Yahoo!ニュース

世界一有名なサポーター、太鼓のマノーロさんはEUROに「参戦」せず

小宮良之スポーツライター・小説家
スペイン代表を応援する太鼓のマノーロさん。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

太鼓のマノーロさん、EURO2016には「不参加」を表明した。

マノーロさん(本名マヌエル・カセレス)は1982年のスペインW杯から34年にわたり、スペイン代表が出場したあらゆる大会にサポーターとして参加してきた。スタンドで太鼓を叩き、雰囲気を盛り上げ、やがてスペイン代表の象徴的存在になった。今や試合前に通りでマノーロさんが太鼓をどんどんと鳴らすと、大勢のファンが集まって記念撮影をするほどだ。

しかし、世界で最も有名なサポーターはEUROでは見られない。

その理由は、67歳という高齢と、肥満による心臓の負担がある。実は2010年の南アフリカW杯は、大会前から原因不明のウィルスで咳が止まらなくなり、げっそりとしていた。とても長旅ができる状態ではなかった。それでもマノーロさんはアフリカの大地で太鼓を打ち続け、スペイン代表は史上初めて世界王者になった。

マノーロさんがスペイン代表を太鼓で応援するようになったのは、1976年と古い。もともとはバレンシアの熱狂的ファンで、メスタージャスタジアムのそばにあるバーを経営。自分のバーで代表やバレンシアを盛り上げるだけでは飽き足らず、自らスタジアムに乗り込むようになった。バイタリティに溢れ、何度か女性と浮名を流す報道も流れている。

最近のマノーロさんは、スペイン代表の広告塔として活動。サッカーだけでなく、バスケット代表のEUROにも参加。その存在はスペイン代表に欠かせない。W杯の応援で体調が悪くなった場合は、代表のドクターが診察するほどである。日本で言えば、「ゆるキャラ」のようなシンボルと言えるだろうか。

マノーロさんはスペイン代表がしばらく国際タイトルに恵まれず、代表人気がクラブ人気に比べ、はるかに低かった時代でも、盛んに太鼓を叩き続けた。そして昨今になって、代表はEUROを連覇し、2010年のW杯で優勝。マノーロさんはスペインの不遇と栄光を目の当たりにしてきた生き字引と言える。

EURO直前のジョージア戦、マノーロさんはスタンドに太鼓を持って姿を現している。今後の健康状態次第では、EUROへ駆けつける可能性もわずかにあるという。スペインサッカー連盟は、「もしスペイン代表が決勝に進んだ場合、マノーロさんを“代表に緊急招集する”可能性もあるとアナウンス。当然、旅費なども連盟が払うことになるだろう。

世界で一番有名なサポーターがフランスで見られるときーー。スペイン代表は大会三連覇を果たしているに違いない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事