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老犬が収容施設で最後を過ごす悲しすぎる現実… 飼い主がとるべき行動とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ideyuu1244/イメージマート)

コロナ禍で、ペットブームが到来しています。裏では、行政の動物収容施設側は満杯状態だそうです。その中には、老犬の姿も少なくないといいます。SNSでは、赤ちゃんを見守っている犬の動画やかわいい寝顔の写真などで溢れています。それなのに、なぜこのような事態が起こるのでしょうか。それは、飼い主のあまりにも身勝手な行動だけが原因なのでしょうか。18歳の犬と暮らしている筆者と一緒にその背景を考えてみましょう。

昨年秋、「人と動物の共生」をテーマに活動するフォトジャーナリストの児玉小枝さんが、『老犬たちの涙−”いのち”と”こころ”を守る14の方法』(KADOKAWA)という書籍を刊行されたそうです。そんな児玉さんがインタビューに答えた内容の一部が以下になります。

 児玉さんは、一時は“家族”だった老犬たちが、人間の手によって行政施設に送られることが、犬の心を深く傷つけると憂慮している。犬は、突然家族に捨てられ、わけも分からず、冷たいコンクリートの上で困惑し、悲しみにくれるのだ。

 児玉さんは、老犬たちが行政施設に連れてこられる理由は、大きく分けて4つあるという。

・老老介護の破綻

・看取り拒否、介護放棄

・引っ越し

・不明(迷い犬として捕獲・収容される)

 どれもが人間の身勝手さによるものだ。行政施設では「ここに置いていくと、殺処分されますよ」という職員の声に耳を貸さず、「構いません」と背を向けて立ち去る飼い主もいるのだという。

「殺処分したくはないが…」

人気犬種も例外ではない

 一方、収容する行政施設側は満杯状態で、人手も乏しいため、長期間に渡って老犬たちの世話をする余裕はない。飼い主が持ち込んだ老犬の収容期間は短く、その日のうちに殺処分されることさえあるという。収容期間中に引き取って飼いたいという人が見つからなければ、殺処分されてしまう。

 多くの場合、犬たちは「ドリームボックス」と呼ばれる部屋に入れられ、二酸化炭素を充満させて窒息死させられる。「安楽死」とは程遠く、どの犬も苦しみもがいて死んでいくそうだ。

 児玉さんが知り合った行政施設の職員は、老犬たちを捨てていった飼い主への悔しさをにじませながら「無念だ」と言ったという。殺処分したくはないが、回避することもできない。いまのところ、人間の身勝手な都合で行政施設に連れてこられた老犬たちを救うための特効薬はない。

出典:手放され収容された老犬たち 殺処分が迫る「老犬たちの涙」

児玉さんの話を簡潔にまとめると、飼い主たちは老犬を行政の収容施設に連れて行くと、殺処分されることがわかっているそうです。それにもかかわらず、犬たちは連れて行かれます。その理由は以下です。

・老老介護の破綻

・看取り拒否、介護放棄

・引っ越し

・不明(迷い犬として捕獲・収容される)

上記のような飼い主に対して、行政側は、無念で悔しいと言っています。確かに、老犬は、飼い主の都合で、命を奪われます。このようなニュースのたびに、「愛がない」「信じられない」「動物の命を何だと思っているんだ」「飼う資格が元からない」などの非難が起きます。たしかにそうかもしれませんが、飼い主だけの問題なのでしょうか、その辺りを考えましょう。

長い年月を一緒に暮らしたけれど、それでも飼育放棄する理由は?

老犬と書かれているので、7歳以上の犬なのでしょう。ひょっとしたら、十数歳以上の子かもしれません。3歳、4歳で、すぐに飼育放棄をしているのではないです。7歳までは、大切に育てたのですが、どうしても飼えなくなってしまったのでしょうね。止むに止まれぬ理由があるのでしょう。そこで、老犬の問題点を考えてみましょう。

老犬の問題点

・がんや心臓病などの難治性の病気になる。

シニアになると、がんや心臓病などの一生涯、治療がいる病気になる場合もあります。たとえば、膀胱炎なら、抗生剤を飲むとほぼ完治します。でも難治性の病気は、一生涯治療をすることになり、経済的負担が多くなります。もちろん、獣医師と相談して、治療を決めることはできますが、人と同じような保険制度ではないので、その辺りは難しいです。

・認知症になり、夜に鳴いてご近所に迷惑をかける。

がんなどの難治性の病気にならなくても犬猫にも認知症があります。始めは、グルグル回っている程度ですが、夜昼が逆転になり、夜に鳴き続けます。近所から、苦情が来る場合もあります。そんなことから、飼い主は、夜に看病をして睡眠不足に陥るのです。

・オシッコ、ウンチなどの排泄を失敗する。

これといった病気をしなくてもシニアになると、加齢のために膀胱や肛門の平滑筋の収縮力が弱くなって、排泄を失敗することになります。衛生的な環境にするために、こまめに世話をする必要が出てきます。

・関節や筋肉の疾患で、寝たきりになる。

人と同じように寝たきりになる子もいます。そうなれば、もちろんオムツになりますし、床ずれ予防のために数時間に1度、寝返りを打たす必要があります。

飼い主の問題点

・飼い主の高齢化に伴い、年金生活者になり、経済的に老犬を世話することは難しい。

飼い主が年金生活になり、収入が決まっているのに、がんの治療が数万円、かかるととても払うことが難しくなります。治療をしてあげたくても、経済的に無理になるのです。若いときは病気をしないペットでも、シニアになると病気は増えます。

・飼い主の体力が落ちたり、難治性の病気になり、老犬を衛生的に世話することができない。

経済的に問題がなくても、体が思うように動かないので、老犬の世話が細やかにできにくくなります。老犬は、排泄を失敗することもあります。そのとき被毛が汚れていると、きれいにシャンプーします。それもできなくなります。それに加えて、老犬になると、食事を食べるときに、その周りに食べ物をこぼして汚すようになります。犬は、シニアになると若いとき以上に、衛生的な飼育に時間や手間がかかりますが、飼い主が高齢になるとできにくくなります。

・老犬の「老い」が飼い主の「老い」と重なり飼い主のメンタルにダメージがある。

飼い主が、高齢になり、老犬の世話をしていると、自分の老いと重なり、精神的にダメージを受ける人もいます。老犬のがんなどの世話をしていると、亡くなった夫や妻のことを思い出して辛く耐えられないなどがあります。

このように、老犬と飼い主の問題が、複雑に絡みあって、収容施設に、愛した動物を連れていく人も現実にいるのです。私は、毎日、臨床現場で、がんの治療をしています。ペットは、人のような保険(ペット保険はありますが、人の保険ほど内容が充実しているわけではない)がないので、年金暮らしの場合などは特に、経済的に厳しいという現実があります。肉体的にも精神的にもどうしようもなくなって、施設に連れて行っている人もいます。それで、振り返りもせずに、愛した老犬を冷たいコンクリートの上に置いていくのでしょう。

ペットの現状

30年以上前の犬だと、数歳ぐらいでフィラリア症で命を落としていました。それで、10歳までも寿命がない子がほとんどでした。そんな、朝、起きたら、外で犬が亡くなっていたという時代だと「老犬の問題点」などはありませんでした。

時間は流れて、令和になり、犬の寿命は、ご長寿になりました。長生きするということは「老い」「病気」もあることは、当然です。それで、終身飼育できない人が出てくるのでしょうね。

獣医師の立場からの提案

犬や猫は、長生きします。10年以上生きる子が多いです。シニアになると、病気もすると、お世話もたいへんです。現に、筆者は、18歳の犬と暮らしていますが、オシッコをそこかしこでするため、フローリングには、ペットシーツを多く敷き詰めています。認知症で、ときどき、グルグル回るので、その薬も内服をしています。口腔内トラブルで、家にいるときは、愛犬が水を飲めば、汚れるので、毎回、水を新鮮なものに交換しています。筆者は元気なので、このように動くことができますが、体に具合の悪いところがある飼い主なら、困難になるのでしょう。あれだけ、愛した犬でも、嫌になりどうしょうもなくなり面倒が見られなくなって、収容施設に連れて行くのでしょうか。

犬を迎える人へ悲しすぎる現実を減らすための提案

いまや犬は長寿になり15歳以上子も割合にいます。

飼い主は、犬を迎えるとき、15年以上犬が生きても、困らないような経済状況か、そして、体がちゃんと動くかを考えないと、このような犬も飼い主も悲しすぎる現実が生まれるのです。

飼い主が生きていれば、いいというわけでなく、体が動いて、動物病院に連れていけるだけのある程度の経済力は必要なのです。たとえば、若いときは、ペットはあまり病気をしないので、シニア期に備えて、貯金をしていくとかもいいですね。そこまで考えて動物を迎えてくださいね。このような現実があることを飼い主にアナウンスしてこなかった獣医師や行政にも責任があるのでは、と思うようになりました。

報道がされるごとに、信じられない飼い主がいると、責めるだけで終わりがちです。これでは、犬や猫の環境が改善されません。私もこういったメディアで発信する立場ですので、しっかり提言をしていかなければと改めて感じています。

めったにないことかもしれませんが、老犬を収容施設に連れて行く現実はあるのです。簡単に解決できる問題ではないかもしれません。それでも、ペットの現実、そして時代背景を考えていくことが大切ではないでしょうか。

「老い」もまた「かわいい」といえる人が増えることを切に願います。筆者は、目があまり見えない老犬の目の前に豆乳を入れた容器を置きます。自分のコップにも豆乳を注ぎ、それを老犬と一緒に飲む時間は、至福のときです。ペットを飼うことは、命を預かることなので、終身飼育を念頭にして飼いはじめましょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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