日本で密かにブームな北欧の指輪「トムウッド」の凄さとは/外見を飾ることに関心が低いノルウェーで変化
北欧5か国の中で、ノルウェーはファッションにおいてはやや遅れをとっている(※アウトドアファッションを除く)。そんな中、日本や世界各国で注目を集めつつあるノルウェーブランドがある。「トムウッド」(Tom Wood)だ。
首都オスロにある世界で唯一のコンセプトストアには、トムウッドの指輪を買いに世界中からの旅行者が訪れる。
「先日も日本の旅行者の方が、日本で未発売の新しい指輪を何個か購入されましたよ」と店長のフレドリックさんは話す。ノルウェー現地で購入すると価格が驚くほど安いため、世界中からトムウッドファンが訪れているのだ。
ノルウェー人女性モナ・イェンセンさんが2013年に立ち上げたトムウッド。現在は服やサングラスも手掛けているが、なによりもボリュームのある指輪が国内外で注目を集める。存在感があり、男性的でありながら女性的な美しさも感じさせる、ユニセックスのデザインだ。インスタグラムに写真をアップする人も多い。
トムウッドの凄さといえば、ファッション(ましてやジュエリー!)にお金をかけることにあまり興味がないノルウェー人「男性」に、「指輪を買いたい」という衝動を起こさせたことだ。
ただでさえ普段着にお金をかけない国民性で、特に男性は「王道の安全な服」を好む。この傾向は現地のデザイナーたちにとって悩みの種となっている。
トムウッドの指輪がノルウェー国外ですぐさま認められたことはさほど驚かない。一方、ノルウェー人男性という固定客を人知れず増やしつつあるという事実は、現地でもっと評価されてもよい気がする。トムウッドによると、購入者の40%は男性、60%は女性だそうだ。
デザイナーのイェンセンさんは、トレンドの移り変わりを取材でこう語る。
「ジュエリーに関していえば、もっとフェミニンで薄い指輪が定番でした。大きくて、フェミニンさを減らしたユニセックスのトムウッドは、これまでの常識を覆したのかもしれません」。
「ここ2年間の間に日本ではすぐさま受け入れられ、英国や米国でも人気が出始めています。多くの国でインフルエンサーからも注目されました。最近ではラッパーのケンドリック・ラマーがミュージックビデオ『DNA.』で私たちの指輪を2個使用しています」。
トムウッド指輪の人気の理由は、「新しい表現方法を象徴していること、他の指輪とも簡単に組み合わせることができるシンプルさかもしれません」とイェンセンさんは分析する。
親日家の彼女は、日本の顧客に会うために毎年来日しているという。
「トムウッドという指輪が、実は日本で売れているらしい」ということはノルウェー国営放送局NRKや他メディアにも取り上げられたことがある。ノルウェーの人々は自国ファッションへの関心や知識が低いので、自国ブランドが国外で人気だと知ると不思議そうに驚くのだ。
中には「ノルウェーにはいい国産ファッションブランドはない」と思っている人も多い。国外よりも現地でブランドとして認知されるほうが、ノルウェー人デザイナーにとっては大変なのではないかと感じることもある。
筆者がオスロの店頭で撮影中、常連らしきノルウェー人の男女のペアが訪れ、楽しそうに指輪を物色していた。「日本でも売れているんですよ」と店長のフレデリックさんが話すと、「そうなの?」と意外そうに反応し、ニコニコしていた。自分の国のブランドに誇れるものがある。それを知ってか、その人はちょっと嬉しそうだった。