「動力車操縦者運転免許」18歳から受験可能で何が変わる? 足りない鉄道の運転士を確保する一策に
国土交通省では、鉄軌道における動力車操縦者試験の受験資格を見直した。7月1日から、新しい受験資格が適用される。
まずは受験資格だ。これまでは「20歳未満」は受験できなかったが、これを「18歳未満」に改正した。
免許証において、性別を削除することになった。性的少数者への配慮のためだ。
また身体基準(色覚など)も緩和した。
これらの施策は、若年者の雇用拡大につなげる観点で導入された。
では、何が変わるのか?
人手不足の鉄道を救済する措置
現在では、成人年齢は18歳となっている。この年齢で、高校を卒業する人が多い。多くの人が大学に行くと思われがちだが、大学に行くのは同年齢層のおよそ半分で、残りの半分は専門学校に行ったり、就職したりする。
鉄道業界は、高卒就職を広く受け入れている業界の一つだ。
そんな鉄道業界では、高卒で入社し研修を受け、いっぽうで現場の仕事をやりながら、徐々にキャリアアップしていくということが行われていた。
運輸系統では、最初の研修を受けたのちに駅などに配属され、その後車掌を経て運転士になるというルートがある。その後、駅や運輸区などの管理職になっていく。
ところが、鉄道も人手不足である。
多くの鉄道会社では、駅員を減らし、車掌はなくしてワンマン化している。ICカードなどが各社で導入され、改札が不要になるだけではなく、長大な編成でもワンマン運転できるように設備を整えている。しかし、運転士が不要になる状態までにはなっていない。
駅員の削減やワンマン化は、経費削減のために広く行われるようになっている。しかし、経費削減だけではなく、どうしても必要な部署に人を送り込むためにほかの部署の人を減らす、という意味合いもある。
運転士だけは、どうしても必要なのだ。
新交通システム以外では、完全無人運転はまだ実用化される状態ではない。運転士はどうしても必要だ。
地方の鉄道となると、高校から推薦されて勤めるようになるというパターンも多いと考えられる。しかし高卒時は年齢が18歳だ。路面電車がメインの事業者だったり、駅員無配置駅がほとんどの事業者だったりすると、運転士になってもらうしかないということになる。
しかも、地方では運転士が不足しており、その影響で運行本数を削減しなくてはならないという事態が発生している。
退職者の再雇用などで対応しているケースはあるものの、いつまでもできるわけではない。
高卒で採用したら、急いで運転士にしないと、現在の本数を維持することはできない。
そこで、「20歳未満」から「18歳未満」に受験できない年齢を下げ、高卒以上であれば動力車操縦者試験の受験をできるようにした。
「高卒就職」の受け皿に必要な改正
今回の動力車操縦者試験の受験資格緩和は、「高卒就職」が当たり前の業界で、人手不足対応のために必要なことである。新しく入る若い人たちにとっても、なるべく早く一人前になり、鉄道の現場最前線で仕事がしたいという思いもあるだろう。
身も蓋もないが、給料が決して高くはなく、仕事も厳しい地方の鉄道会社に入りたい理由は、「地元にいたい」「鉄道が好き」のふたつの条件が重ならないと難しい。薄給で激務の鉄道運転士をやってもらうには、せめて就職希望者の願いを早くかなえるしかないのである。
地元の高卒者が、東京の鉄道会社や鉄道業界向けの専門学校に流出せず、地元の鉄道に勤めてもらうためには、必要な改正だ。
バスはどうする?
地方の公共交通機関には、バスもある。バスは「大型二種免許」を取得しなければ運転できない。バスの人手不足は、鉄道よりも厳しいことになっている。
だが大型自動車一種免許は21歳以上(条件付きで19歳以上でも可)、普通自動車免許を取得して一定の年数が必要だ。バスの運転に必要な大型自動車二種免許は、大型一種と同じ条件である。
大きなバス事業者は、養成費用を出して運転士を確保しているが、地方の小さな事業者だとそれも難しい。
最短でも、就職先を決めたあとに高校在学中に普通自動車免許を取得しないと、早期にバス運転士になることは難しいのである。
現状、バスの運転士は転職者が中心となっている。トラック運転手が二種免許を取得するケースなどがある。しかも自費という場合も。
自動車の運転免許制度やバス会社の採用事情と、学校制度がマッチせず、人手不足に拍車がかかる。
しかも身も蓋もないことに、バスが好きな人は鉄道が好きな人よりも少ないのではないだろうか?
鉄道を残すメリットに
新しい動力車操縦者試験の制度によって、高卒者の就職と企業内での人材育成の歯車が合い、人手不足への対応がしやすくなる。どうしても必要な運転士を、入社早々に育成することができるようになる。
近年、閑散路線のバス転換が必要という声もある。維持できないという路線もある。しかし、バスにしようとしても人手不足でどうにもならない状況がある。
それゆえに鉄道を残すしかない、という判断をする事業者も出ている。
新制度でより人材を確保しやすくなり、地方の鉄道が抱える困難が軽減されることになる。それが、鉄道を残すことにつながったらと願うばかりである。