安田記念を連覇したウオッカについて、四位、武豊、ルメールといった名手が語る
将来の活躍を予見したダービージョッキー
今年の安田記念で1番人気になりそうなのがグランアレグリア(牝5歳、美浦・藤沢和雄厩舎)だ。勝てば連覇達成で、同レースの連覇となると2008、09年のウオッカ以来の快挙となる。
06年デビューのウオッカ。四位洋文騎手(当時、現調教師)を背に阪神ジュベナイルF(GⅠ)を勝ち、JRA賞最優秀2歳牝馬に選定された。
翌07年の3歳時は桜花賞(GⅠ)こそ2着に敗れたが、その直後、歴史に残る激走を披露する。牡馬相手となる日本ダービー(GⅠ)に挑戦すると見事にこれを制覇。実に64年ぶりとなる牝馬のダービー制覇という偉業を成し遂げたのだ。
当時、騎乗していた四位は言った。
「皇太子殿下(当時)が行啓された記念すべきダービーで、牝馬で優勝する事が出来たのは何にも代え難い思い出になります」
レースに関しては「とにかくナーバスにならないように、常に声をかける事でリズム良く走れた」と続け、最後に次のように言って〆た。
「牡馬相手にこれだけ強い勝ち方が出来るのだから、今後がますます楽しみですね」
「ウオッカに助けてもらった」と天才騎手
その言葉を証明するようにウオッカは大活躍をした。08年に安田記念(GⅠ)を勝つと天皇賞(秋)(GⅠ)も優勝。翌09年にはヴィクトリアマイル(GⅠ)から安田記念(GⅠ)を連勝してみせた。天皇賞(秋)からのGⅠ3戦でいずれもこの名牝を先頭でゴールに導いたのが武豊だった。ヴィクトリアマイル、安田記念と連勝する直前にはドバイへ飛び、ドバイデューティーフリー(GⅠ、現ドバイターフ)とその前哨戦のジェベルハッタ(GⅡ、現GⅠ)に挑戦。いずれも日本のナンバー1ジョッキーが騎乗したが、ここでは結果を残せなかった。それを踏まえ、彼は言った。
「ドバイも状態は悪く思わなかったけど、何かほんのちょっとの事で本来の力を出せなかったのだと思います。帰国後の2戦が彼女の本当の姿です。安田記念では直線で前が壁になり、正直、褒められた騎乗は出来なかったけど、ウオッカに助けてもらいました。彼女は本当に凄い馬ですね」
「マシーンのような馬だった」と短期免許のパートナー
もう1人、ウオッカの手綱を取った男の弁を最後に記そう。安田記念連覇を決めた年の秋、ジャパンC(GⅠ)では当時、短期免許を取得して来日中だったC・ルメールが騎乗した。レースは早めに先頭に立つと、最後は猛追してきたオウケンブルースリをハナ差だけ退けて優勝。ウオッカにとって当時のJRAタイ記録となる7つ目のGⅠ勝利を飾った。ルメールは述懐する。
「ウオッカは指示すると即座にそれに応えて走ってくれる馬でした。まるでマシーンのようで、感情を感じる事が出来ませんでした」
ちなみに引退後のウオッカはアイルランドで繋養されていた。私も何度か訪ねさせていただいたが、現地の担当者は「子供に対しては結構放任主義だけど、いざという時はお母さんらしい感情で接していますよ」との事だった。一昨年、早世したのが残念でならない。星になった名牝と入れ替わるように、新たな名牝が歴史を作るのか。今年の安田記念に注目したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)