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ギャンブル依存からセリエA復帰でEURO招集も? ユーヴェMFは「賭博問題→W杯優勝」の伝説に続くか

中村大晃カルチョ・ライター
5月20日、セリエA第37節ボローニャ戦で復帰したユヴェントスのファジョーリ(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

愚行の代償は大きかった。つらい日々だったことは想像にかたくない。それでも、周囲の支えもあり、待望の復帰を遂げた。感無量だったのは当然だろう。

ユヴェントスのニコロ・ファジョーリが5月20日、セリエA第37節ボローニャ戦で途中出場した。違法賭博問題で出場停止処分を科されて7カ月。ようやくのキャリア再開だ。

23歳のファジョーリは、ユーヴェのユース出身。2021年にセリエAデビューを飾り、セリエBでの武者修行を経て、2022-23シーズンからトップチームに定着した。

順風満帆だったプロ生活が大きく変わったのは、2023年10月。違法賭博に手を染めていたことが発覚したのだ。負けが重なり、借金が増え、チームメートにも無心。プロサッカー選手にとってあるまじき行為、サッカー賭博にまで手を出してしまった。

■退屈しのぎから悪夢へ

当初、ファジョーリは自由時間の多さから「退屈しのぎ」でギャンブルを始めたという。それがハマってしまい、「キャリアを大きく損ねるかもしれないと分かったが、恐怖よりギャンブルでのアドレナリンが上回った」。借金の額は右肩上がりとなり、違法サイトでもギャンブルをし、多額の負債を抱えることになった。

ファジョーリは2023年4月のサッスオーロ戦で、ミスから失点を招いた直後に交代を命じられ、ベンチで泣いたことがある。若きタレントの落胆ぶりは大きな話題となった。だが、本人は借金のことを考えて泣いていたという。当時、ファジョーリを慮った人々にとっては、ショックだったに違いない。

借金は約300万ユーロ(約5億1000万円/現在の1ユーロ=170円で換算、以下同)にものぼった。のちに、1回のベットに5000ユーロ(約85万円)を投じたこともあったと伝えられている。

しまいには「借金返済のためだけにプレーすることを考えていた」というファジョーリは、肉体的な脅迫も受けるようになった。「支払えなければ足をへし折る」と、サッカー選手としての人生の危機にも直面していた。

最終的に、周囲の協力もあって自ら罪を認め、処分の軽減につながったのは幸いだ。

イタリアサッカー連盟の処分は、罰金と12カ月の出場停止だった。だが、ギャンブル依存症治療を半年以上受け、公の場での啓蒙活動を10回以上行うことを条件に、5カ月は執行猶予となったのだ。これで出場停止期間は実質的に7カ月となり、シーズン中の復帰が可能となった。

さらに、ユヴェントスも過ちを犯した選手に救いの手を差し伸べた。「全面サポート」を表明し、契約を延長したのだ。処分中の報酬も支払うとし、ファジョーリ復活を支える道を選んだ。

■処分中の取り組み

チームとの練習も続けることが可能となったファジョーリは、真摯に更生を目指してきた。

家族や友人と過ごす時間を増やし、テニスやパデルに夢中になるなど、サッカー以外にも取り組むことを見つけるようにしたという。悪夢の始まりは、退屈しのぎだった。隙間時間の過ごし方から変えたのだ。

啓蒙活動では青少年を前に後悔を認め、自分の過ちを繰り返さないように訴えているとのこと。『La Gazzetta dello Sport』紙などによれば、ファジョーリは処分で定められた10回を終えても啓蒙活動を続ける考えの様子という。

実際、ピッチへの復帰を果たしても、ファジョーリの闘いが終わるわけではないだろう。

筆者は門外漢だが、ギャンブル依存の治療は決して容易ではないと想像する。ファジョーリ自身も2月、「まだ抜け出せたとは言わない」と話した。セラピーを担当してきた専門家は、4月に『Tuttosport』紙でこう述べている。

「サッカーにおける処分は終わろうとしているが、私の彼との仕事はまだだ。セラピーには最低1年の期間が必要で、我々が始めたのは10月でしかない」

「依存行動において完全に治ったと言うことはできない。安定や小康状態に達しても、脆弱さは残る。もろさを治すとは、それを認めることだ。人の性質は変えられない。このもろさを認めることが治療だ。(中略)ギャンブルをしたいとの欲求が再び現れる可能性もある。自分がしたことにご褒美をあげなければいけないとか、悪い状況に出くわした自分を慰めなければいけないとかね。再発の危険要素は存在するんだ。その再発の防止こそ、臨床の仕事の大半だ」

■パオロ・ロッシに続けるか?

しかし、試合復帰が完全復活への第一歩であることも事実だ。ファジョーリは5月21日、インスタグラムで喜びを表した。

「ピッチに戻り、ずっと大好きだったことをやれて、深く感動している。長く、難しい7カ月だった。苦しんで待ち、批判も支えもあった7カ月だ。これからは、ピッチだけが語るとき。そして、このカラーを愛すときだ。みんな、ありがとう」

同日の『Sky Sport』の報道は、彼の気持ちをさらに高揚させるだろう。イタリア代表のルチアーノ・スパレッティ監督が、23日に発表するEURO2024に向けたプレ招集でファジョーリを選ぶという。

30~31名のプレ招集メンバーから、6月7日までに絞られる26人の本大会メンバー入りを果たすのが、シーズンの大半で出場停止だったファジョーリにとって困難なのは言うまでもない。それでも、プレ招集となれば、少なくとも良いかたちでシーズンを締めくくれるのも確かだ。

そしてより具体的な目標は、2026年のワールドカップとなる。

前述の専門家は、ファジョーリと故パオロ・ロッシの例を参考にしていると話した。同じく賭博問題で2年の出場停止処分を科されながら、復帰後に1982年のW杯で優勝し、得点王に輝いたイタリアのレジェンドだ。悪夢から目を覚ましたファジョーリは、偉大な先人に続けるだろうか。

その前に、まずは完全復帰を果たす来季だ。よくも悪くも注目されるだろう。すべてがうまくいくとは考えにくい。だが、キャリアは一度終わりかけたのだ。ファジョーリにはピッチでチームとサッカーをする喜びを取り戻せたことを忘れず、飛躍に向けてさらにまい進してもらいたい。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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