ニルヴァーナのジャケ写、モデルが児童ポルノと提訴 日本で摘発はあり得る?
30年前に全裸の赤ちゃんがジャケット写真に使われた米国のロックバンド、ニルヴァーナのアルバムを巡り、そのモデルだった男性が性的搾取の児童ポルノだと主張し、損害賠償を求めて元メンバーらを提訴したという。
自ら再現した過去も
発端は大ヒットアルバム「ネヴァーマインド」のジャケット写真であり、全裸の赤ちゃんがプールの中で1ドル札の方を見ながら泳いでいるものだ。性器まで見えている。
撮影当時、男性は生後4ヶ月、ニルヴァーナはまだマイナーなバンドであり、男性の両親が200ドルで撮影を了承した。その後、全世界で3000万枚以上を売り上げたが、男性が見返りを得ることはなかった。
そこで今回の提訴に至り、他界したリードボーカルの遺産管理人や元メンバーら15人に対し、それぞれ15万ドル(約1650万円)の損害賠償を求めている。
ただ、この男性は、ジャケット写真によって生涯消えることのないダメージを負わされ、苦しめられたと述べる一方で、これまでアルバム発売の周年記念に合わせ、水着姿で同じポーズを再現した写真の撮影に何度も応じている。
何でも裁判になる訴訟社会の米国らしい話であり、和解的解決を含め、裁判所がいかなる判断を下すのか注目される。
性欲を興奮・刺激するものか
では、日本でこのアルバムを購入し、愛聴しているニルヴァーナのファンが児童ポルノの単純所持罪で摘発されることはあり得るのか。
児童買春・児童ポルノ禁止法が規制する児童ポルノのうち、次のような児童の姿が描写されたものと言えるか否かが問題となる。
「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態で、ことさらにその性的な部位(性器、肛門、乳首、それらの周辺部、臀部、胸部)が露出又は強調されており、性欲を興奮させ又は刺激するもの」
性器や乳首が見えているのは生後4ヶ月の赤ちゃんであり、それでも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と言えるだろうか。
同じ禁制品でも覚醒剤のように化学的鑑定によって判別することができないから、撮影の目的や経緯、状況、画像の外形、描写の方法や程度などを総合的に考慮し、「一般人」を基準として判断すべきことになる。
そうすると、問題のジャケット写真については児童ポルノには当たらないと見るべきではないか。現に警察もこれまで警告などを出していない。全裸で沐浴をしている幼児の画像は児童ポルノではないとした地裁の判決もある。
性的好奇心を満たす目的が重要
ただ、一般人の基準によると、本来なら摘発を要する事案が野放しになるといった指摘もある。一般に乳幼児に対する性的虐待を見て目を覆いたくなることはあっても、性欲が興奮・刺激されることなどないからだ。
そこで、次のような理由を挙げ、公衆浴場の男湯で入浴している女児の画像を児童ポルノだと認定した高裁の判決がある。
「低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても、普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば、それらの画像は、一般人を基準としても、『性欲を興奮させ又は刺激するもの』である」
この理屈を強調すると、世の中には生後4ヶ月の赤ちゃんの全裸姿を見て性欲が興奮・刺激される小児性愛者もいるから、問題のジャケット写真を児童ポルノと見る余地が出てくる。
しかし、たとえそうであっても、単純所持罪が成立するには、自己の性的好奇心を満たす目的が必要不可欠だ。ファンとして視聴するためにアルバムを所持している場合にはこの目的に欠ける。犯罪は成立せず、摘発されることもない。(了)