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「一生帰国しない」ガーシー氏 本気の警察を相手に逃げ切れるか、今後の展開は

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 芸能人らを中傷、恫喝する動画の配信に及んだとして、常習的脅迫罪などの容疑で逮捕状が発付されたガーシー前参院議員。この期に及んでもなお「一生帰国しない」「引っ越しします」と述べ、逃亡の意向を示している。

警察の本気度は高い

 ただ、これまでの警察の動きを見ると、本気でガーシー氏を追い詰める意向のようだ。現に関係先の捜索や関係者の取調べを幅広く行うなど、この種の事件にしては立件に向けてかなり積極的で、逮捕を視野に入れた捜査を進めてきた。

 しかも、警察は刑法の脅迫罪ではなく、暴力団の取り締まりなどに使われる暴力行為等処罰法の常習的脅迫罪を適用している。これに名誉毀損罪や威力業務妨害罪、強要罪が加わるが、刑罰を比べると次のとおりだ。

常習的脅迫罪:最高で懲役5年、罰金刑なし

脅迫罪:最高で懲役2年、罰金だと30万円以下

名誉毀損罪:最高で懲役3年、罰金だと50万円以下

威力業務妨害罪:最高で懲役3年、罰金だと50万円以下

強要罪:最高で懲役3年、罰金刑なし

 このように常習的脅迫罪が最も重いし、罰金刑もないから、これで起訴されて有罪になれば、執行猶予の有無を問わず必ず懲役刑に処される。罰金を払って終わりということにはならないわけで、ここからも警察の本気度の高さがうかがえる。

 これに対し、ガーシー氏は任意出頭に応じる素振りを見せるだけで、実際には応じないという姿勢を繰り返してきた。これでは、警察だけでなく裁判所からも罪証隠滅や逃亡のおそれが高いと判断されやすい。

 しかも、除名によって不逮捕特権を有する国会議員の地位を失い、警察としても国会に配慮する必要がなくなったから、除名翌日には早々と逮捕状の取得に及ぶことができた。

旅券の失効で「不法滞在」に

 今後だが、ガーシー氏が国外に滞在している間は時効の進行も停止するので、ゆっくりと時間をかけて捜査することも可能だが、警察はここからピッチを上げていくのではないか。

 例えば、動画配信に関わったとされる共犯の男性の逮捕状も取得しているから、まずはこの人物をガーシー氏から離反させ、捜査に協力させた上で、外堀を埋めることが考えられる。自分まで逮捕されるかもしれないという深刻な事態に至った以上、もはやガーシー氏と心中するつもりなどないだろう。

 併せて、外務省に旅券返納命令を要請し、ガーシー氏の旅券を失効させるとともに、ICPOを介して加盟各国に逃亡者の探索を要請する国際手配に及ぶなど、あらゆる手を駆使してガーシー氏の身柄の確保に努めるはずだ。

 特に効果的なのは旅券の失効である。今回のような国外逃亡のケースの場合、外務省が旅券返納命令を出し、官報に掲載されたのち、一定の期間内に返納されなければ、その旅券は自動的に効力を失う。

 これにより、滞在国から他国に移動できなくさせられるし、滞在国において「不法滞在」の容疑で身柄を拘束してもらい、日本に強制送還してもらった上で、日本に向かう航空機内で逮捕状を執行するといった手だてが可能となる。

 しかも、旅券返納命令に従わなかったということで、単に旅券が失効するだけでなく、旅券法違反として最高で懲役5年に処されることになるから、ガーシー氏の罪をさらに重くさせることもできる。

 レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン氏のように自国民保護の対象となるケースだとその引き渡しも難航するが、ガーシー氏の場合は他国にとって「外国人」にすぎないから、日本と滞在国との外交交渉により、ゴーン氏とは違った展開となるのではないか。

そそのかした者も捜査の対象か

 もっとも、ガーシー氏は「引っ越しのプロやで俺は」と豪語し、滞在国から他国への逃亡まで示唆している。それでも警察は、捜査共助に基づいて関係各国に出入国歴などの情報提供を求めたり、日本の関係者との接点を探るなどし、ガーシー氏の所在を突き止めることだろう。

 国によってはその国への投資額などに応じて市民権を与え、旅券を発給してくれるところもあるし、国際結婚などによって国籍や氏名まで変えるような逃亡者もいるが、警察はガーシー氏がこれらに及ぶ可能性をも想定した上で、先手を打って関係各国に根回しするものと思われる。

 その上で、ガーシー氏をめぐる資金の流れなどの徹底解明を進め、ガーシー氏だけでなく日本にいてガーシー氏にネット中傷などをそそのかした人物や、逃亡を手助けした人物らまで広く捜査の対象とし、その立件を目指すのではないか。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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