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いよいよクライマックス。老い、認知症、戦争、震災、性犯罪…まで 『やすらぎの郷』はどこに向かうのか

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
『やすらぎの郷』より  写真提供:テレビ朝日

今年(2017年)4月からはじまるやいなや、注目を浴びたドラマ『やすらぎの郷」。

巨匠・倉本聰が描く、かつてテレビ業界に多大な貢献をした人だけが入居できる老人ホーム〈やすらぎの郷 La Strada〉で起こる悲喜劇は、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、八千草薫……と往年のスターが大集合した華やかさと、彼らの実生活と重ねるようなスキャンダラスな

エピソードが満載のストーリーが話題を呼んだうえ、出演していた野際陽子の遺作になった(ドラマの最後まで野際は出演する)ことも手伝って、昼時間としては、高い視聴率を取った。

テレビ朝日は、この作品を第一弾として、昼のドラマシリーズを続けていく予定。次回作は黒柳徹子の半生を描く『トットちゃん!』(作:大石静)を準備している。

『やすらぎの郷』は、新しい昼の帯ドラマの第一弾にふさわしい、勢いをもっていた。

老いの問題のみならず、いまだ解決しない戦争や、原発など、現代社会の問題も織り込む圧倒的な作家の筆力と、俳優陣の演技力で迫りながら、視聴者がツッコめるところや、続きが見たくなる仕掛けもたくさん。テレビドラマはかくあれという、ベテランの底力を見せられた。

ドラマの後半戦に入ると、老人と若い職員の年の差恋愛が描かれたかと思えば、施設のバーにつとめる若い女性がひどい目にあって、老人たちが復讐で大立ち回りしたり、八千草薫演じるマドンナ的存在の姫が亡くなったりとめまぐるしい。ドラマはいったいどこに向かうのか……ますます目が離せない。

最終回まで、あと3週。『やすらぎの郷』とは何だったのか。テレビ朝日のプロデュサー中込卓也さんに、2回に分けて聞いた(前編)

最終回は拡大SP 。『慕情』フルバージョン7分45秒で、半分埋めるという構想も

ーー打ち上げは盛り上がったそうですね。

中込「キャストがこんなに集まる打ち上げもなかなかないですよ」

ーー入居者やスタッフなど出演者が多いですものね。

中込「ワンシーンだけのゲストの方も多かったですしね。ワンシーンでも出たいと言ってくださる方が多くて。例えば、上川隆也さんは、浅丘ルリ子さん経由で、出たいと連絡をくださったんですよ(笑)」

ーー最終回は、ゲスト含めて出演者全員のお名前を出したらどうでしょう。

中込「うちは通常だと15分番組ですから、それをやったら、テロップだけで終わっちゃいそうです(笑)。ただ、9月29日が最終回拡大SPとなり45分もありますので、可能性が出てきますね。中島みゆきさんの主題歌『慕情』をフルで流すと7分45秒くらいあるので、それを流しておけば、テロップだけでもなんとか観てくれるかもしれませんね(笑)大いに検討いたします!」

ーー有名スターじゃない人たちのエピソードもあった『やすらぎの郷』ですから、漏れなく、関わった方のお名前を出してほしいですね。

中込「美術スタッフのちのやんと記録のカメコ夫婦のエピソードは、渾身の作でした」

ーードラマがはじまったばかりの頃、名もなき庶民のドラマを描いてきた倉本聰さんが、富裕層のドラマを描くのか、とやや疑問だったのですが、ちゃんと中盤で、スターではない人を描いてくださったのが良かったです。最初はスターで注目させて、あとから渋いエピソードを入れていく作戦だったのかなと。

中込「そもそも主人公・菊村栄(石坂浩二)が、人気作家とはいえ、脚本家というスタッフですからね。やすらぎの郷には、スタッフも入居しているはずだから、そういう人たちは出しましょうと、最初から考えていました。やすらぎの郷には、俳優が入っているコテージと、九条節子(八千草薫)さんとヒデさん(藤竜也)という大俳優が入っているヴィラと、主にスタッフの人たちが入っている4階建てのマンション棟があるんです。劇中でも言っていますが、やすらぎ財団のつくるランクがあって、それによって、住む場所も違うんです」

ーーそこには格差があるんですね。

中込「でもマンション棟でもいい生活ですよ。ごはんも食べ放題で、なんでもただ。お金がかかるのはBARカサブランカだけですから」

倉本聰を知らない若いスタッフもいた

ーークランクアップの撮影現場を見せていただきましたが、スタッフにベテランそうな方が多かったですね。

中込「若い人もたくさんいますよ」

ーーベテランと若者が渾然一体になっている感じでした。

中込「そういう意味ではすごく面白かったと思いますよ。それこそ、若いスタッフは、最初、たぶん、倉本聰を知らなかったですから」

ーーいいですか、書いても。

中込「それが現実ですから、先生も怒らないと思います。若いスタッフが、藤竜也さんのマネージャーさんを見て、『藤竜也さんってあの人ですか?』って聞くなんてこともありました。それを怒ってもしょうがないですよ(笑)」

ーーリアル四宮(向井理)がいっぱいいたってことですね(若手俳優シノは、藤竜也演じるヒデのファンだが、その他の往年のスターのことを全然知らない設定だった)

中込「20代はテレビを観ないし、そもそも、うちのメインキャストがばりばりテレビに出ていた時代を知らないですから」

ーーそういう若者がベテラン俳優の仕事を観ることによって、刺激を受けたのでしょうか?

中込「それは感じてもらったと思います。なにしろ、皆さん、それはもう凄まじい怪物ですから。お芝居はもちろん、個性も圧倒的に強い」

ーークランクアップの挨拶を観るだけでも、三者三様、キャラが立っていて(石坂は座長らしい含蓄あるスピーチをし、加賀まりこは若手スタッフをねぎらい、浅丘ルリ子はスター然とした発言で、現場を沸かせた)

中込「石坂さんは相当容量のでかいパソコンのようです。野際陽子さんの体調が悪くなって、撮影スケジュールの変更があった時『どうなっても僕は大丈夫です』と泰然とされていました。それって、すでに全部台詞が入っているってことか!と恐れ入りましたよ」

ーーインテリ俳優ですものね。

中込「……を超越していますよ。単純に、台詞覚えがいいだけでなく、座長としての男気がありました。浅丘さんは、つねに浅丘ルリ子でしたね」

ーー常にというのは。

中込「でっかい車で、撮影スタジオにやって来て、車から出てきた時には、メイクもしっかり完了しているんです」

ーー素顔を決して見せない?

中込「まったく見たことないです(笑)。まさに“お嬢”でしたね。加賀さんは、現場を俯瞰して見ていて、事情に合わせてくれる方で、俳優部の“オンナ・チーフ”と呼ばれていました」

カメオ出演した倉本聰のキャラの前世まで考えてある

ーー倉本聰さんと中島みゆきさんがカメオ出演されたことも話題になりました。

中込「みゆきさんは、過去、他のドラマに出演されたこともあるのですが、倉本先生は、舞台には一度出たことがあるだけで、ドラマは今回がはじめてだったそうです」

ーー先生は、台詞をしゃべることはないんですか?

中込「あくまでもエキストラで、クレジットも出しません。ただ、設定はちゃんとあります。大物舞台演出家と紅白出場経験ある歌手の夫婦で、妻が歌手を辞めてはじめて舞台に出たときの演出家なんです。年を取った夫の介護のために、妻は仕事をすぱっと辞めて、5年位前に、やすらぎ財団から声がかかって入居している設定だと、おふたりに説明しました」

ーー倉本さんが作った設定ではないんですか。

中込「僕が考えたものです。先生は、登場人物の年表を作ることで有名ですよね。だから、今回、僕も、簡単に考えさせていただいたのですが、『中込ちゃんに言われなくても、こいつの前世まで考えているよ』と言われました(笑)」

ーーじゃあ、倉本さんの中では違う設定でやっているんでしょうか(笑)。倉本さんの脚本で興味深いのは、ト書き自体はわりとあっさりしているのに、音楽が入る場所の指示はしっかり入っていることです。

中込「昔、日テレで脚本を書かれていたとき、事前に稽古をしていて(昔のドラマは撮影前に稽古していた)、俳優が『すみません、この“忍び寄る中島みゆき”って誰ですか?』って聞いたことがあるそうですよ。中島みゆきの曲が忍び寄るっていう意味だったのに、中島みゆきという人物が忍び寄ると思ったらしくて(笑)。たぶん、台本を書いていらっしゃるとき、音楽も含め、映像が浮かんでいるんでしょうね。おそらくカット割もされていると思います。でも、指示通りにしないとダメってことはないんですよ」

ーー曲の指定も、そんなにないですものね。

中込「みゆきさんの『時代』と、ピンクレディ『UFO』、キャンディーズ『微笑み返し』等何曲かは指定がありました。カサブランカでかかるオールデイズはお任せです」

ーー曲選びもプレッシャーですよね。

中込「とてつもないプレッシャーですよ。基本、お任せですが、たまに、『違う』って言われることもあります。でも、そういうふうに、演出に口を出してしまうことに気を使って、撮影にいらっしゃることはほとんどなかったです。最初と、カメオ出演のときくらいでした。先生とみゆきさんの収録は一日でまとめて撮りました」

7、80代は病院で、若い世代はSNSで、『やすらぎの郷』を語る

ーーシニア層に向けた、昼の帯ドラマ枠を作るという、偉業が成されたわけですが、中込さんは、倉本さんとこれまでも仕事をされていて、この企画の話を倉本さんから最初に受けたのですか?

中込「いえいえ、まず、先生と上層部がダイレクトに話し、具体化するに当って、僕に下りてきたんです」

ーー最初、フジテレビに持ちかけたら断られて、テレビ朝日に来たというお話はもうずいぶんと広まっていますが、枠を作ったっていうのはすごいことですよね。

中込「ねえ。どこの局だって、そんな枠をひとつ作るなんてことはそんなに簡単にできないですよ」

ーー昼ドラ枠は一回なくしていますしね、その点で、フジテレビを責めるのはさすがに酷な気がします。

中込「先生も、それはそうだといってますよ(笑)」

ーーただ、テレ朝さんが枠を作る決断ができたのは、いま、テレ朝さんがノッているともいえますよね。

中込「そうだと思いますね。トップの判断でよしやろうって言えたところがすごいと思います。正直、僕はそれを言われたとき、呆然としましたから(笑)」

ーー実際、どういう層が観ていますか?

中込「圧倒的に、ご年配の方がリアルタイムで観ています」

ーーネットでは、3、40代の方なども反応している印象ですが。

中込「テレビに関する生の声ってなかなか拾いにくいものでしたが、今はSNSが発達して、チェックしやすくなりました。ネットをチェックすると、若い方の感想をたくさん見かけます。年配の方の声は、病院に行くと、待合室でみんなが話題にしているそうです」

ーー私のレビューも、60代の方に読まれることが増えました。

中込「60代は若いほうです。リアルタイムは、7、80代が多いと思います。ロケをしていても、おじいちゃん、おばあちゃんが、石坂さんや浅丘さんに反応します。そのために作った枠ですから、成功ですが、そうはいってもすべての世代に観ていただきたい。こんなに批判が少ないドラマってないんですよねえ」

ーーたしかに、ネットをざっと観ると、褒めた記事が多いです。

中込「中には、話題を聞くのもいやだ、タイトルを見るのもいやだと言われることもありますよね。僕も炎上に近い目にあったことがありますが『やすらぎの郷』は、こわいくらいに、みなさん褒めてくださいます」

ーー8月の中旬にあった、ハッピーちゃんの強姦エピソードを描くこと、描き方に躊躇はなかったでしょうか。かなり短期間で話が進み、

彼女の復讐に、老人たちが活躍することのほうを優先したようにも感じました。実際、反響はどうだったのでしょうか。

 

中込「放送が済んだものに、あれこれ解説するのは本意ではないのですが……確かにたくさんの反響を頂きました。ハッピーを襲った不幸は、決して老人たちの活躍の場を作るための作劇ではありません。そのためにそうしたのではなく、そうなったからこうなった、ということなんです。その辺りが制作サイドの思いに反して伝わってしまっていたとしたら、僕らの力不足だったとしか言いようがないのです。ハッピーのエピソードは当初から構想に入っていましたし、躊躇はありませんでした。事件事故は突然起こるわけで、その中で人々がどう動いたか? を描くのがドラマなわけで。扱った犯罪が犯罪なので、不快に思われた方も多いと認識してはいますが、うわさが駆け巡ってしまったりするのも一方ではリアルだと思うんです。『忘れてください』という栄さんのナレーションにもたくさんの意見を頂きましたが、その前に栄さんは『私には何も言えなかった』と。これも僕にはとてもリアルに感じられました。そんな話を倉本先生とした記憶があります」

★後編に続きます。

前編のおわりに。

はじまった当初は、とにかく傑作、さすが倉本聰! という声が多かった『やすらぎの郷』。メインキャストのひとり野際陽子が亡くなった

悲しみを乗り越えて、ドラマが続いていく様に感動もひとしお。

老いることは決して悪いことばかりではない、人生の体験の堆積がひとを美しくする。だが、その美しさのある種の絶頂で、亡くなっていく

人々。哀しみと、それだけでない何か深いものが、胸いっぱいに広がっていく。

……と手放しに、感動していたところ、後半になって、〈やすらぎの郷〉のアイドル的存在だったハッピーちゃん(松岡茉美)が強姦されてしまうというエピソードには動揺した。

ドラマは後に、〈やすらぎの郷〉の女神・姫(八千草薫)の死に当たり、世阿弥の「時分の花」(若さによるもの)、と「まことの花」(年を経て得るもの)についてドラマは語ることになるが、まさに「時分の花」の象徴のようなハッピーちゃんのかけがえのない美しさが、無残に摘み取られてしまったことが、単に、センセーショナルを呼びたいがためのものだったとは思わない。

そこには、様々な思いがあったことだろう。だが、それを昼の娯楽ドラマで、長々と描き続けるのも難しいし、かといって、短くまとめてしまうことも難しい。ただ、難しいからといって、描かなくなるよりは、挑んだほうがいいともいえる。

いやがる人が多いため、近年、描かれなくなっている喫煙シーンも、このドラマではあえて入れているように、何かと自主規制されがちなことを『やすらぎの郷』ではあえて描くトライをしているのだろう。

後編では、この新たな枠をどう浸透させていったか、ゲリラ戦のような戦略についてや、最終回はどうまとめるのかなどを伺います。

【プロフィール】

Takuya Nakagome

1964年生まれ。制作会社を経て、2001年、テレビ朝日入社。代表作に『菊次郎とさき』シリーズ、『ハガネの女』シリーズ、宮藤官九郎が脚本を書いた『未来講師めぐる』、『11人もいる!』などのコメディから、『名探偵キャサリン』シリーズ、『ダブルス ふたりの刑事』など推理ものまで幅広く手がける。大学時代、免許をとると、まっさきに北海道にへ行き、レンタカーで『北の国から』ロケ地巡りをしたほどの倉本聰ファンである。

『やすらぎの郷』より  写真提供:テレビ朝日
『やすらぎの郷』より  写真提供:テレビ朝日

帯ドラマ劇場『やすらぎの郷』(テレビ朝日 月~金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分~) 

脚本:倉本聰  

出演:石坂浩二、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、名高達男、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、山本圭ほか

最終回は9月29日(金)

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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