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秋ドラマ、原作に頼らない「オリジナル脚本」の挑戦

碓井広義メディア文化評論家
(写真:IngramPublishing/イメージマート)

「間もなく始まる、秋の新ドラマですが……」

「まだ見てもいないドラマについてしゃべらせるとは、例によって乱暴な取材ですね」

「あくまでも開始前という時点で、期待しているドラマ、ありますか?」

「期待作という意味で挙げたいのは3本。どれもオリジナル脚本なんです」

「最近は漫画が原作のドラマが多いですよね」

「もちろん漫画や小説が原作でもいいのですが、原作に頼らず、ゼロから物語を創るオリジナルドラマに注目しています」

「了解しました」

ラブサスペンス『最愛』

「1本目は、『最愛』(TBS系、金曜22時)です。主人公は、殺人事件の重要参考人となった女性実業家(吉高由里子)。彼女を追う刑事(松下洸平)がいて、彼女を守ろうとする弁護士(井浦新)がいる」

「吉高さんでサスペンス物っていうと、去年の日曜劇場『危険なビーナス』(TBS系)を思い出します」

「あれは東野圭吾さんの小説が原作でしたが、こちらはオリジナルで、脚本は奥寺佐渡子さんと清水友佳子さん。かつて2人は『リバース』(同、17年)も手掛けています」

「確か、原作は湊かなえさんの小説でしたよね」

「そして、『リバース』のプロデューサーは新井順子さん、ディレクターが塚原あゆ子さん。この2人が『最愛』に取り組むわけで」

「あ、石原さとみ主演『アンナチュラル』(同、18年)の人たちだ!」

「正解。『アンナチュラル』は野木亜紀子さんのオリジナル脚本が見事でした。」

「『最愛』も、主演・P・D・脚本と、女性パワー爆発ですね」

「15年前の失踪事件に現在の殺人事件がからむみたいですが、先が読めないオリジナルドラマの醍醐味が堪能できるんじゃないかと、期待しているのです」

謎の集団『アバランチ』

「次は?」

「『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系、月曜22時)を挙げます」

「新設したドラマ枠の第1弾。月9ならぬ月10だ」

「アバランチ(Avalanche)は雪崩(なだれ)のことですが、ドラマでは “正義を訴える謎の集団”の名称です。その“過激かつ痛快な活躍”を見せる、“劇場型ピカレスク・エンターテインメント”だと言うんですが」

「よく分かりませんね(笑)」

「原作はないし、まだ細かい中身を伏せてるみたいで、脚本家の名前も表に出ていない」

「じゃあ、どの辺りに期待してるんですか?」

「第1に主演が綾野剛さんであること。昨年の『MIU404』(TBS系)も秀作でしたが、今年の映画『ヤクザと家族 The Family』がまた良かった」

「『MIU404』は、野木・新井・塚原の『アンナチュラル』トリオでした」

「その通り。で、第2の期待ポイントは、この『アバランチ』を手掛けるのが、『ヤクザと家族』の藤井道人監督なんです。綾野×藤井の剛腕コンビに期待大」

「ヤクザの組から謎の集団アバランチへ、ですか」

「ちょっと危ない香りもありそうで、コロナ禍の閉塞感を少しでも取り払ってくれたらいいなと思ってます」

ニュース3代『和田家の男たち』

「さて、3本目ですが」

「『和田家の男たち』(テレビ朝日系、金曜23時15分)」

「相葉雅紀さん、佐々木蔵之介さん、段田安則さんの3人が並ぶ番宣写真を見ました」

「一つ屋根の下で暮らす、男ばっかりの家族なんですよ。しかも3人とも、仕事はマスメディアでの報道」

「というと?」

「相葉さんはネットニュースの記者。相葉さんとは血のつながらない父、佐々木さんが報道番組のプロデューサー。そして佐々木さんの父親で、相葉さんの義理の祖父である段田さんは、元新聞記者で新聞社の元社長です」

「新聞、テレビ、ネットって、マスメディアの変遷じゃないですか」

「その通り。和田家の男たちのキャリアは報道の歴史そのもので、この設定自体がすこぶる面白い」

「なるほど。同じ事象について、視点も考え方も違ってきそうですもんね」

「そのギャップが物語を推進させるとしたら、見てみたい。脚本の大石静さんが、ホームドラマの形を使って何を仕掛けてくるのか」

「ちょっと期待したくなりますね」

「他にも、『真犯人フラグ』(日本テレビ系、日曜22時30分)など注目のオリジナルドラマはまだあるんですが、それはまた次回ということで」

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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