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強盗事件の裏にいるもう一つの存在 「犯罪に使われることは一切なし」闇バイトと思わせない道具屋の手口

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

今、強盗事件が多発しています。どうしても強盗の実行犯を募る闇バイトばかりに注目が集まりがちですが、この種の犯罪をなくすためには、もっと事件の手口を深掘りしてみる必要があります。

一連の強盗は特殊詐欺グループがそのノウハウを用いて引き起こしていることは、これまでに指摘してきました。その一つに役割分担をして犯罪を行う点に特徴があることも話しましたが、指示役、強盗の実行役、現場の下見役以外に、忘れていけないものに道具屋の存在があります。
道具屋とは、銀行口座や犯行をする家をターゲットにするための闇の名簿を集めるなど、犯罪を行う上でのツールを提供する存在です。彼らがこの世に存在し続ける限り、強盗や詐欺は起こり続けます。

飛ばしの電話を使っての強盗の犯行

一連の強盗では指示役からスマホを通じて実行役らは指示をうけていますので、身元がわからないようにした飛ばしの電話などを使っているはずです。それに実行犯を闇バイトで募集する上でも「シグナル」という秘匿性の高い通信アプリをインストールしたスマホを使っていることでしょう。

つまり、一連の強盗事件では、不正に入手したスマホなどの通信手段が大きくかかわっており、この根を絶つことこそが、組織的犯行などをなくすために必要なのです。

道具屋とみられる大規模な犯罪グループが摘発

では、犯罪グループはどのようにして不正に通信手段を得ているのでしょうか。先日、道具屋とみられる大規模な犯罪グループが摘発されました。

SIMカード詐取容疑で自称声優ら4人逮捕 特殊詐欺メールに使用か(朝日新聞 2024/10/30)

詐欺グループのメンバー約20人が警視庁に逮捕されています。SIMカードを挿入することでスマホを利用できるようになりますが、メンバーらはこうしたSIMカードを200枚ほど持っていたということです。

道具屋のグループ SNSからLINEの「お小遣い案件案内所」に誘導

2023年の夏頃、道具屋のグループが行っていた思われるSIMカード不正取得の情報提供があり、そこからどのようにして犯罪ツールを手にしていたのかがみえてきています。そこには、闇バイトと思わせない巧妙な手口がありました。

犯罪グループは、SNSに「副業案件の募集」といった書き込みをして、個人のアカウントにつながるLINEのアドレスを載せます。お金を得たいと思う人がLINEで友達登録をすると「お小遣い案件案内所」というところに誘われます。

そこには「コピペ1日5000円~、ストック報酬毎月数千円前後〜、メルカリ毎月1万円」という様々な案件の文言が載っており、「カジノ単発10000円、覆面調査単発1件3000円、時計購入代行単発7.5〜40万円」といった怪しげなものもあります。しかし、それを見ただけでは、どんな内容なのかわかりません。最後には「投資やビジネスの資金不足、支払いが間に合わず困ってる方や、生活費、活動費に困ってる方必見」などと書かれており、お金に困って募集に興味をもった人へメッセージを送らせるような内容になっています。

SIMカードを不正購入させる募集「犯罪に使われることは一切なし」

その一つにSIMカードを不正購入させるものもありました。

内容は次のようなものです。

「初期費用なし、継続費用なし、解約手数料なし、手出し完全無料で毎月報酬が発生する凄い案件になります。報酬は1回線あたり【docomo】5000円」とあり、4回線購入させるようになっています。

さらに「SIMカードを契約して、名義を必要な会社へ貸し出すことで報酬との差額利益を得る仕組み」「犯罪に使われることは一切なし」という記述もあります。また「健全な運用をしておりますため、案件実績は今年で10年目を迎えます!ご安心ください」ともあり、犯罪につながる闇バイトではないと応募者に思わせようとしています。

情報提供者からのLINEの内容・筆者修正
情報提供者からのLINEの内容・筆者修正

「30分でわかる広告案件」の動画には

詐欺などの犯罪グループではマニュアルを使って犯行をしますが、この道具屋とみられるグループも同じで、動画説明のマニュアルを使って、多くの人に不正に契約をさせていたと考えられています。

私の手元には「30分でわかる広告案件」の動画がありますので、その一部を紹介します。

広告案件担当を名乗る男性が説明します。

「個人情報について不安に思う方もいらっしゃると思いますが、本案件以外では一切使用することはないので、ご安心ください。お伺いする内容としては、郵送のやり取りをすることが何回かあるので、住所氏名、電話番号をお伺いします。また、docomoの契約があります。その際、運用に必要な情報を抽出するため、契約時に設定する4桁の暗証番号もお願いいたします。また、個人情報やネットワーク暗証番号など、割と踏み込んだ個人情報のやり取りをするため、メッセージを削除できるテレグラムというアプリでやり取りします」といいます。

ここでも、秘匿性の高い通信アプリを使ってやりとりをすることがわかります。また、暗証番号を言葉巧みに聞き出そうとしています。

SIMカードの契約後、どのように使われているのかを説明

「本案件は3ヶ月から最大2年半ほど続くものとなっております。その間発生する回線維持費は全てこちらで負担するので、完全手出し0円で実施できます。契約は、docomoでSIM契約をしていただきますが、SIMのみ契約は初期費用や解約費用は一切かからないものとなっております」といい「契約は1回線あたり誰でも10分前後で終わるものです。最大4回線契約していただきますが、その後やっていただく作業は特にありません。また、docomoオンラインショップで契約します」といいます。
さらに、SIMカードの契約後、どのように使われているのかを説明します。

「こちらで運用に必要な情報を抽出し、システム運用会社へ共有します。運用会社はシステムを使って、メルマガや占いサイトの配信を不特定多数のユーザーへ配信します。要は、アフィリエイトを、システムを使って自動配信しているので、実施者の方は、契約の作業のみで、あとは何もしなくてもシステムが勝手に収益を得てくれるようになっております。そこで発生した利益の一部を実施者の方へ還元するという流れです」

「違法性はありますか」の質問に対しての答えは?

報酬に関しては「1回線5000円で、4回線の契約できたら最大2万円お渡しします。ただこの中に回線の維持費も含まれているのでご注意ください。あくまで2万円から回線維持費を引いた手残りが実施者の報酬となります」としています。

最後に「よくある質問で『違法性はありますか』というところなんですけども、はっきり(いって)ないです(中略)自分の案件に関しては健全に運用しているものとなります」「本案件は健全に運用しているため、10年以上継続しています」と話し締めくくります。

ここでは違法性がないことをアピールしていますが、自分が使うのではなく、他人に譲渡をする目的でスマホやSIMカードを契約することは犯罪行為に問われます。
「違法ではない」という言葉は真っ赤な嘘

先の道具屋とみられるグループのメンバーらは、携帯電話会社をだましてSIMカードを不正に取得していたとして、詐欺容疑で逮捕されています。

報道でも「特殊詐欺で被害者をだますためのメールを送信するのに使用されていた」となっていることからもわかるように、彼らが語る「違法ではない」という言葉は真っ赤な嘘ということになります。副業やお小遣い稼ぎといった闇バイトとは思わせないような甘い文言で、犯罪の魔の手はやってきます。

今回、逮捕されたグループは、異業種交流会を通じてSIMカードの契約を持ち掛けていたという話も出ています。この動画で説明をしているグループも、一般の異業種交流会を告知するサイトに「30名限定」などという形で募集を出しています。身近なところに、犯罪グループは存在しています。

犯罪行為をしたかもしれないと思う方は、近くの警察署に相談を

すでにSIMカードを契約して、第三者に渡した19歳の男性が警察に出頭しています。

【独自】「今後が怖くなった」闇バイトに応募し加担した19歳男性保護 “何者かに指示されスマホ・SIMカード契約 知らない男に渡した”(TBS NEWS DIG 2024/11/1)

このケースでは、Xでの「運搬」「購入」という募集だったということです。もしかすると、契約した時点では、はっきりと闇バイトだと認識せずに行ったこともありえます。

おそらく多くの方が、犯罪グループからの「違法ではない」の説明を受けて契約を行ったかもしれませんが、その言葉を鵜呑みにしてはいけません。もし犯罪行為をしたかもしれないと思う方は、すぐに近くの警察署に相談をしてください。あなたが契約したSIMカードが、特殊詐欺だけでなく、今回の一連の強盗事件の通信手段に使われている可能性が絶対にないとはいえないからです。
くれぐれも、SNS上に載る気軽な感じでの副業、お小遣い稼ぎには、何かしらの罠が潜んでいるということを、必ず心に留めおいてください。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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