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乾癬性関節炎に伴うメンタルヘルスの問題 - うつ病や不眠症のリスクに注意

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【乾癬性関節炎とは?皮膚症状との関連に注目】

乾癬性関節炎は、乾癬という皮膚の病気を伴う関節炎の一種です。乾癬では、皮膚に赤くて厚い発疹ができ、それがかゆみを伴うことが特徴的です。一方、乾癬性関節炎では、皮膚症状に加えて関節の炎症を起こし、痛みや腫れ、こわばりなどを生じます。

乾癬性関節炎の患者さんの多くは、まず乾癬の皮膚症状が現れ、その後に関節炎を発症するといわれています。ですので、皮膚科を受診した乾癬の方は、関節の症状にも注意を払うことが大切です。早期発見・早期治療が予後の改善につながります。

最近の研究で、乾癬性関節炎の皮膚症状は軽度である一方、関節症状が重度であるケースが少なくないことがわかってきました。皮膚の症状が目立たなくても油断せず、関節の変化を見逃さないことが肝要だと考えます。

【乾癬性関節炎の疫学 - 有病率と発症率を世界と日本で比較】

乾癬性関節炎の有病率(ある時点での患者数の割合)は、一般集団の0.13~0.15%程度とされています。一方、乾癬患者さんに限定すると、15.5~19.7%と高くなります。

また、乾癬性関節炎の発症率(一定期間あたりの新規患者数)は、人口10万人あたり年間8.26~9.70人と報告されています。

ただし、これらの数字は世界全体の平均値であり、地域によって大きな違いがあります。例えば有病率調査の多くは欧米で行われているのに対し、アフリカや中東、ラテンアメリカではデータが不足しています。

日本における正確な有病率や発症率は不明ですが、諸外国と比べるとやや低めであると考えられています。しかし近年、生活習慣の欧米化とともに患者数は増加傾向にあり、今後も疫学調査による実態の把握が求められます。

【乾癬性関節炎に伴う精神症状 - うつ病や不安障害、不眠との関連】

乾癬性関節炎は、単に皮膚と関節に症状を起こすだけでなく、メンタルヘルスにも大きな影響を及ぼす可能性があります。

これまでの研究から、乾癬性関節炎患者の11.9~20%にうつ病の症状がみられ、不安障害の症状も19~33%と高率に認められることが明らかになっています。さらに72.9%の患者で睡眠の質の低下が報告されており、不眠との関連も示唆されています。

関節の痛みによる生活の質の低下や、皮膚症状に対する心理的ストレスが、うつ病や不安障害の発症リスクを高めているのかもしれません。乾癬性関節炎の治療においては、身体面のケアと同時に、精神面のサポートも重要だといえるでしょう。

乾癬性関節炎は、皮膚と関節の両方に症状を引き起こす全身性の疾患であり、世界中で患者数の増加が懸念されています。適切な治療を行うには、皮膚科と整形外科、リウマチ科の連携が欠かせません。

また、うつ病や不安障害などの精神症状を合併するリスクが高いことから、メンタルヘルスケアの視点も求められます。症状の早期発見と、身体と心の両面からの総合的なアプローチが、患者さんのQOL向上につながるはずです。

参考文献:

・Rheumatol Int. 2024 May 26. doi: 10.1007/s00296-024-05617-1.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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