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強すぎる弟子・藤井聡太二冠(18)師匠・杉本昌隆八段(52)との3度目の戦いにも勝利 叡王戦八段予選

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月3日。大阪・関西将棋会館において第6期叡王戦・段位別予選八段戦C▲藤井聡太二冠(18歳)-△杉本昌隆八段(52歳)戦がおこなわれました。

 19時に始まった対局は21時23分に終局。結果は73手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 藤井二冠は3度目の師弟戦を終え、八段予選決勝に進出しました。

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師匠が率先して下座に

 多くのファンが望んでいたであろう、杉本八段と藤井二冠の師弟戦が実現しました。

杉本「今年はもう当たらないと思ってたので。6月(竜王戦3組決勝)の段階ではさすがに今年はもう当たらないような気がしてたんですけど。うーん、こんなに早く当たるとは思わなかったというか(苦笑)。前回はまだ藤井二冠が七段の時だったかと思いますが、改めて、わずか半年でタイトルを2つ取ってるという成長というか、活躍を感じましたね」

 対局開始のずいぶん前、杉本八段は早々に下座に荷物を置いて席を取っていました。師匠が下座にすわったことについてどう思うのか。杉本八段は次のように答えていました。

杉本「当たり前のことなんで、何も・・・(笑)。間違っても(藤井二冠が下座に)すわらないように早めに来て、荷物を(置いて下座を)確保してましたので。当然のことだと思いました」

 杉本八段は以前から公言していた通り、師匠である自身がタイトルホルダーの弟子を立てて、席次通り下座にすわったことになります。

 対して藤井二冠。

藤井「どちらも空いていたら下座にすわるつもりだったんですけど、ただ、先に荷物を置かれてしまったので」

記者「そこらへんで師匠の優しさを感じられたということですか?」

藤井「あ、そうですね、はい」

 藤井二冠はそう言って微笑んでいました。

 藤井二冠は3回目の師弟戦で、初めて上座に着きました。

藤井二冠、いつもながらの鮮やかな寄せ

 振り駒の結果、「歩」が3枚出て、先手は藤井二冠に決まりました。

 19時、対局開始。まず注目されるのは振り飛車党の杉本八段がどこに飛車を振るかです。

 6手目。杉本八段は作戦を明らかにする前に、端9筋を突きます。対して藤井二冠もすぐに端を突き返します。この序盤での思想は藤井二冠の影響で、現代のスタンダードになりつつあるようです。

 10手目。杉本八段は四間飛車に構えました。これは畠山鎮八段戦と同様です。

 畠山八段戦では、杉本八段は現代最新の金無双に組みました。本局ではオーソドックスな美濃囲いに。ただしそこに至るまで、細かい駆け引きがあるのが現代流です。

 27手目。藤井二冠は▲9八香と上がります。これは穴熊に組もうという意思表示です。対して杉本八段は銀を上がって機敏にけん制。飛車を3筋に振り直して、速攻できる態勢を作ります。

 対して藤井二冠は穴熊に組まず▲7八銀と左美濃に。このあたりは虚々実々の応酬でした。

藤井「▲7八銀と上がった手が▲9八香と上がった方針と合わないので、そのあたりもう少し、関連のある手を選ばないといけなかったと思います。(杉本八段に)序盤から機敏に動かれて、こちらがうまく対応できないところがあったので、そのあたりがうまく指されたのかなと思いますし、自分にとっては課題なのかなと思いました」

 藤井二冠は6筋の歩を中段に進めて角筋を開き、動いていく姿勢を見せます。対して杉本八段は玉が薄くなるのを承知の上で、玉とは逆サイドに金を上がって、いったん角の動きに対応します。そのあとで6筋の位に向かって反発。駒がぶつかって戦いが起こりました。

杉本「序盤は予定通りで、香車も上がってくると思ってまして。そうなる可能性が高いと思ってたので。▲5五角以降(46手目)▲4六角の局面がちょっとわからなかったですね。そこの局面が互角かなと思ったんですけど、うーん・・・。そこが苦しいんだったらちょっと、やりすぎたかもしれないです。▲9八香は一応とがめてるというか。▲9八香はいきない展開になってるんで。主張はあるような気はしましたが、ちょっとわからなかったです」

 ▲4六角の局面が手広くてよくわからなかったという杉本八段。形勢はほぼ互角だったようです。

 叡王戦予選の持ち時間は各1時間。藤井二冠は49手目、時間を使い切って、あとは一分将棋。そして決断よく、強く飛車をぶつけました。

 藤井二冠は1歩損をした代償に、左美濃の堅さをキープしたまま強く決戦に出ることができました。

 杉本八段は残り2分。そして飛車交換に応じます。玉の堅さの差では、藤井二冠に分があります。ここでは藤井二冠がペースをにぎったかとも思われました。

藤井「序盤は失敗してしまったかなというふうに思って指していました。そのあと飛車交換になって、形勢はわからなかったですけど、こちらの玉が寄らないように指せればと思ってました」

 対して杉本八段も藤井陣に厳しく迫っていきます。時間を使い切り、56手目からは両者一分将棋になりました。

 杉本八段からの追及が一段落し、藤井二冠に攻める順が回ります。このあたりから形勢の針は次第に、藤井二冠の側に傾いていったようです。

 藤井二冠は角を切って寄せに出ました。杉本八段も攻防の角で返します。一手でも誤れば、たちまち大逆転。しかしいつものことながら、藤井二冠は誤ることなく、鮮やかに決めていきます。

 73手目、歩頭に打ち捨てる桂が次の一手のような決め手。歩で取れば杉本玉は詰み。角で取れば藤井玉が安全になって勝ちです。

「50秒、1、2、3、4、5、6、7、8、9」

 そこまで読まれて、杉本八段は次の手を指さず「負けました」と一礼。きれいな投了図が残されて、3度目の師弟戦が終わりました。

 藤井二冠は本日、長沼洋八段、杉本八段と連破しました。

藤井「公式戦で2局指すのはたぶんけっこう久々だったんですけど。持ち時間1時間の将棋も自分にとっては少し久しぶりであったので、もう少し感覚をつかむ必要があるのかなあ、と思いました」

記者「そういうときに少し甘いものとかあると、助けになる感じでしょうか」

 そう話を振られると、藤井二冠は笑って次のように答えました。

藤井「そうですね、今回は対局中に(不二家の)LOOKチョコをいただいて、やっぱり糖分補給は大事なのかなというふうに感じました」

 藤井二冠はこれで八段予選決勝に進出。本戦進出まであと1勝としました。

藤井「まだ先は長いですけど、挑戦目指してがんばっていきたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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