「今しか作れないものがある」。“花人”赤井勝が語るコロナ禍で輝く花の力
ローマ法王にブーケを献上するなど世界を舞台に活躍するフラワーアーティストの赤井勝さん。自らを“花人(かじん)”と称し、MBSテレビ「情熱大陸」でも注目を集めましたが、新型コロナ禍による閉塞感の打破や花卉農家への支援を込めて「瑞華院 了聞 桜の通り抜け」(2月25日〜3月6日)も開催します。今こそ際立つ花の力。そして、コロナ禍を逆手にとったモノづくりの発想。今の思いを吐露しました。
不要不急の最たるもの
新型コロナ禍であらゆる分野の皆さんが疲弊されています。飲食の方々ももちろんそうですし、エンターテインメントの皆さんもそうだと思います。僕らがいるお花の世界も、その流れをものすごく受けているんです。
不要不急という言葉がコロナ禍で頻繁に使われるようになりましたけど、飲食とかエンターテインメントを彩るのが僕らの仕事。となると、さらに“平和産業”というか、不要不急の最たるものみたいなところに位置しているんです。
ただ、花卉農家さんであるとか、当然お花で生活をされている方々もたくさんいらっしゃる。もちろんのこと、非常に困ってらっしゃいます。
僕も最初の緊急事態宣言の時は完全に仕事がキャンセルになり、どうしたものかと考えさせられました。
歩みを止めることによって、ま、強制的に止められたみたいなもんですけど、これを機にいったん全てをひっくり返して考える。そんなことをしてみようと。
その中で気づいたのが、いかに目の前のことに追われていたかということ。そして、仕事があることが当たり前ではないということでした。
そして、もう止まってしまってるんやから、これをいつもとは違う時間として使った方がいい。そこでいろいろとできることを考えたんです。
普段は予約の取れない人気レストランに僕が花を飾って、少人数で間隔をたっぷりとって料理とお花を満喫してもらう。
そして、これまでは日々いろいろな催しがあったので、市場でもお花の取り合いというか、必ずしも欲しいお花が全て揃うわけではなかった。でも、コロナ禍では催しも激減しているので、市場にお花があふれているんです。お花は生き物ですから、季節が来れば咲くもんですから。
となると、市場にはいつも以上にたくさんの種類のお花があるんです。普段なら見かけないお花を目にすることが増えました。だったら、今こそお花と出合う場だと思って、アタマをリセットする機会にもしてみました。
要は、コロナ禍を逆手に取るというか、今の状況だからこそできることで前向きなものを模索する。それをやる時期だろうと思ったんです。
それとね、今は絶対に自分の感覚も変わっているはずなんですよ。コロナ禍という特殊な世の中にいるので。今の感覚で見て、考えて、モノを作っておく。この意味も、実はすごくあるんだろうなと思っているんです。
言うまでもなく、今は大変な世の中です。良いことばかりじゃないというか、ほぼ大変なことばっかりと言ってもいいと思います。自分も周りも。
でも、だからこそ今しかできないものもある。へこんで止まっている場合ではないんでね。その考え方で、今は日々やってるんです。
花の力
そんな中の一つとして「瑞華院 了聞 桜の通り抜け」ということもやらせてもらっているんです。
たまたまこちらのお寺さんとご縁があって、周りの住民の皆さんに楽しんでもらう何かができないかというお話をうかがったんです。
だったら、お寺の周りを生かして桜の通り抜けみたいなことをやると、密にもならないし、華やぎも感じてもらえるんじゃないか。そう思ったんです。
10種類以上の桜を集めてきて、あらゆる桜を一気に見てもらう。そして、普通のお花見よりも早く桜を咲かせて出すことで「もう少ししたら、この桜のように春が来ますよ」というメッセージを幾重にもの意味で発信出来たらなと思ったんです。
もうすぐ春となったら気持ちが華やぐものですし、今はコロナ禍というトンネルもある。トンネルで一番しんどいのは出口が見えないこと。先の光が見えたら「あそこまで行けば」と心が明るくなるはずなんです。
そんな思いを込めて、今の時期に桜の催しをさせてもらうことにしました。エライもので、人間だけじゃなく、メジロやおしどりも花を飾るとやってきて、春の空気を楽しみに来たりするんですよ。
鳥でさえというと不遜な物言いになりますけど、やっぱり春にはいろいろな期待や華やぎがある。それをなんとか感じてもらいたい。今の時代は特に。その思いからの催しなんです。
ただね、今回この催しををやる中で現実というものも感じました。桜をリアルに現場で見てもらうのが一番良いんですけど、それが難しい人にはリモートで桜を見てもらう試みもしようと思っているんです。
もともと、この催し自体見てもらうのは無料ですし、リモートなら遠方からでもより手軽に、簡単に見てもらえる。これなら楽しんでもらえる人が増えるだろうと思ったんですけど、実は、リモートすらできないところもあるんだと。
その一つが介護施設。ギリギリ手いっぱいでやってるから、決まった時間にパソコンをつないで入居されている高齢者の皆さんにお見せするということができるか分からないとおっしゃるんです。
もともと人員が少ないうえに、いつ誰がコロナの陽性者や濃厚接触者になるかわからない。リモートを申し込みたいけど時間の約束もできないし、もし約束を反故にするようなことになったら申し訳ないと。
…これほどまでに手一杯なのかと。そこまで綱渡り状態なのかと。なかなか接することができないリアルというか。
それならば、こちらもできるだけのことをやろう。そう思って、その都度手間はかかるかもしれないけど、申し込みがあった施設さんにその日の朝撮影した桜の映像をDVDにしてお送りしようと。それなら向こうの良い時間に見てもらえますし。
言うても撮影した映像ですからね。5年前のものとそんなに変わらないのかもしれない。でも、言葉にはできない部分で「今年の桜です」「今朝の桜です」というところの意味はあるはずだと。そう思ってやってみようと思っているんです。
お花ってね、これは日本だけでなく、どこの国に行ってもすごくメッセージ性のあるものなんです。
楽しい時にお花があったらさらにテンションが上がる。つらい時には気持ちに寄り添ってくれる。
結婚式にも、お悔やみの時にも花がある。これは万国共通なんです。お花は生き物ですからね。だからこそ、気持ちに寄り添ってくれる。もちろん、それを感じながら仕事をしてきたんですけど、コロナ禍で改めて痛感することになりました。
まじめに話しすぎましたかね(笑)。でもね、お花を見て気持ちが前向きにしてもらえたらうれしい。ただただ、それなんです。今も、これからも、それをやっていきたい。ただただ、そう思っているんです。
(撮影・中西正男)
■赤井勝(あかい・まさる)
1965年生まれ。大阪府出身。ワタナベエンターテインメント所属。花を通じて心を伝えることを仕事と考え、自らを“花人(かじん)”と称している。食の世界、芸能界、スポーツ界などあらゆるジャンルからのオファーに応え、海外からの依頼にもワールドワイドに活動する。「コロナ禍で苦しむ様々な立場の人に安心安全に春を感じてもらいたい」との思いから「瑞華院 了聞 桜の通り抜け」(2月25日〜3月6日)を開催する。