スウェーデン遠征2試合目。敗戦から立ち上がったなでしこジャパンは何を見せるのか(監督・選手コメント)
【切り替えて臨む第2戦】
なでしこジャパンには、強力なパワーを持った「晴れ女」がいるのだろう。
天気予報では、こちらに来てからの数日は小雨の予報が出ていた。しかし、来てみれば毎日真っ青な空と日差しが痛いほどの晴天が続いている。
スウェーデン女子代表との試合を終えたなでしこジャパンは、第2戦の会場となるクリシャンスタードへ移動。中2日で第2戦(日本時間24日・21時キックオフ)に臨む。
試合翌日、スウェーデン戦に先発したメンバーはランニング中心のリカバリーメニュー。途中出場した選手や出場機会がなかったメンバーはボール回しやシュート練習などのメニューをこなし、午後を移動に当てた。選手は練習の合間の自由時間に街中を散歩したり、カフェでの時間を楽しむなど、リフレッシュもできたようだ。
第1戦が行われたカルマルから南西に200km。クリシャンスタードはバルト海沿岸の港湾都市で、教会やレンガ作りの建物が並ぶ中世のような街並が美しい。街の中心部にほど近い場所に、2試合目の会場はある。
第2戦の相手はスウェーデン女子サッカー1部リーグ(ダームアルスヴェンスカン)に所属するクリシャンスタッドDFF。
試合会場(VILANS IP)は収容人数3000人と小規模だが、木製のスタンドや夜間照明、クラブハウスからメディアルームまで、簡素だが必要なものはすべて揃う。スウェーデンの田舎町の自然に囲まれた、手作り感たっぷりのスタジアムだ。
カルマルから移動した翌日、会場で芝の感触を確かめながら午前・午後と充実した前日トレーニングをこなしたなでしこジャパン。
先発メンバーの中にも中1日とは思えないほどキレのある動きを見せる選手もいた。21日の敗戦からは、頭も心もすっかり切り替わっているようだ。
【最後のトレーニング】
午前のトレーニングでは、細かい動きやフェイントを入れながら相手の逆を取る1対1の駆け引きのメニューや、5対5では各チーム、ゴールを3カ所ずつ、両チームで合計6カ所のゴールを使用して、判断やポジショニングなどを高めるトレーニングを行った。
練習メニューには様々な特別ルールが作られ、その中で速く、正確な判断が求められた。
「初めて代表に参加させてもらって、練習自体がすごく楽しめています。ポゼッション(の練習)は結構多くて、その中で細かくルールがあって頭を使うので、うまくいった時の達成感があります。レベルも高いですし、面白いです」(田中美南)
代表に選ばれ続けてきた選手たちのレベルの高さを肌で感じ、食らいつきながらも、練習を「楽しむ」心の余裕を持つことは、成長するために欠かせないものだろう。
午後はオフェンス組とディフェンス組に分かれ、攻撃陣は様々な形からのシュート練習を行い、守備陣は大部コーチの元、ラインコントロールを中心とした戦術の確認を行った。3人のGKは別メニューだが、今回最年少で選ばれた19歳の平尾知佳からも笑顔が見られるのが頼もしい。
「山さん(山下杏也加/今回のスウェーデン遠征の第1戦に先発出場)はU-19の時から一緒にやらせてもらっていましたし、(山根)恵理奈さんはJFAアカデミーで一緒でした。年代は被ってはいないんですけど、同じチーム出身ということでいろいろと話してくれて。GK練習も雰囲気良く、楽しくやれています。紅白戦では緊張してしまいましたが、もう慣れてきて、自分のプレーを出せていると思います」(平尾)
そして、最後は紅白戦を行い、トレーニングを締めくくった。
この紅白戦では、初招集の國澤志乃(所属のAC長野パルセイロレディースではボランチ)を左サイドバックに、阪口夢穂をトップ下に配し、佐々木繭と熊谷紗希のダブルボランチの組み合わせを試すなど、新たなチャレンジも見られた。
「今回の遠征でチームの全体の枠組み、根幹を見つけていきたいと考えています。いろんな選手を、ポジションも変更させながらこのチームに合ったスタイルを見つけたいので、自分のチームと違うポジションを試すこともあると思います」(高倉麻子監督)
遠征前に高倉監督がそう話していた通り、すでに21日の試合では川村優理、熊谷、佐々木らが普段とは違うポジションでプレーをし、収穫と課題の両方を得た。今日の試合では、また新たな「チャレンジ」が見られそうだ。
スウェーデン遠征での練習はこれが最後となった。
「思考を止めず、人もボールも動き続けるサッカー」。
新生・高倉ジャパンのコンセプトでもあるこのサッカーを具現化するためのアプローチは選手それぞれだが、中には身に付いたクセや習慣を変えることから始めなければならない選手もいる。
さらに、短期間で味方選手の特徴を学び、自分の特徴を理解してもらいながらそのサッカーをピッチで表現することは、言葉で言うその何倍も難しいことなのだと、2つの遠征を取材して実感している。
だが、試行錯誤の中で、そのコンセプトが表現されたと思える瞬間も、今回の遠征中に何度かあった。
たとえば、相手と駆け引きしながら味方と連動し、テンポ良くシュートまで持ち込み、ゴールネットを揺らす。
全員が連動して動きながらショートパスをつなぐ中で、あえて中盤を一本飛ばした鋭いロングフィードで一気に前線に運び、スピーディな一連の流れからゴールを決める。
そのように、動きだけでなく、思考までもが上手く連動したゴールが決まった瞬間は、達成感にも似た「ナイス!」という声が、グラウンドのあちこちから聞こえてきた。
チャレンジと試行錯誤を繰り返す中、スウェーデン遠征の最終戦となる今日の試合で、そんな瞬間が少しでも多く訪れることを願っている。
【クリスティアンスタッドDFF戦に向けた監督・選手コメント】
★高倉監督
(スウェーデン戦を振り返って)
いろいろと試す中で、思ったようにはゲームがいかなかったです。足が止まった部分もありますし、攻め手のところで、前に向かう力の入り口を探せなかったですね。スウェーデンはとてもレベルアップしていると思いますし、選手のやることもはっきりしていて、技術的にも去年のワールドカップに比べると上がってきています。ピア監督もそうおっしゃっていました。失点は3つとも、真ん中で割られてやられて、ミス絡みでした。しかも75分からの時間にやられて、すごく悔しい負けでしたし、(この敗戦を)いい方向へ持っていきたいです。
(明日の試合に向けて)
明日は思い切って(1試合目に出場した選手からメンバーを)変えようかとも思ったんですが、何人かは使わない可能性もあります。
(気持ちが追いついていないのでしょうか?)
プレーが足りないから元気がないんだと思います。「メンタルもしっかり上げて調整してやろう」と言っても、プレーが追いついてないからどういう風にしていいかわからない。どうにかしたくても、プレーで出せないからおとなしくなってしまう。もがいているんだけど、簡単に(試合に)出すわけにはいかないので、そこは戦ってもらいたいです。基本的にはみんな出したいと思っているので、短い時間でもやりくりしようと思っています。
(第2戦の狙いを教えてください)
攻撃のところはこだわりたいです。上手さを出すこと、駆け引きもそうですし、ボールのないところでのポジション取りや、ファーストタッチで相手が動いた中でいいところを狙っていけるようなプレーが出てくればと思っています。
★有吉佐織
(スウェーデン戦を振り返って)
自分たちがボールを動かす中で、奪われ方はよくないところもあったんですが、それに対してあまりにも簡単にやられすぎていたので、局面での個々の課題もあると思います。攻撃面では、もう少しスペースにボールを運んで、前に急がずに、もう少し高い位置で工夫していけたら良かったなと。ボールは持てていたけどシュートは少なかったので、ゴール前のアイデアや質が必要ですね。
(スウェーデンのようなチームに対応するために何が重要ですか)
最後に一歩足が出てきたりするので、落ち着いて相手の逆を取っていくことは凄く大事だと思います。勢いももちろん大事ですけれど、それだけでは難しいところもあるので。ただ、日本の選手同士でやる時よりも逆がとりやすい相手ではあると思います。スピードはあるけど、逆はとりやすいです。
(第2戦に向けて修正するところ)
守備のところは、前から(プレッシャーに)いってラインを上げるのか、それとも一度スリーライン(FW/MF/DF)が並んでブロックを形成するのかを状況に応じてはっきりさせることが必要だと思います。攻撃面はもっと距離感が良ければ、3人目の動きとか、いろんなアイデア、動きが見えるので、ワンタッチ、ツータッチぐらいでプレーできたらいいですね。
★熊谷紗希
(スウェーデン戦を振り返って)
自分が前向きでボールを奪えたら、というところもあったし、そこを求めて監督も使ってくださっていたと思うので、そういうところはもっと出していきたいです。それから、簡単に自分のところで仕掛けないこと。ゲームを作るにあたってもっと効果的なパスを出していけるように、質を上げていきたいです。
(試合の収穫)
この時期(五輪前)のスウェーデンと試合ができたところは良い機会だったと思います。何回も対外試合が出来るわけではないので、これだけ完成度の高いスウェーデンと対戦できて良かったし、結果も痛感しています。力の差を感じましたけれど、もっとチャレンジしていきたい。悲観はしないですが、反省はしなければいけないと思います。
★佐々木繭
(自身の出来について)
サイドハーフは初めてだったんですが、周りのフォローが本当に良いので、意外とボールがつなげたかなという手応えはありました。(右サイドハーフから左)サイドバックに代わって、左サイドはあまりボールがこなかったですが、ラインコントロールとか、1試合の中でポジションが代わったことで頭を切り替えるという点では自分のプレーの幅が広がったかなと思います。アメリカ戦はスピードでやられたので、その分相手との間合いや最初のポジショニングは意識しました。ゴール前のアイデアやクロスの質はもっと高めていかなければいけないところです。
(アメリカ遠征から3試合出場。大舞台で積み上がったものは)
前回のアメリカ戦で本当に悔しい思いをして、しばらくはどん底と言いますか、メンタル的にもきつかったんですが、その分うまく開き直って、切り替えて今回の遠征に臨みました。体重移動一つで相手が引っかかってくれる部分とか、逆に相手はフェイントをあまりしないなという印象だったので、ボールに食らいついていけた手応えはあります。
(有吉選手との縦の関係について)
すごく経験のある選手ですので、声の掛け方も助かりますし、自分がボールを持った時にもっと有吉さんを生かせればなと思いました。
★京川舞
(代表の中で、自分のプレーについて)
まだまだだなと痛感しているところです。自分の技術の細かさ、相手の逆をとるとかそういう技術が足りないというのは、代表の選手と一緒にやっていてすごく感じます。どのポジションでも、代表でプレーできることは嬉しいことです。動き続けること、ハードワークは苦にはならないので、そこ(運動量)も表現できたら良いですし、コンディションは良い感じです。
(刺激を受けるプレーについて)
先輩だと有吉さんとか(阪口)夢穂さんのプレーですね。自分と逆のプレーをする選手は、見ていて自分もああいうプレーができたらいいなと思いますし、目がいってしまいます。
★阪口夢穂
(4−1−4−1の新システムの手応え)
ボールを触らないと自分は生きないと思っていますし、かといって下がりすぎたら、「監督が私を前に置いている意味もなくなるかな」と思ったところが、ちょっと難しかったです。
(収穫と課題)
真ん中が3枚いる分、距離感が良いからボールが回る感じはありました。守備のところで、わりとバランスが崩れていたりカウンターを受けるシーンがあったので、そこはあきませんでしたね。相手がどういうシステムでくるかにもよると思いますが、昨日の試合では自分が(下がって)ゲームを作りにいくことも多かったので、同じシステムなら、もうちょっと前でプレーしてみたい気持ちはあります。
★田中美南
(代表の練習の中で気づいたこと)
ファーストタッチの位置が本当に重要になってくると感じました。日本よりも、海外の選手とやった時の方がボールの置きどころは重要だと思いますし、練習の中でも結構言われるので意識したいなと思います。
(長く代表選手に選ばれている選手と一緒にプレーする中で受ける刺激は)
夢穂さんと有(吉)さんとは普段一緒にやっているので、本当に尊敬している選手なんですが、普段やっている分、代表でもやりやすさは感じています。他の年上の人とか、海外で経験している選手の動きはやっぱり日本と違うなぁと思いながら見ているので、勉強になります。
(試合に向けて)
裏への飛び出し出しやターンですね。FWなので結果で、アピールしたいです。スウェーデンに来て、結構(ご飯を)食べられていて、睡眠も取れているので、コンディションは良いです。
★平尾知佳
(代表の練習に初めて参加してみて)
最初は緊張したんですけど、すごくレベルが高くて、すごく学ぶことが多い合宿です。(年)上の選手しかいない環境ですが、レッズでも年上の人が多いので。そこはあまり変わりなく接することが出来るし、みんなも優しく気にかけて話してくれるので、ありがたいです。
(試合を外から見て感じたこと)
自分がピッチに立たないと分からない部分があるんですけど、見ていて、自分でも通用するかなという部分はいくつかありました。なでしこで学んでいることをU-20でも伝えていけたらなと思います。
(試合に出たらどんなところをチャレンジしたいですか?)
自分の長所であるシュートストップやクロスへの対応はチャレンジしないと出していけないと思っています。チャレンジして、チームに貢献したいです。
★高木ひかり
(スウェーデンで取り組んでいることは?)
自分の得意なプレーはフィードなので、そこはいつも心掛けています。今日のトレーニングでも、一人待っている選手につなぐために抜け出す選手を見ることに取り組んでいました。上手く走り出してる選手をよく見て、意識するように。
(ボールを持つ時に気を付けていること)
足元に入れすぎないで、ファーストタッチでいいところに置けば見える部分も違うし、ボールを受けに来てくれている選手もよく見えると思うので、できるだけ(ボール)3個分くらい(離して)蹴れるようなところにボールを置くように心がけています。
(試合でチャレンジしたいこと)
今日の練習のように抜け出す選手を使えるように、ピンポイントやスペースにボールを落とせるようにしたいです。