたのに。めっちゃ感謝してて」
2023年11月7日放送『愛のハイエナ』(ABEMA)の企画「山本裕典ホストになる 第7弾」のなかで、俳優の山本裕典は涙ぐみながらそのように語っていた。
同企画は、山本裕典がホストとして奮闘する姿に密着するドキュメンタリー。シリーズ1では東京・歌舞伎町、シリーズ2では大阪・ミナミのホストクラブに勤務。客のなかには、山本裕典が出演したテレビドラマの視聴者も来店。「会えて嬉しい」と喜ばれながらも、それが売上に繋がらないのがホスト業界の厳しいところ。山本裕典はそういった壁に何度もぶち当り、もがき苦しむ。
『愛のハイエナ』の企画「山本裕典ホストになる」が好評を集める3つの理由
そんな「山本裕典ホストになる」が現在、話題を集めている。いずれの回も他企画と併せて放送されているが、2023年8月29日放送回は148万視聴、2023年10月10日放送回は135万視聴、2024年6月11日放送のシリーズ2最終回も78.6万視聴を記録するなど大ヒット。
度重なる女性スキャンダル、コロナ禍での不謹慎とされる行動などで、業界から距離を置かれるようになった山本裕典だが、同企画をきっかけに再び脚光を浴びることに。そういった反響を受け、記事冒頭の言葉が山本裕典の口から出た。
この企画が人気になっている大きな理由は3つ。
1つは、指導にあたるホストクラブのプロデューサー、“軍神”こと心湊一希のアドバイス。「前提の言葉を使って(客を)褒める。かわいいねとか短文で褒めちゃだめだよ。『ショートカット似合うね』って(ではなく)、『ショートカットってかわいい女の子しか似合わないよね』っていう言い方をする」(2024年5月21日放送回)など、対人関係をうまく進める上で私たちも活用できそうな教えも多い。
2つめは、ライバルたちの存在。歌舞伎町のホストクラブでの勤務当初、芸能人である山本裕典を敵対視する先輩ホストたちが多数いた。なかでも店舗売上上位の爆撃竜馬は「俺らガチでプライド持ってやってるんで。ここに撮影しに来たんだったら、俺らは歌舞伎町を変えようとしてる店なんで。生半可で来てるんだったらさっさと帰って欲しいなって俺はぶっちゃけ思ってます」(2023年8月29日放送回)と挑発。そうやって煽っていた先輩ホストたちも、徐々に山本裕典のがんばりを認めるようになり、いつしか良いライバルに。強敵が仲間になっていくような少年漫画的展開が、観る者の胸を熱くさせた。
最後は、山本裕典の人間味だろう。これまでチヤホヤされてきた人生とあって、他人を褒めることがうまくできないところ。先輩ホストに煽られるたびに、喫煙所でタバコを吸いながらストレートな暴言を吐くところ。大笑いすると「ブヒッ」と鼻が鳴るところ。かつて肉体関係を持った来店客がいることを告白するところ。みっともなさも含めて赤裸々にさらけ出している点が、視聴者に愛されるようになった。
そしてなによりトータルしてすごいのは、山本裕典をキャスティングした番組の企画力だ。「イケメン」「元大人気俳優」「不祥事タレント」という肩書きが揃っているからこそ成立する内容であり、これらをクリアしている芸能人はなかなかいない。そして、それにピッタリと当てはまる山本裕典が、芸能人という立場とホストという仕事の狭間で揺れ動き、そのプライドが砕けていく。そういう様子がバラエティ番組として痛快だ。
ABEMAの番組企画、ワケありなタレントの弱みをおもしろさに変える
ABEMAは山本裕典然り、なんらかのトラブルによって敬遠されている顔ぶれを各番組に積極的に起用している。不祥事などを起こしたタレントの弱みや後ろめたさをうまく使い、それぞれのキャラクターに合った企画を生み出している。今やABEMAはワケありなタレントの“再生工場”になっている。
“再生”の筆頭格はアンジャッシュの渡部建だろう。2020年の不倫スキャンダル発覚で活動を自粛し、2022年2月15日放送『白黒アンジャッシュ』(千葉テレビ)で復帰したものの、地上波のテレビ番組はかつてのように起用しづらい状況に。
しかし同年11月、ABEMAの『チャンスの時間』に出演。MCをつとめる千鳥のノブが、相方・大悟からマイク越しで指示を受けながら渡部建に対してダメ出しや無茶振りする企画のなかで、恐縮しながらも時折苦虫を噛むような表情を浮かべる渡部建の“返し”が爆笑をさらった。
同番組はその後も、まさに不祥事を起こした渡部建の弱み、後ろめたさにつけこんだ好企画を連発。彼の新たな能力を開花させた。そういった流れが、千鳥がメインキャストをつとめるNetflix『トークサバイバー2』(2023年)への出演にも結びついたと言え、そこでもあらためて渡部建のトークテクニックの高度さが示された。2024年6月21日放送『5時に夢中!』(TOKYO MX)で地上波のテレビ番組への本格復帰が発表されたが、その背景の一つにはABEMAの“再生能力”があるのではないか。
地上波復帰を果たす渡部建と明暗を分けたのが、霜降り明星・粗品との舌戦でネットニュースを賑わせた元雨上がり決死隊の宮迫博之だ。
闇営業騒動以降では初となる地上波テレビ番組への出演を自身のYouTubeチャンネルで発表するも、番組の放送局である千葉テレビが「オンエアの予定はない」と否定。放送予定日の直前に起きた前代未聞の“収録回お蔵入り”は、さまざまな憶測を呼ぶことに。
ちなみにABEMAは2021年8月17日、同局と吉本興業の公式YouTubeで配信された『アメトーーク 特別編 雨上がり決死隊解散報告会』に携わったものの、以降は宮迫博之と直接的な絡みはなし。山本裕典、渡部建ほか、不倫でバッシングを浴びた東出昌大(『世界の果てに、○○置いてきた』シリーズなど)、洗脳騒動があった元オセロの中島知子(2022年7月25日放送『ぜにいたち』)、当て逃げ事件を起こしたFUJIWARAの藤本敏史(2024年5月26日放送『チャンスの時間』)らもキャスティングしたABEMAですら、宮迫博之には声をかけていない。
ABEMAの各番組には吉本所属の芸人も多数出演していることから、どうしても配慮するところが出てくるのだろう(そしてこれを一括りに「忖度」「圧力」と批判するのは疑問がある)。
不祥事タレントはいったいどのようなやり方で、どんな過程を踏むことが望ましいのか
筆者は2024年、ネタバトル番組『千原ジュニアの座王』のプロモーションでMCの千原ジュニアにインタビュー。不祥事を起こしたTKOも出演した同番組とあって、千原ジュニアは「なにかやらかした芸人はまず『座王』に出たらええんちゃうかな。とりあえずフジモンには『座王』で復活してもらって」と、当時謹慎中だった藤本敏史へオファーすることを示唆していた。
ワケありのお笑い芸人が情報番組でコメントしたり、バラエティ番組のひな壇に並んでいたり、いかにもタレント的な動きをするのは「観たくない」と思う視聴者もいるだろう。だからこそ、芸人の根幹であるネタで勝負すれば良いという千原ジュニアの考えには頷けるものがあった。
一方、そんな藤本敏史をめぐっては、地上波復帰番組となった2024年3月23日放送『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)で、マヂカルラブリーの野田クリスタルが「こんなに不祥事ばっかり起こして、吉本の芸人。当然のように戻ってくるのをここで処理するシステムができるのが、俺、許せないんですよ」「ここに出てきたら全部すっきりするみたいなのも鼻につくんですよ」と視聴者の声を代弁。それに同意する声がたくさんあった。
一度、不祥事を起こしたタレントは、テレビ視聴者らからも「観たくない」と嫌悪感をあらわにされることが多い。地上波復帰を発表した渡部建にも抵抗感を示すコメントが多数見られ、藤本敏史などへの反感の声も根強い。
不祥事タレントは再び表舞台に立つ際、いったいどのようなやり方で、どんな過程を踏むことが望ましいのか。山本裕典のホスト企画を鑑賞すると、視聴者も思わず感情移入してしまうような挫折やがんばりを分かりやすく伝えることが、抵抗感をやわらげる一つの鍵になるのかもしれない。