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「安倍首相と同じ考え方なのではないか?」。多くの中国人が抱く日本人全体への疑念

中島恵ジャーナリスト

安倍晋三首相が靖国神社に参拝――。

この衝撃的なニュースが流れてから2日後、中国の日系企業で働く日本人の友人が帰国し再会した。こちらから聞くまでもなく、友人は開口一番、「いや~、参ったね。安倍さん。中国でビジネスをしている日本人は、みんな困って頭を抱えているよ。ようやく反日デモの傷も癒えてきたというのに…。これでこの1年以上の努力の積み重ねがまた水の泡になってしまうかもしれないね……」とつぶやいた。

私が「会社の中国人の部下とこの件で何か話しましたか?」と聞くと、「そんな話、できるわけないでしょ。みんなこのニュースのことは知っているけど、その話題には一切触れないよ。いつものように黙々と目の前の仕事をするだけだね」と答えてくれた。

そうだ。日本でこれほどの“激震”が起きているにも関わらず、中国で机を並べて仕事している日本人と中国人は、必ずしもガチンコでこの件について議論しているわけではない。

中国のタクシーでも、こちらが日本人だとわかると、すぐにこうした話題を持ち出す運転手もいるが、それほど多いわけではない。みんな仕事は仕事、と割り切っており、政治的に敏感な話題はできるだけ避けている、というのが現実なのだ。ビジネスマン同士ならば、気まずくなりたくないということと、相手への気遣いもあるからだ。むろん、お互いの気持ちもよくわかっているのである。

だが、日中ビジネスに関与するような、両国事情を深く知る人ばかりではない。日本人を見たこともない一般の中国人の耳には、新聞・テレビで報道されるストレートニュースだけしか届かない。そこでは安倍首相が語った「不戦の誓い」などのコメントは大きく報道されず、ただ「参拝した」という事実だけが強い印象として残る。

そして、参拝により「安倍首相の右傾化」がますます強調され、彼らの怒りを増幅させるのである。そこでは、安倍首相だけにとどまらず、安倍首相をリーダーとする日本人全体が「安倍首相と同じ考え方なのではないか?」といった疑念も生まれてしまうのである。

日本人がいくら「それは違う。日本人の中にだってあの行動に困り、怒っている人もいるのだ」と伝えようとしても、それは大きなメディアを介さないかぎり、残念ながら、多くの中国人の耳には届かない。逆もまた、しかりである。私たちは(中国語ができるごく一部の日本人や、SNSで中国人と繋がっているような人を除いて)中国人の民意というものが、なかなかわからない。まだお互いに、大メディアを介してしか、国際情報を受け取ることができない環境にあるからだ。

こうして、前述の疑念は確信へと変わっていき、大多数の中国人の日本人に対する「誤解」はますます深まってしまう。その結果、「やはり日本人は反省していない」、「日本は再び軍国主義の道を歩もうとしている」といった間違った認識が広まってしまう。普通の中国人から見て、日本はひとつの「かたまり」であり、日本人の中にもさまざまな意見があることは、わからないからである。

今回、中国政府は強い抗議を表明したが、一般市民の間で反日デモなどの動きにはまだ広がっていない。だが、だからこそ、間違った疑念を、これ以上、確信に発展させてしまってはいけないし、「誤解」を解いていく必要があるのではないだろうか。むろん、靖国問題は「誤解」を解くだけで解決できるほど浅い問題ではないことはわかっている。だが、現状では、一般の日本人の考え方を理解できる立場にある中国人は、ごくわずかしかいない。中国に限らず、世界各国も同じである。そのことを、もっと多くの日本人に知ってほしいと思う。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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