外国人材の受け入れ拡大で、国民も外国人を隣人として受け入れる“覚悟”が必要に
事実上、永住できる外国人の在留資格を拡大
2018年11月2日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案が閣議決定された。外国人受け入れ方針を大転換することになり得る法案だ。この法案は開催中の臨時国会に提出され、可決成立すれば、2019年4月から施行される。新聞報道によれば、2019年度には最大4万人の外国人労働者がやって来るかもしれない。
これまで日本は、「外国人技能実習制度」によって、単純労働と言われる分野で数多くの外国人労働者を受け入れてきた。「外国人技能実習制度」とは、表向きは、日本が先進国として開発途上国の人づくりに貢献するため、実習生を受け入れて技術移転を図る制度である。この制度では、これまで最大5年間しか日本に滞在することが認められていなかった。
今回、示された改正案は、「特定技能1号」「特定技能2号」という在留資格を設けることで、より長く滞在できるように変更するものだ。
在留資格についての改正案の要点は以下の通りだ。
▼特定技能1号
Aルート:一定以上の技能レベルと日本語能力を持つことを試験によって確認
Bルート:3年以上最長5年の技能実習経験により、無試験で取得できる
→ 資格取得後、5年間滞在できるようになるが、家族を呼び寄せることはできない
'''▼特定技能2'号''
Aルート:熟練した技能レベルがあることを試験によって確認
Bルート:「特定技能1」を取得してさらに5年間技能実習経験を積み、試験に合格したら取得できる
→ 在留資格を無制限に更新可能で、事実上、日本に永住可能になる。家族も呼び寄せられる
対象となる業種は、現在、以下の業種が検討されている。
▼特定技能1号/14業種
外食、農業、建設、介護、ビルクリーニング、漁業、飲食料品製造、素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関連産業、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊
▼特定技能2号/5業種
建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊
どの業種のどんな人材が永住可能になるのか不透明
人手不足が続く産業界は、この改正案を歓迎している。しかし、詳細が不透明である点には批判が集まっている。
▼不透明な点
- 対象となる業種は入管法には書き込まれず、法律の成立後、省令で通知すること
- どのような試験を実施するかは検討段階で、実施の見通しが立っていないこと
- 受け入れる外国人の日本語教育の体制、住宅、生活面の支援体制の整備、将来家族を呼び寄せた場合の外国人子弟の教育体制などが、全て未定であること
受け入れ業種や求められる技能が法律で定められていないというのは、今後、法改正なし、つまり国会の承認なしで、いくらでも受け入れ業種や、どのレベルの技能を持つ外国人を受け入れていくかを簡単に変更できるということだ。“外国人受け入れの大転換となる法改正”といわれているのは、こうした点からだ。
また、初年度4万人の受け入れを想定しているとのことだが、もしそれだけの人数の外国人を受け入れるなら、彼らが安心・安全に暮らせる体制を整えておかなければ、結果として、日本人の生活にも様々な影響が出ることが予想される。
外国人技能実習生についていえば、これまで不当な労働条件での労働を強要されるなどにより、勤務先を逃げ出すケースが多数報告されている。2017年10月度末時点での技能実習生総数は約26万人。うち、失踪者の人数は、2018年度の上半期だけで4000人を超えるという。一部には、衣食住に窮した失踪者が罪を犯すケースもあり、見過ごすことはできない。
比較的充実しているEPAでの看護・介護分野の受け入れ体制
一定の受け入れ体制を整備して、外国人労働者を受け入れてきた業界もある。医療介護業界だ。
医療介護業界は、2008年から経済連携協定(EPA)により、インドネシア、フィリピン、ベトナムから看護師、介護士の受け入れを行ってきた。看護3年、介護4年の滞在期間の間に、日本の看護師、介護福祉士の国家試験を受験。合格して資格を取得すれば、「専門的・技術的分野」の在留資格で、更新回数の制限なく在留が認められている。今回、「特定技能2」の受け入れ業種の候補に「介護」が入らなかったのは、すでにこちらで事実上の永住が可能になっているからだ。
EPAでの看護師、介護士の受け入れでは、ベトナムを例に取ると、以下のような手厚い受け入れ体制が整えられている
- 訪日前日本語研修12ヶ月間
- 日本語能力検定N2~3レベル*に達した候補者のみ受け入れ
- 訪日後、日本語研修と、看護あるいは介護の導入研修を実施。日本社会・生活習慣の理解・適応研修も50時間程度実施される
- 就労・研修先の病院や施設で、日本語教育、国家試験受験の支援を受けられる場合も多い
- *日本語能力検定は、N1が最も難しく、N2は「日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる」、N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる」レベル。
EPAで受け入れた看護・介護人材は、日本人と同等以上の報酬等労働条件が義務づけられ、労働者災害補償保険、雇用保険、健康保険、年金保険も適用されている。
外国人労働者を受け入れる覚悟が国民にも必要になる
一方、外国人技能実習制度では、受け入れ機関に「技能実習実施計画」の策定が義務づけられている。しかし、その計画で策定されるのは、技能実習で行う具体的な業務内容だ。「養豚」であれば、「子豚の移動作業」「異常豚の識別作業」「飼料生産作業」など。
来日する外国人は技能習得(人によっては外貨獲得かもしれないが)目的であり、受け入れ機関側は技能実習という名目での人手の確保が主な目的だ。そこに、日本語の習得や日本の生活習慣の理解を図りたい・図らせようという意思は働きにくかった。そのため、5年滞在しても日本語、日本の生活習慣を理解しない実習生も多かった。
今回、創設される「特定技能」の外国人労働者に対しては、この点への配慮が見られる。日常生活、職場、社会生活面での支援を、受け入れ機関または公的な登録支援機関が行うことになるらしい。
これまで、地域での生活面の支援は外国人労働者が暮らす自治体に丸投げの状態だった。今後、多数の外国人労働者を受け入れていくのであれば、多言語に対応できるワンストップでの相談機関の創設など、日本での生活支援の体制を国主導で整えることも必要だ。
今も、ゴミ出しのルールを守らない、夜中まで大騒ぎするなど、在留外国人とのトラブルは多い。しかし、国として、外国人を多数受け入れる方針を固めたのであれば、国民も日本人に代わって労働を担ってくれる外国人を受け入れるという覚悟をせざるを得ない。
そもそも外国人が、細かいゴミ出しルールがあることなど知るはずもない。問題のある外国人もいるが、日本人独特の排他性、無関心にも問題はある。ゴミ出しの仕方や騒音をとがめる前に、生活上、守るべき様々なルールがあることを、在留外国人に隣人として教える姿勢を、今後は個々の住民が身につけていくべきかもしれない。
一方で、もう1点、重要な問題がある。
人手不足の業界・企業は、今回の法改正を大いに歓迎している。しかし、日本人が魅力を感じない仕事を、外国人労働者がいつまでも喜んで担ってくれるとは限らない。各業界・企業は外国人労働者に頼り切らず、日本人にとっても魅力ある仕事・給与体制にしていく努力が必要だろう。