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【東京五輪】韓国による「花束」関連報道の詳細 これはちゃんと言い返そう

(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪大会期間中に韓国発のあるニュースを目にした。

「東京五輪の表彰式でメダリストに贈呈される『ビクトリーブーケ(小さな花束)』に放射能感染の懸念」

AERA.dot が報じた内容によると、韓国の一般紙「国民日報」が「福島産の花束に放射能への懸念がある」として報じている、というものだ。

具体的に韓国メディアは何をどう報じていたのか。五輪期間中の日韓関連報道のうちでも、これは看過できないものだ。

第一報では「異例の関心」と

7月27日以降、「聯合ニュース」「JTBC」など複数の韓国メディアが関連ニュースを報じた。その中心となったのは「国民日報」だ。

「福島産なのか? 東京オリンピック花束に異例の関心」

同紙は韓国内のキリスト教カトリック系の大型教会「純福音教会」系列の一般紙。販売数の規模などから韓国10大紙のなかで9~10番目の位置と見られている。政治的志向は「右派」。記事によっては「極右」との指摘もある。記事は韓国最大のポータルサイト「NAVER」などに掲載され多く読まれることとなった。該当記事には「いいね!」などのリアクションが152、コメントが88といった反応があった。

該当記事は見出しに「異例の関心」とあるが、具体的にどこでそれが起きているのかはっきりとは示されていない。インドメディア「インディアデイリー」で同国の女子重量挙げのメダリストが「福島産とは知らなかった」と言及したと記されているのみだ。

第二報では「専門家に取材」

その第一報の内容を伝えたAERA.dotは強い反応を見せた。福島県知事の反論や、「(日本)政府、JOCはこの問題について、毅然とした態度で対応することが求められている」と論じた。

だからかどうか、同紙は28日に後続記事を掲載した。

「放射能? 花束・食事 安全だ」という日本…本当だろうか?【国民的関心事】

花束に加え、日本産の食材の話を論じた。そして第一報からは一転して、韓国国内の専門家に取材した内容を紹介している。

花束についてはソウル大学原子核工学科のソ・ギュンリョル名誉教授による7月27日の言葉として次の内容を紹介した。

「植物が二酸化炭素を吸収し、空気中のC-14(放射性炭素)を吸収したり、根から水を吸収したりする過程で水にしっかり溶け込んだセシウム、トリチウムなどと共に吸収している可能性がある」

続けて原子炉の研究並びに設計・開発の経験がある社団法人「原子力の安全と未来」イ・ジョンユン代表の言葉。

「汚染物質は継続的に広がるため、栽培地域が被害地域からどれほど遠く離れているかが重要。福島は近いと言える」

記事では福島第一原発と花束に使われた花の産地との距離を細かく記したが…東国大のキム・イクジュン元教授の以下のコメントにより一気にトークダウンする。

「汚染物質があるのではという心配もあるが、気を払う程度ではない」

「花は食べるものではなく、ずっと持っているものでもない

これら取材結果からこう結論づけた。

「花束には放射能汚染物質が存在しうるが、健康に害を及ぼす程度ではない。体の外の放射能物質により被爆する『外部被曝』なのだが、その量も少ないものと思われる。また、食材料に存在する汚染物質の場合、体の中に入る『内部被曝』が憂慮され、注意しなければならないという指摘がある」

花束の件ではあっさりと「折れた」。結局1本目の記事は「懸念」「関心」だけで記されたものだった。その代わりに韓国では以前から指摘されている食品に関しては危険を指摘したのだった。

テレビ局「JTBC」もこの話題を25日に現地レポートのトピックの一つとして「酷暑」とともに報じた。見出しに花束と入れ、「異例の関心を集めている」のだと。このニュースは記事化され、758の「いいいね!」などのリアクション、286のコメントを集めている。

ただし、国内第2のポータルサイト「Daum」が発表しているデイリーニュースアクセス数ランキングではいずれの記事もベスト20にも入らなかった。

男子体操の跳馬で金メダルを獲得したシン・ジェワンにも渡された
男子体操の跳馬で金メダルを獲得したシン・ジェワンにも渡された写真:ロイター/アフロ

韓国メディアによる「反論」も…

韓国内でもこういった内容についての「反論」はある。28日に聯合ニュースは「ファクトチェック 東京オリンピックのメダリスト”放射能の花束”を受け取る?」という記事を掲載。

こちらも韓国内の複数専門家に取材を行った内容だった。

「国民日報」と同じくソウル大学原子核工学科のソ・ギュンリョル名誉教授に取材し、「危険がゼロではない以上、福島再建の広報よりも選手の安全が重要。日本政府がまず、そういった花束を渡すべきではなかった」というコメントを引用した。日本への批判的立場を紹介しつつも、複数専門家のコメントをまとめた結果として「たとえ極微量の放射能物質が花に含まれていたとしても、人体に与える影響は殆どない」としている。

ただし、この記事への反応は「国民日報」のものより低く、「いいね!」などのリアクションは35、コメントは29に終わっている。「噂」のほうがはるかに出回っているという状態だ。

韓国では根深い問題

そもそも韓国には東京五輪を「放射能五輪として糾弾する」という動きがあった。非常に根深い問題だ。左派は福島の原発事故の危険性を提起し続け、右派は「現政権は事故の起きた日本への対応が緩い」とまた批判する。

2019年10月にチョ・グク法相の退任を巡る左派のデモ取材時にはステージ上のリーダーからこんな声が聞こえ、耳を疑った。

「(退任を叫ぶような)保守のやつらは、福島に送れ」

敵対する右派(保守)は日本統治下時代から、日本の体制側の近くにいて既得権益を手にしてきた。日本解放後もその流れを継いでいい思いをしてきた奴ら。ならば日本に送ってしまえ。その流れで日本の地名が使われているのだ。

上記デモの現場
上記デモの現場写真:Lee Jae-Won/アフロ

個人的にも2013年夏に友人から「放射能が危険と職場や家族に説得され」、東京への旅行を取りやめるという連絡が来たことがある。また2021年3月のサッカー日韓戦時には、筆者のSNSに韓国のサッカーファンから「日本のコロナも心配だが放射能が心配。選手がどんな食事を口にするのか」と書き込まれた。

とはいえ――2019年の夏に韓国で「NO JAPAN運動」が起きる前の2017 年までは

「韓国の人口 5,145 万人の過半数となる(年間)2,650 万人」が日本を訪れていたのだ(JETRO調べ)。

韓国人の外国旅行先では日本はナンバーワン。たくさん訪れ、たくさん食事もしていったのではないか。筆者は放射能問題の専門家ではないゆえ、数値に関する細かい話はできないが、一つだけ「日本旅行ブーム終了後に数値が変わった」という証があるのであれば教えていただきたい。

「花束」の話が別格な理由

この「花束」の話だけは、東京五輪での一連の日韓関連の報道の中でも「別枠」であり、「別格」だった。

「サッカー選手が試合後に握手しなかった」「開幕式中継などで韓国地上波が失態」といった話は全部あちらの話。そんなことよりもあの大会は、世界の選手のパフォーマンスへのリスペクトと、日本の国内問題から目を逸らすべきではなかった。なにせ”緊急事態宣言”の最中なのだ。日本政府筋の言う、開催自体が「パンデミックに勝った証」という話が果たして本当なのか。そこへの注視が第一。これは大会中も、今後もだ。

そういったなかでもこの「花束」の話は意味合いが違った。日本の国内問題に関わる話だ。また、歴史の問題ではなく現在の報道姿勢により由々しき問題が起きたのだ。

健全な日韓関係とは「堂々と意見を言い合える」ものだ。差別や不適切な表現で相手を攻撃することでもない。低姿勢になりすぎることでもない。反省すべきは反省し、ちゃんと言い返すこと。

近年の日韓関係がいびつなのは、徴用工判決からホワイト国除外、NO JAPANのように論点がスライドしていく点だ。さらに首相同士が「会う、会わない」の話でまた揉める。正面衝突しているようで、していない。韓国側にも韓国側にも「日本が気に入らないから、"花束に当たる"という」という面があるのではないか。

「花束」あるいは「食事」などの放射能関連の報道について、日本側は根拠を示して徹底的に言い返すべきだ…2013年に時の安倍晋三首相が言った「アンダーコントロール」が本当ならば。同年9年7月、東京五輪誘致が決定したブエノスアイレスでの「第125回国際オリンピック委員会(IOC)総会」での発言だ(了)。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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