Yahoo!ニュース

あっという間に増えて、あっという間に減った「北朝鮮のコロナ」 僅か2か月で収束か!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
一時的に封鎖されていた平壌市内(朝鮮中央テレビから)

 パッと咲いて、パッと散るのが桜ならば、どうやら北朝鮮の新型コロナウイルスは北朝鮮の発表に嘘がなければ、あっという間に増え、あっという間に消えることになりそうだ。

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、隣接の中国、ロシア、韓国でも急速に拡散している最中でも北朝鮮は本当か、嘘か定かではないが、WHO(世界保健機構)に対して「感染者は一人もいない」と報告していた。北朝鮮外務省が声明まで出して「我が国は新型コロナウイルス感染者が一人もいないクリーンランドである」と胸を張っていたのは周知の事実である。

 確かに北朝鮮は世界中でソーシャルディスタンスが叫ばれている最中、軍事パレードを含め大規模集会を頻繁に開いていた。一昨年7月の朝鮮戦争停戦67周年関連行事には全国から80代~90代の老兵を5千人以上も招集し、平壌で大会を開催していた。今年1月の労働党第8回大会でも同様の光景が見られた。

 代表者4750人、傍聴人2000人、合わせて6750人が一堂に会していたが、初日の開会式では誰一人、マスクを着けてなかった。大会後に行われた軍事パレードでも金日成広場に集結した軍人だけでなく、平壌市民10万人もノーマスクだった。それが一転したのが5月12日である。「感染者ゼロ」を豪語していた北朝鮮が初めて感染を認めたのである。

 「原因不明の発熱者」が4月中旬頃から爆発的に急増している状況を知らされた金正恩(キム・ジョンウン)総書記はこの日深夜(午前2時)、労働党中央委員会政治局会議を緊急招集し、「2020年2月から今日に至る2年3カ月にわたってしっかり守ってきた我々の非常防疫戦線に破裂口が生じる国家最重大非常事件が発生した」と党幹部らに知らせた。配信された写真をみると、驚いたことに金総書記を含め出席者全員がマスクを着用していた。

 感染を初めて公式に認めた日(12日)の感染者は1万8000人。それが3日後の15日には39万2920人に膨れ上がった。ちなみに日本の一日の感染者の最多は今年2月4日の10万2333人である。北朝鮮の人口(2580万人)は日本の約5分の1であることを勘案すると、北朝鮮の感染拡大が尋常でないことがわかる。

 北朝鮮国家非常防疫司令部の発表によると、感染者は7月2日現在、累積で475万2080人に達している。北朝鮮の約5人のうち1人が約50日間で感染した計算となる。はからずも金総書記が「悪性感染症の流行が建国以来の大動乱になっている」と言ったことを裏付ける結果となっている。しかし、「建国以来の大動乱」は瞬時で、統計上では平穏になりつつあるようだ。

 北朝鮮の感染状況は5月15日の39万2920人をピークに下降線を辿っている。週単位で感染の推移をみると、感染者は大幅に減少している。

 ▲5月16日26万9510人→23万2880人→26万2270人→26万3370人→21万9030人→18万6090人→16万7650人(22日)

 ▲5月23日13万4510人→11万5970人→10万5500人→10万460人→8万8520人→8万9500人→10万710人(29日)

 ▲5月30日90620人→9万3180人→9万6610人→8万2160人→7万9100人→7万3780人→6万6680人(6月5日)

 ▲6月6日6万1730人→5万4610人→5万860人→4万5540人→4万2810人→4万60人→3万6710人(12日)

 ▲6月13日3万2810人→2万9910人→2万6010人→2万3160人→2万360人→1万9310人→1万7250人(19日)

 ▲6月20日1万5260人→1万3100人→1万1010人→9610人→8920人→7300人→6710人(26日)

 ▲6月27日5980人→4730人→4570人→4100人→3540人(7月2日)と推移している。

直近の5日間は一日平均634人減っている。このままの推移だと、数字上は一週間以内には感染者がゼロとなる。

 「全感染者(475万2080人)の99.86%にあたる474万5580人が完治し、現在治療中の感染者は6430人のみ」との北朝鮮防疫当局の発表のとおりならば、治療中の患者も来週中にはゼロとなる公算だ。というのも「患者」の数は直近の1週間では26日1万3840人→27日1万2380人→28日1万1240人→29日9250人→30日8130人→7月1日7360人→2日6430人と、1週間前に比べて7410人も減っているからだ。

 何よりも信じ難いことは死亡者が累計でたったの73人と極めて少ないことだ。一日最多の39万2920人の感染者が確認された5月15日でさえ死者は一桁の8人だった。ちなみに日本で過去最多の10万2333人の感染が確認された際の死亡者は117人もいた。北朝鮮の6月の死者は3日と15日にそれぞれ1人確認されただけで、7月2日まで「死者ゼロ」が17日間も続いている。

 都市、地域封鎖もすでに解除されており、平壌では一両日中にも上級から末端までの党組織部党生活指導部活動家らが全国から招集され、特別講習会が開催される。すでに飛行機や列車を利用し、各道、市、郡から参加者が続々と平壌に到着している模様が伝えられている。

 金総書記は一日の感染者が20万人を割った5月21日に開催した政治局協議会で早くも「全国的に拡散状況が次第に抑止され、全快者数が日ごとに増え、死者数が著しく減るなど全般的な伝染病拡散状況が安定的に抑止、管理されている」と発言し、「悪性ウィルスとの全人民抗争で必ず偉大な勝利を獲得すべきである」と幹部らに訓令していたが、近々政治局会議を開き、僅か2か月で致命的で破壊的な災難を招きかねかった「コロナ」を労働党の「賢明なる指導で打ち勝った」との「勝利宣言」を行うのではないだろうか。

(参考資料:平壌をロックダウン!「建国以来の大動乱」にある北朝鮮の感染状況は今週が山場!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事