Yahoo!ニュース

冬将軍・渡辺明王将(35)春三月の終わりにフルセットの激闘を制して王将位防衛達成

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月25日・26日、新潟県佐渡市・佐渡グリーンホテルきらくにおいて第69期大阪王将杯王将戦七番勝負第7局▲渡辺明王将(35歳)-△広瀬章人八段(32歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 25日9時に始まった対局は26日19時22分に終局。結果は153手で渡辺王将の勝ちとなりました。

 渡辺王将は七番勝負を4勝3敗で制して防衛。王将位はこれで通算4期目となりました。

渡辺王将、充実の一年をしめくくる

 渡辺王将の矢倉VS広瀬八段の右四間飛車。渡辺王将が強く踏み込んで大駒を切って攻め、1日目が終了しました。

 2日目9時。封じ手が開封され、渡辺王将の53手目▲3五歩が示されて2日目の対局が始まりました。

 進んで、駒割は▲金銀△飛角の交換で、広瀬八段が大きく駒得となりました。しかし広瀬八段の大駒3枚(龍、飛、角)は広瀬玉のすぐ近くに押し込められています。

「玉飛接近すべからず」

 という格言は、玉の周りに飛がいると受けづらいことを示しています。しかし本局の場合では、龍(成り飛車)と飛、2枚の飛車が玉のすぐそばにいることになります。

 渡辺王将は小駒だけの攻めを続けていきます。渡辺将棋の特長の一つは、細い攻めをつなげる上手さです。

 対して大駒4枚を盤上に置いている広瀬八段は、しのいで反撃できるかどうか。

 局面が進むにつれ、渡辺王将の攻めはうまくつながっていきます。渡辺王将は銀で飛を取り返し、その飛を相手陣に打ち込んでリードを奪いました。

 広瀬八段は渡辺陣の外壁から、馬(成り角)とと金で迫っていきます。しかし本丸は深くて堅い。

 終盤戦。渡辺王将は香を打って広瀬玉に迫りました。対して広瀬八段はその香をあっさり角で取ります。進んで渡辺王将は攻防に利く馬を作って、盤石の形となりました。依然広瀬八段が桂得をしているものの、駒割の差が縮まって、玉形は大差です。

 残り時間が切迫してきた広瀬八段は、自陣に銀を打ちつけます。さらにはもう一度、飛車を自陣に引き成って龍を作り、粘りに出ます。

 渡辺王将は広瀬陣にできた金銀の防壁の向こう側から、着実な寄せを目指します。渡辺王将が依然リードを保っているものの、残り時間も少なくなり、まだ何が起こるかわかりません。

 局面は次第に混沌とした様相を呈してきました。広瀬玉は三段目に上がり「中段玉寄せにくし」の格言の通り、そう簡単にはつかまらない形です。

 対して渡辺王将は自玉の上部に置かれていた桂をはずします。相手陣に玉が入り込む「入玉」含みに粘る広瀬八段。もしや互いに入玉する「相入玉」の可能性もあるのではないか、という進行です。

 王将戦の決着をつけるにふさわしい大激闘。どちらが勝ってももはやおかしくない流れですが、渡辺王将はしっかりとリードを保ち続けました。

 渡辺王将は簡単に入玉されないよう、セオリー通り上部から押さえていきます。広瀬八段は防戦のさなか、貴重な馬を失います。大駒の数は途中、渡辺王将から見て0-4(飛飛角角)でした。しかし終盤では3(飛角角)-1(角)になっています。仮に広瀬八段が入玉を果たしても、持将棋(引き分け)をねらうには、駒の数(点数)が厳しくなりました。

 148手目。広瀬八段は持ち時間8時間のうち7時間59分を使って、ここから1手1分以内に指すことになりました。

 広瀬玉は渡辺陣に入るまであともう一歩の六段目まで進みました。しかし周囲には渡辺王将の駒が迫って、受けがありません。

 153手目。ひと目見て大熱戦の跡だとわかる投了図を残して、広瀬八段は投了しました。

 渡辺王将は4勝3敗で七番勝負を制し、王将位防衛を果たしました。

画像

 1月の初めに始まった長いシリーズも、3月の終わりに決着となりました。どちらが勝ってもおかしくはなかった、トップクラス同士の七番勝負。最後はわずかの差で、渡辺王将が競り勝った形となりました。

 将棋界の歳時記では、王将戦や棋王戦が終わり、年度が改まって4月となれば、名人戦が始まります。

 竜王をあわせ持ち、棋界序列1位に君臨する豊島将之名人。

 A級順位戦を9戦全勝で制し、三冠を堅持して序列2位の渡辺三冠。

 現代将棋界の頂点を争うにふさわしい、ファン待望の七番勝負がこれから始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事