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侍ジャパンに挑むアマチュア軍団、「東欧の雄」・チェコ代表を紹介【WBC】

阿佐智ベースボールジャーナリスト

チェコで野球が本格的にプレーされるようになったのは、2度の世界大戦によりアメリカの影響がこの地域にも及ぶようになって以降のことであるという。しかし戦後の国際秩序である冷戦構造は、共産主義、陣営に属したチェコ・スロバキアという国において野球が発展するの妨げた。1970年代になって、両陣営の緊張関係が緩和の兆しを見せ始めると、ようやく野球も「春」を迎えることになる。1979年のオランダへの遠征をきっかけに「西側」との交流が始まり、1989年にはチェコ・スロバキアとして欧州野球連盟に加入する。

冷戦終結後、1993年にスロバキアと分離独立すると、トップリーグとして「エクストラ・リガ」が創設されるなどさらなる強化が図られることになる。そして1997年には、チェコ初のプロ野球選手としてパベル・ブディスキーがMLBモントリオール・エクスポズとマイナー契約を結んだ。

その翌1998年には、欧州各国の強豪によるチャンピオンシップ、ヨーロピアンカップにおいて、ドラッシ・ブルノが3位に入る健闘を見せる。

トップリーグ、エクストラ・リガは、8チームからなり、現在オランダのフーフト・クラッセ、イタリアのセリエAに続く欧州第3のリーグとして国内のタレントを集めている。このリーグでは、外国人選手も採用しており、彼らは有給でジュニアチームの指導などをしながらプレーをする。その彼らの存在はリーグのレベルを向上させ、2000年代に入ると、プロ契約を結んでアメリカへ渡る選手も出はじめる。

その中で、2008年にフィリーズと契約を結んだヤコブ・スラディックは、2012年には来日し、独立リーグ・ルートインBCリーグの石川ミリオンスターズでプレーした。

今回の代表メンバーでも、正捕手のマルティン・セルヴェンカは、2011年から2021年までマイナーリーグでプレーし、3Aまで上り詰めた他、ドミニカのウィンターリーグでも活躍している。

マルティン・セルヴェンカ(テンポ・プラハ)
マルティン・セルヴェンカ(テンポ・プラハ)

もうひとり、ピッチャーのマリク・ミナリクも、2011年から2015年までルーキー級とA級で通算4勝を挙げている。

マリク・ミナリク(テンポ・プラハ)は、現在は不動産業に従事しながらプレーしている。
マリク・ミナリク(テンポ・プラハ)は、現在は不動産業に従事しながらプレーしている。

このような東欧の野球国、チェコだが、WBCには予選が始まった第3回大会から参加している。2012年秋にドイツで行われたこの予選では、ドイツ、イギリスに大敗を喫し、早々に大会の舞台から去ることになったが、4年後にメキシコで行われた第4回大会予選では、地元メキシコ相手に1対2という善戦を演じ、敗者復活戦ではドイツに15対3で大勝し、レベルの上がったことを世界に示した。

今大会は、昨年秋にドイツで行われた予選A組に出場。ラテンアメリカ勢擁するスペインに21対7と記録的な大敗を喫するも、敗者復活決勝戦でそのスペイン打線を1点に抑えリベンジを果たし、初の本戦進出をもぎ取った。

今大会のチェコ代表は、昨年カブスでプレーしたエリック・ソガードの他、数名のマイナー経験者以外は、全てアマチュアという陣容で世界の頂点に挑む。当然のごとく、選手たちは職業をもっているのだが、その様々な仕事がすでに話題になっている。

キャプテンで指名打者のペテル・ジーマ選手は、なんと金融アナリスト。

昨年の予選では4試合全てに出場し、14打数3安打でホームランを1本放っている。

ペテル・ジーマ(イーグルス・プラハ)
ペテル・ジーマ(イーグルス・プラハ)

エースのマルティン・シュナイダー投手は消防士。

予選では2試合に登板。本戦出場をかけた決勝に先発し、スペイン打線を1点に封じ歴史的な1勝を挙げている。

マーティン・シュナイダー(スコカニ・オモロウツ)
マーティン・シュナイダー(スコカニ・オモロウツ)

外野手のアルノシュト・ドュボヴィは高校教師。専攻は、地理と体育らしい。

本戦進出を決めた瞬間はセンターの守備位置にいた。

アルノシュト・ドュヴォイ(ドラッシ。ブルノ)
アルノシュト・ドュヴォイ(ドラッシ。ブルノ)

ピッチャーのルカース・エルコリはサラリーマンとしてマーケティングに従事している。

ルーカス・エルコリ(コトラーカ・プラハ)
ルーカス・エルコリ(コトラーカ・プラハ)

彼ら社会人の他、大学生も在籍している。

ダニエル・パディサック投手は現在アメリカに留学しプレーしている。彼のような選手はWBCでアピールしてメジャー球団との契約に繋げたいことだろう。「見本市」としての性格をもつこの大会において、こういう選手は要警戒だ。

ダニエル・パディサック(チャールストン。サザン大学)
ダニエル・パディサック(チャールストン。サザン大学)

アマチュアの雄と呼ばれたキューバが事実上の「プロ化」に踏み切った今、アマチュア選手主体で臨んでいるのは、この国だけと言っていい。そのアマチュア軍団が、WBCの舞台でどんな戦いをするのか楽しみなところである。

今日10日、チェコは対中国戦で初陣を迎える。

(写真提供Baseball Czech, Jan Benes)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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