熱戦が続くなでしこリーグ終盤戦は残留争いも熾烈。死闘を制した長野が一歩リードか
【首位争いの裏で】
なでしこリーグは先週末、味の素フィールド西が丘で首位浦和レッズレディース(浦和)と2位の日テレ・ベレーザ(ベレーザ)の天王山があり、浦和がリーグ史上初の5連覇を目指すベレーザを3-2で下し、自力優勝を掴める唯一のチームになった。技術、戦術面においても洗練された両チームによる痺れるような90分間は、「ベレーザ1強時代」になりつつあったなでしこリーグが、新たなステージに突入したことを感じさせた。
一方、同日に行われた下位チーム同士による残留争いの直接対決も激闘だった。
リーグ戦は残り6試合で、最終順位が10位(最下位)のチームは自動降格、9位のチームは2部の2位チームとの入替戦に回る。ホームアンドアウェイで行われる入替戦は悲喜こもごものドラマを生む。そのなかで、2部を勝ち抜いてきたチームの勢いが、1部でギリギリの残留争いを繰り広げてきたチームを上回った例が過去にはある。
今季、2部の上位争いはかなり拮抗しており、最終節まで目を離せない展開になるだろう。リーグのプロ化などが議論される中で、1部昇格に向けた各チームの高いモチベーションも感じられる。昨年の入替戦は1部9位の日体大FIELDS横浜(日体大)が2部2位のニッパツ横浜FCシーガルズを2試合合計4-3で破り残留を果たしたが、今年もかなり拮抗しそうだ。
つまり、1部の残留争いは9位になるか、残留圏内の8位になるかでその後の運命が変わる。そして、その渦中にいるのが8位のAC長野パルセイロ・レディース(長野)、9位のマイナビベガルタ仙台レディース(仙台)、そして10位の日体大だ。試合前の勝ち点は長野が「9」、仙台が「8」、日体大が「7」。
そのような状況で迎えた日体大と長野の一戦は、終わってみれば3-0と意外な大差で長野が制している。洗練されたプレーは決して多くなかったが、選手個々の切実な思いがピッチに表れていた。そしてその思いが、よりチームとして機能していたのが長野だった。
「勝たなきゃいけないというプレッシャーを感じながらこの1週間やってきました。それが結果につながって良かったです」
1ゴール2アシストの活躍でチームを勝利に導いたFW横山久美は、穏やかな表情でそう振り返っている。
前半は「負けられない」という思いが慎重さにつながったのか、日体大のペースで進んだ。だが、中盤の低い位置でバランサーを担っていた横山が後半、システム変更に伴って高い位置にポジションを取るようになると、チームが変貌した。
生粋の点取り屋の本分を思い出したように、横山はドリブルやシュートの鋭利な切れ味を発揮。 結果的に1人で9本ものシュートを放ち、ゴールを脅かし続けた。流れを引き寄せる決定打となった58分の先制ゴールは得意のドリブルから生まれた。粘り強く食い下がる相手を1枚、2枚と力強く引き剥(は)がすと、右足を一閃。これまでに何度も決めてきた形で、「打った瞬間に入ったと思いました」と振り返ったミドルシュートは、記念すべきリーグ通算100得点目となった。
74分と84分には、20歳のFW鈴木陽(すずき・はるひ)が横山との連係から2ゴールを追加。長野は勝ち点を「12」まで積み上げ、裏のカードで引き分けた仙台(同「9」)との差を広げることにも成功した。
【厳しい状況を支える古参選手たち】
「後ろを振り返りながらの戦いは、7年目にして初めてです。これまでは上を見て戦ってきましたけれど、今年に関しては仕方ないと思っています」
そう振り返ったのは本田美登里監督だ。長野を率いて7年目の長期政権を築いているが、今年は例年以上に厳しい戦いを強いられている。
昨季は7位で残留争いこそ回避したものの、今季開幕前のオフに複数の主力選手が移籍。
高卒ルーキーを中心に新戦力が多く加入したが、1部経験者は少なく、得点源である横山へのパスの供給源が少なくなることは避けられない状況だった。そのなかで「今まで作ってきたアイデンティティを若い選手たちに伝えながら、2年後、3年後に優勝争いができるようなチームの土台を作りたい」と明かしていた本田監督だが、厳しいチーム状況に追い打ちをかけたのがケガ人の多さだ。
6月にFW中村恵美が右膝前十字靭帯損傷で全治約10カ月、8月にMF瀧澤千聖が右足第5中足骨骨折で全治約3カ月と診断され、高卒ルーキーを相次いで欠くことに。8月末には高卒2年目のFW滝川結女が右足腓骨遠位端骨折で全治約4カ月前後と診断された。攻撃面はますます、横山の個人技頼みにならざるを得ない厳しい状況に追い込まれた。
そのなかで、守備は横山とともにチーム最古参で6年目のGK池ヶ谷夏美、5年目のDF野口美也とDF五嶋京香らが支えてきた。中盤で守備を支える大黒柱だったMF國澤志乃が今年7月に海外挑戦のためチームを離れた後は、2年目のFW三谷沙也加がレギュラーになり、1年目のMF大久保舞が守備的ボランチとして定着。サイドバックのレギュラーだったDF小泉玲奈も中盤にコンバートされるなど、新たな形を探っている。
10代の若い選手にケガ人が相次いだことで、長野のシンボルでもある「善光寺にお祓いに行きました」と明かした本田監督。ケガ人が多い中で、「フタを開けたらベテランが踏ん張ってくれています」と、池ヶ谷や横山ら、在籍歴が長い選手たちの頼もしさを口にした。
明るいニュースもある。ケガ明けで5月に復帰し、着実にコンディションを上げている鈴木は試合後、「今シーズン(残り5試合で)あと3点は取りたいです」と、終盤戦の起爆剤になることを誓った。
苦しい状況の中でチームを牽引しているのが横山であることは間違いない。6月のフランス女子W杯は出場機会が少なく不本意な結果に終わり、10月のカナダ戦も選考から外れた。だが、様々な転機を経て100ゴールという節目にたどり着いた横山はまだ26歳だ。
この試合で74分の2点目は、ゴール前で鈴木のパスを受けた瞬間、自分で強引にシュートに持ち込むこともできただろう。だが、「相手が来ているのが見えたから、確実に決めたかった」と、鈴木(陽)へのパスを選択。結果的に、美しく崩しきった中で鈴木のゴールが決まった。そのシーンに、フォワードとして、またチームを導くリーダーとしての横山の進化の跡を見た気がした。
【ホーム初勝利を目指して】
長野は1部に上がった2016年からホームの平均観客数で16、17年は年間1位、昨年は同2位になった人気チームだ。長野Uスタジアムはなでしこリーグで使用されるスタジアムでも随一の環境で、対戦相手もその雰囲気の魅力を口にする選手は多い。
ところが、今季はそのホームで2分4敗と未勝利が続いている。試合内容や結果が観客数に響くのは当然だ。
それでも、第13節終了時点のホーム平均観客数は1,837人で、トップのINAC神戸レオネッサ (2,889人)に次ぐリーグ2位の数字をキープしている。だからこそ、ホームで勝ちたい忸怩たる思いがあることを横山は明かした。
残り5試合のうち3試合は2位から4位の上位チームとの対戦を残しているが、ホーム開催試合も3試合ある。今週末の29日(日)の第14節はINAC神戸レオネッサ(4位)、10月14日(月)の第15節は仙台との残留争いの直接対決を、いずれもホームで戦う。
優勝争い同様に、熾烈な戦いが続く残留争いからも目が離せない。
また、イタリアへの挑戦を表明していた國澤志乃は、女子セリエA1部のUPCタヴァニャッコへの移籍が正式に決まったことを明かした。登録の関係で初出場は10月12日の第3節が濃厚とみられる。なでしこリーグからは2人目となる女子セリエAプレーヤーの活躍にも注目だ。