いまだ健在!芸能人をかたるサクラ詐欺メールは、手口を変えて巧妙化!被害者に話を聞きました。
芸能人になりすましたメールを誰もが一度は受け取ったことがあるのではないでしょうか。
もしかすると、「お金をだまし取る、悪徳なサクラサイト商法はもうなくなった」と思っている方もいるかもしれません。しかし、それは間違いです。いまだ健在で、手口を巧妙に変えながら被害を出し続けています。
そのきっかけは迷惑メール
今から、10年ほど前にこの手口を何度もルポしてきましたが、当時は、芸能人をかたってのメールが私のところにも、たくさん届いていました。その頃人気があったAKB48の「ぱるる」こと島崎遥香さんや、長澤まさみさん、なかには「あなたのオーラがみえます」などと言ってくる美輪明宏さんをかたるものもありました。私は男性なので、女性からのメールが多かったですが、女性の方には、ジャニーズ系の男性アイドルなどになりすましたメールがやってきていました。
たいがい、こうしたメールには「自分には人に言えない悩みがある」という文面とともにURLが載っています。メールが送られてきた人は、芸能人が自分に相談してきたと思いこみ、サイトを訪れて、返信します。
サイトではメールを送信すると、一通あたり500円ほどがかかるようになっています。
つまり、サクラである芸能人と有料メールのやりとりを数多くさせることで、悪徳サクラサイトはぼろ儲けできるようになっています。
メールを送るには、事前にコンビニで電子マネーを買ったり、クレジット決済をして、あらかじめポイントを購入するようになっており、過去には1千万円もの被害に遭った方もいます。
この手口は公に知られて警戒されていたはずですが、このところパターンを変えて送られてきています。
高額な被害に遭った女性に話を聞きました。
きっかけは、Aという男性から送られてきた一通のメールです。
「Bさんに返事をしたいので、返信して下さい。」
(※ 本人が特定されないように、趣旨を変えない形でメール文を変えています)
彼女はただの間違いメールだと思って、無視をします。
それでも、メールは次々にやってきます。
「自分の携帯が壊れたので、アドレスを打ち込んで、借りた携帯からメールしている」
「Bさんとスケジュールを合わせたいので、空いている日はいつか、教えてください」
「Bさんに、時間がどうなったって聞かれていて、困っています。返事もらえますか?」
間違ったまま、何度も自分のところに送信してくるのは、かわいそうだと思い、彼女は「アドレスを間違えてますよ」と返信しました。これがだまされるきっかけとなるとも知らずに。
このように相手の思いやりにつけこんで、だまそうとしてくるわけですが、ここには返信をさせたくなる、もうひとつの罠が仕掛けられていました。
彼女は、先の文面に加えてもう一言付け加えて返信しています。
「もしかして、芸能人の方ですか?」
なぜ、「芸能人ではないか?」と思ったのかといえば、このAとBという人物は、同じ芸能事務所のタレントの名前で、しかもAが送ってくるメールアドレスには、芸能人Aが所属するグループ名を連想させる文字が含まれていたからです。
以前の手口では、なりすます芸能人の名前をダイレクトにタイトルや文面に入れて、メールを送ってきていましたが、今は本人に「もしかして芸能人かも」と思わせるようにしてメールの返信を促すのです。
これは「本人に気づかせて、アクションを起こさせる」という、巧妙なやり口です。
「この人は芸能人かも」と思えば、思うほど、返事をしたい思いに駆られてしまいます。
彼女がメールを送ると、すぐに返信があります。
「間違えてしまい、すみません。教えてくれてありがとうございます」
さらに続けて「間違えた自分が悪いのですが、僕たちのメール内容が公になると、芸能活動に支障がでるので、内緒にしてもらえますか?すみません」
彼女は「誰にも言いませんから、ご安心ください」と返信します。
その後もAからのメールはやまず、「間違いも何かのきっかけなので、メル友になってほしい」「僕の悩みや話を聞いてほしい」と言われます。最初、彼女は「どうしようか」と悩みましたが、有名人と知り合いになれるのなら、損はないと思い、了解しました。
すると、芸能人をかたるAは、「プライべートで使っている、プライバシー保護がしっかりと守られているSNSで、やりとりをしよう!」とサイトへ招待します。ここは出会い系サイトなのですが、彼女はこうしたサイトを使った経験がないため、よくあるSNSだと思ってサイトを訪れます。
すでにサイトには、彼女のIDやパスワードが設定されて、マイページが出来上がっていました。
【注意】
出会い系サイトに登録する際には、法律上、身分証を提示して、18歳以上であることを確認されてから、入会しなければなりません。ところが、本人が入会に同意もしていないどころか、身分証の確認もなされずに登録になっていることは違法であり、こうしたサイトは「悪徳」と見て間違いありません。
その後、彼女はこの芸能人をかたるAと、サクラサイトでメールのやり取りをするわけですが、信じさせるための巧妙な罠が待っていました。
偽造された身分証明証
彼女のもとに、サイトからのお知らせメールが届いたので、サイト内のメールボックスを見ると、「本人証明のために、免許証の写真送ります」とのメールが届いていました。見ると芸能人Aの顔写真つきの運転免許証のほか、直筆のサインが添付されていました。
この時点で別にお金をだまし取られているわけではないので、彼女はますます彼を本物のAと思ってしまうことになります。
Aとメールのやりとりをしますが、最初の10通くらいは、無料でメールのやりとりができました。しかし、そのうちにポイントを買わなければ、メールができないようになります。
このサイトでは、ポイントの単価は125円で、メール送信には5ポイント(625円)がかかるようになっていました。返信するだけでこれだけの金額がかかるわけですが、芸能人とのやりとりゆえ、このくらいになるのは仕方ないかと思い、彼女はクレジット決済や、コンビニで購入したプリペイドカードの電子マネーを使って、ポイントを購入します。
相手に数多くのメールのやりとりをさせるテクニックは昔と変わらず、その芸能人が出演する番組に合わせた話をしたりして、相手からの興味と返信を引き出します。
彼女もAから「これからテレビ番組に出演する」とのメールを受けた時には、「テレビに向かって、手を振って応援してしまいました」と恥ずかしそうに語ります。
時事問題につけこむ
当時、芸能人の薬物使用による逮捕が報道されていました。すると、Aから「自分の周りの関係者が麻薬で逮捕された」というメールが届きます。そして「自分も薬物使用の疑惑がかけられて、捜査対象になっている。自分はやっていないのに」と言ってきたため、心配した彼女は、彼を勇気づけるメールを何度も送りました。
時に、新型コロナも利用してきたと言います。
「自分の芸能事務所から新型コロナ感染者が出てしまった」
ちょうどこの頃、Aの所属グループのライブがコロナの影響で、中止になった時期でもありました。これに便乗したのでしょう。時事問題をうまく絡めながら、相手の心配や関心を誘い、有料メールの返信を促すのです。
アドレス交換のためのガチャを使ったイベントを開催
このサクラサイト商法で被害が高額になってしまう理由に、サイト内で行われるイベントで「コンプリートガチャ」のような手法が使われたことがあります。
ガチャを引き、ある設定条件をクリアすれば、希望の相手とメールアドレスが交換できるというイベントでした。そうすれば、今後、相手の芸能人とお金がかからずに、メールのやりとりができます。
彼女の場合、最初に送ってきたメールアドレスは「芸能事務所から借りた携帯から送っていた」という理由で、すでに使えなくなっていたため、彼女もAのメールアドレスをゲットするために、イベントに参加しました。
「ガチャを引くと、もう少しでアドレスがゲットできる設定が達成できそうな状況になるのですが、その後、何度引いてもクリアできないのです」と当時を振り返ります。
もちろん、これを引くのには、お金がかかります。1回5万円ほどです。
まさに「あと少し、あと少しで達成できる」と気持ちを煽りながら、イベントで多額のお金を使わせてくるのです。芸能人をかたるサクラを使っているところから考えても、おそらく、クリアできないような設定にしていると思われます。
このコンプリートガチャ自体は過去に社会問題となり、違法性があるとして問題となりましたが、サクラサイト商法の中で儲けの手段として、ひそかに使われているのです。
彼女はこうした手法を使われて、貯金を崩すだけでなく、入ったばかりの給料を下ろすなどして、費やした金額が高額になってしまいました。
だましの証拠を残さない巧妙さも
この悪徳サクラサイトでは、気持ちを煽るようなガチャを使ったようなイベントを仕掛けてくるだけではなく、被害の声を上げさせないようにする巧妙さも見えてきています。
サイトに保存されるメールの期間が一定の期間をすぎると消えてしまうようになっていました。被害に遭ったと気づいて、過去のメッセージを見ようとしても、もう見られないのです。
本来、出会い系サイトは法律により、所轄の警察署に届けをださなければならないのですが、それをかいくぐるために、サイトの運営会社の住所は海外になっており、国内の捜査の手が及ばないようにもしています。
4月も終わりに近づき、新型コロナウイルス蔓延の影響で満開のサクラは見ることなく散ってしまいましたが、ネット上のあらゆる場所で、私たちをだまそうとするサクラだけは、季節を問わず、咲きほこっているのです。