Yahoo!ニュース

イチローさんとの交流で得たもの

中川路里香フリーランスライター
一挙手一投足にメッセージを込めたイチローさんから、彼女たちは何を感じたのか

強化プログラムは無事に終了

全日本女子野球連盟、全国高等学校女子硬式野球連盟主催で、『女子高校野球選抜強化プログラム2021』が、12月18日(土)、19日(日)の2日間の日程で行われました。

18日にイチローさん率いる草野球チーム、KOBE CHIBENとの交流戦を終えた女子高校硬式野球選抜チームは(イチローさんが、女子野球 未来の全日本戦士たちと交流)、翌19日に履正社高校女子硬式野球部との強化試合に臨みました。

試合は、初回に履正社高校に1点を先制されましたが、2回裏には5点を入れ逆転する貫禄を見せ、5対2で勝利しました。こうして2日間に渡り実施された強化プログラムが終了しました。選手たちは参加したことで、何を感じ得たでしょうか。何人かに話を聞けました。

「痛いより嬉しかった」神野百花さん

KOBE CHIBENとのエキシビションマッチで、先発マスクをかぶり試合の前半に出場した神野百花さん(福知山成美)は、2打席連続でイチローさんから死球を受けるという名誉な⁈打席となりました。

「この日をとても楽しみにしていました。アウトコースの変化球に狙いを絞って踏み込んだところにスライダーが入ってきて当たってしまいました。痛みはなく嬉しかったです。イチローさんからヒットを打ちたいと向かっていけたところは良かったです」といい、配球については「バットに当てる技術はさすがなので、インコースを攻めた」と話しました。「プロ野球、メジャーを経験したイチローさんが、女子野球へ目を向けてくれたことが嬉しいし、私自身も女子野球が発展していっていると実感しているので、メジャースポーツになるよう、これからも野球へしっかり向き合いたいです」と、力強く話しました。

ボールがわき腹に当たった瞬間、飛び上がって痛がる神野さん
ボールがわき腹に当たった瞬間、飛び上がって痛がる神野さん

死球を与え、神野さんに帽子を取って詫びるイチローさん
死球を与え、神野さんに帽子を取って詫びるイチローさん

「感動を与えられるプレーヤーに」吉安 清さん

ジャイアンツ女子チームに内定している、吉安 清さん(至学館)は、投手も野手もこなす二刀流。交流戦では打者イチローさんとも対戦、変化球を打たせて見事、ピッチャーゴロに打ち取りました。それなのに自身は少し納得していないようでした。「得意のストレートで押し切れなったのが悔しい。今の自分のストレートでは全く通用しそうになかったからです。次に対戦するときは自信を持って(ストレートを)投げられるようになります」と話し、ジャイアンツ女子の一員となることを踏まえ、イチローさんの細かなところまで考えた振舞いを指して「これからは、人に見られているだけでなく魅せていくことを意識して、感動を与えられるようなプレーヤーになりたい」と抱負を語りました。

「イチローさんはプロとしての姿勢が素晴らしい。女子野球の発展のために私も頑張りたい」と話した吉安さん
「イチローさんはプロとしての姿勢が素晴らしい。女子野球の発展のために私も頑張りたい」と話した吉安さん

「球が速くて止まって見えた」松本里乃さん

松本里乃さん(高知中央)は5人目としてマウンドに上がり、イチローさんの二打席目で対戦しました。また、投手ということで、滅多にない打席にも立ち、イチローさんの投げる球を生で見ました。

「これまでやってきたことを思い出しながら良い軌道で投げることを心がけて投げました。反対に自分が打席に立った時は、球速が速すぎてボールが一瞬止まって見えた」そうで、3球ファウルしましたが、当たったことにビックリしたそうです。最後は見逃し三振となりましたが「当たる!と思ってよけたら、ど真ん中でした。もう、何もかも凄かったです。フルイニング投げられたことも格好良かったです。現役の頃から積み上げてきて、引退されてからも野球に携わってこられたからこそだと思うし、結果を出す方ってこういう人なんだなって」と感激していたようです。「貴重な経験をバネに、辛いことがあっても乗り越えていきたいです」と話しました。

選抜チームについては「いつもは敵同士なのに、一緒の空間に居られて楽しかった」と話した松本さん
選抜チームについては「いつもは敵同士なのに、一緒の空間に居られて楽しかった」と話した松本さん

「これがホップしたボール」吉見心夏さん

吉見心夏さん (神村学園)は、交流戦に二番・ショートで出場、イチローさんが投げるごとにバットの出し方やタイミングを何度も確認するしぐさが見られました。打席に立った二打席とも、思い切りのよいスイングを見せながら空振り三振となりました。

「全くはじめて見る球筋でした。手元でグッと上がってくるというか、これがホップするということなんだと実感しました。監督からは『バットを短く持って』とアドバイスされましたが、手からボールが離れたと思ったら既に手元に来ているくらい速くて、全く通用しませんでした。交流できて嬉しかったです。これからは大学で野球を続けますが、私もイチローさんのようにたくさんの人から応援される選手を目指します」

退くことなくフルスイングをした吉見さん
退くことなくフルスイングをした吉見さん

「丁寧にプレーをしていきたい」岡田樹花さん

エキシビションマッチでセカンドを守っていた岡田樹花さん(新田高校)は、小さい頃からイチローさんの大ファンだったそうです。試合で併殺をとれなかった自分の守備への反省も口にしました。

「イチローさんと試合ができると知った時は、思わず泣いてしまうほど嬉しかったです! だって、小さい頃から本当に大好きな選手だったから。投げるテンポが早いし、低いと思って見逃がすと(ストライクゾーンに)入っていたり、何もかも格が違いました。1アウトランナー一塁の場面でのサードゴロの併殺できなかったところなど自分はまだまだ。イチローさんのように丁寧さを見習いたいと思います」。高校卒業後は、広島大会で対戦したことがきっかけで入部を決意したというクラブチームで野球を続ける岡田さん。「豪快な打撃や鍛え上げられた守備が魅力のチーム。自分がどこまで通用するのか挑戦したいです」と目を輝かせていました。

「自分がどこまでできるか挑戦したい」と意気込む岡田さん(左)、吉見さん(右)と笑顔でインタビューに応じてくれました
「自分がどこまでできるか挑戦したい」と意気込む岡田さん(左)、吉見さん(右)と笑顔でインタビューに応じてくれました

「まずは得意を伸ばして」藤本莉央さん

藤本莉央さん(岡山学芸館)は、交流戦では一番・ショートで出場、2日目の強化試合の二打席目に勝ち越し打となるライト前ヒットを放ちました。その勝ち越し打について「打ったのはカーブ。一打席目で変化球のタイミングが合うなと感じていたところに、初球に(変化球が)来たので素直にバットが出ました。イチローさんからのアドバイスで最後までしっかりとボールを見て打つことを心がけのでバットに乗せて振り切れました」と話しました。守備は好きだけどバッティングは苦手という藤本さんは、どう克服したらよいかをイチローさんに質問したところ「まず得意を伸ばして、それから苦手を克服すれば良い」とアドバイスされたそうです。強化試合前には、バッティング練習後に守備練習というスケジュールに、『好きな守備練が控えているからバッティング練習にも身が入った』と心の持ちようも教われたようです。

交流戦ではショートで好守備も見せた藤本さん(左から2人目)
交流戦ではショートで好守備も見せた藤本さん(左から2人目)

「“逆に”より“反対に”が僕は好き」宮木 彩さん

最後は、宮木 彩さん(京都両洋)。宮木さんは、ベンチに下がった後はチームメイトのバット引きをするなど、ヒットで盛り上がるベンチメンバーの横で黙々と裏方の仕事をする姿が光っていました。自チームではキャプテンも務めていた彼女らしいコメントが聞けました。

「イチローさんとの交流で一番印象的だったのは、野球講座でのこと。誰かが質問したときに『反対に』という言葉を発したら、イチローさんが『今、“逆に”ではなく、“反対に”という言葉を使ったよね、僕はその言葉の方が好きだな』と感心したことに驚きました。発言の意図はわかりませんが、プレーはもちろん、自分が発する言葉の一つ一つにまでこんなふうに考えているのだと感じ見習いたいと思いました」と話し、「集まってきた選手たちは、凄い人ばかりで刺激を受けたし、夜の勉強会ではためになる話が聞けました。学校へ戻ったら後輩たちにも伝えたいです」とも語りました。

言葉だけでなくこうしてイチローさんと同じグランドに立ったことは、宮木さん(左)にとっても貴重な経験となったことでしょう
言葉だけでなくこうしてイチローさんと同じグランドに立ったことは、宮木さん(左)にとっても貴重な経験となったことでしょう

今回の強化プログラムは、女子野球界にとっても大きな財産となることでしょう。

(写真は全て筆者)

フリーランスライター

関西を拠点に活動しています。主に、関西に縁のあるアスリートや関西で起きたスポーツシーンをお伝えしていきます。

中川路里香の最近の記事