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卑わいな言動によるセクハラは相手の拒絶がなくてもアウト! 犯罪に当たる場合も

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 言葉によるセクハラが話題だ。民間企業内での事案ではあるが、既に最高裁は、たとえ相手の拒絶がなかったとしても、卑わいな言動によるセクハラそのものをアウトだと判断している。この機会に振り返ってみたい。

【事案の概要】

 2011年、大阪にある水族館「海遊館」の運営会社におけるできごとであり、事件の登場人物は次のとおりだ。

X男:サービスチームの責任者で2009年からマネージャー(課長代理級)

Y男:Xの部下で2010年から課長代理

A女:別会社からの派遣社員で売上管理担当(30歳)

B女:別会社の従業員を兼ねた拾得物担当(25歳)

 1年あまりにわたる営業部内でのセクハラ発言が問題とされたが、具体的には次のようなものだった。

X男の発言

(1) A女に対するもの

(複数回、自らの不貞相手の年齢や性生活の話をしたり、不貞相手のメールや写真を見せた上で)

「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」

「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん」

「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」

「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから」

「この前、カー何々してん」(“セックス”という単語をA女に言わせようと仕向けたもの)

(「海遊館」に来た女性客について)「今日のお母さんよかったわ」「かがんで中見えたんラッキー」

Y男の発言

(1) A女に対するもの

「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」

「30歳は、22、3の子から見たら、おばさんやで」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」

「もう30歳になったんやから、あかんな」

「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」

「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで」

「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん」

(2) A女とB女に対するもの

(具体的な男性従業員の名前を複数挙げた上で)

「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ」「地球に2人しかいなかったらどうする」

【会社側の処分と一審、控訴審の判断】

 2011年12月、会社側はA女の被害申告によって事態を把握した。

 A女は報復などを懸念してX男らへの抗議や会社への申告を控えてきたが、X男らのセクハラが一因となって「海遊館」での勤務を辞めることとなり、残されたB女らのことを考え、申告に至った。

 会社側は調査を行い、X男を30日間、Y男を10日間の出勤停止とした上で係長クラスに降格し、給与なども減額とした。

 X男は2011年12月末で退職したが、Y男とともに懲戒処分の無効確認などを求めて提訴した。

 一審、控訴審ともX男らの言動はセクハラにほかならず、懲戒事由に当たること自体は認めた。

 ただ、一審は会社側の処分を妥当と判断したものの、控訴審は懲戒権の濫用であり、出勤停止や降格は重すぎるとして、X男らを勝訴させた。

 その理由は、A女から明確な拒絶がなく、X男らとしてもA女が許容していると思い違いをしていた、セクハラに基づく懲戒処分の具体的な方針を知る機会がなかった、会社側から個別に警告や注意を受けていなかった、といった点だった。

【最高裁による判断とその理由】

 以上に対し、2015年2月、最高裁は会社側の処分を妥当とした。

 X男らの言動のあまりの酷さを問題視したからだ。

 また、X男らは管理職であり、会社側の懲戒処分方針を当然に認識すべきだったし、会社側も個別のセクハラ行為を知り得なかった以上、警告や注意を行う機会がなかったことから、控訴審が挙げたそのほかの事情についてもX男らに有利に考慮すべきでないとした。

 特に重要なのは、控訴審が指摘していた「A女から明確な拒絶がなかった」という点について、内心で著しい不快感や嫌悪感を抱きつつ、職場の人間関係の悪化などを懸念して抗議や被害申告を差し控えることが少なくないことから、それをX男らに有利に考慮することは相当でないと判断した点だ。

 もちろん、相手が拒絶していれば、完全にアウトだ。

 このケースについて、出勤停止という処分すら甘すぎ、むしろ懲戒解雇でよかったのではないか、という見方もあるだろう。

 それだけ社会はセクハラに厳しい視線を注いでいる。

 この最高裁判決を前提とすると、会社側が日ごろから社内研修などの機会にセクハラ防止や違反行為に対するペナルティなどを従業員に周知しており、発言内容が客観的に見てセクハラに当たるものでありさえすれば、たとえ被害者の拒絶がなかったとしても、なお違法と判断されることとなるだろう。

 会社側も社内で予防措置をとっていなかったり、セクハラ行為者に甘い対応をしていれば、社会から厳しいバッシングにさらされるはずだ。

 実はY男は、社内でのセクハラ研修の後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ」などと言って、研修の内容そのものを揶揄(やゆ)していた。

 セクハラ研修に参加したり、セクハラ防止に向けたパンフレットなどを読んで、本音では「触ってないならいいじゃないか」などと同様の思いを抱いている人も多いだろう。

 しかし、そうした発想こそが、まさしく懲戒予備軍にほかならない。

【犯罪になる場合も】

 セクハラでも、相手の身体に触れた場合、強制わいせつ罪などに当たりうることは容易に想像できるだろう。

 他方、身体に一切触れない言葉によるセクハラであっても、その内容によっては、名誉毀損罪や侮辱罪に当たりうる。

 また、各都道府県の迷惑防止条例は、痴漢や盗撮と並び、「公共の場所」や「公共の乗り物」において人を著しく羞恥させたり不安を覚えさせるような「卑わいな言動」に及ぶことそのものを罰則つきで禁じている。

 例えば、「公共の場所」の一つである飲食店で、嫌がる会食相手の女性に対し、男性が「おっぱい触っていい?」「手しばっていい?」「抱きしめていい?」などと繰り返し言えば、「卑わいな言動」に当たるとして迷惑防止条例違反に問われるかもしれないので、注意を要する。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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