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「買う側」より「売る側」が強くなる時代に

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:街角景気 6か月ぶり改善(日本経済新聞)

昨年、高齢の身内と都内の寿司屋で食事をする機会があり、帰りがけにお店の人にタクシーの手配を頼んだ。

「もちろん、いいですけれど、タクシーなら店の前の道路にたくさん走ってますよ。そのほうが迎車を頼むより早いし、安いです」

言われたとおりに夜の清澄通りに出てみて驚いた。走っている車の3台に1台はタクシー。しかもすべて空車。手を挙げるとすぐに止まってくれた。釣りで言うなら「入れ食い」だ。

バブル時代の都内の繁華街ではタクシーが全然つかまらず、長距離利用であることをアピールするために1万円札やタクシー券を振りかざす人もいたらしい。20年ほど前は、タクシーから見た客のほうが入れ食い状態だったのだ。

日経新聞の朝刊によれば、内閣府による景気ウオッチャー調査(街角景気)では現状も先行きも「良い」と答えた人が多かった。全国の様々な職種で働く人にアンケートした結果なので、全体的な気分としては好況へと向かっているのだ。景気が良くなれば「買う側」よりも「売る側」のほうが強くなっていく。タクシーを探すとき、片手ではなく両手を合わせてお願いする日がやってくるかもしれない。

振り返ってみれば、この20年間は消費者が強すぎた。安さと便利さと品質を同時追求しているのに、接客態度が少しでも悪いとクレームをつける。「しまむら」の店員に土下座をさせて写真を公開するなんて明らかにやりすぎだ。土下座プレイを淫靡な高級サービスとして楽しみたいならば、10倍ぐらいの料金を払おう。こっそりやってくれる特殊な店員さんもいるだろう。

売る側が強くなっていくと、今度は生産者としての自分を律する必要が出てくる。需要が増えてくると「楽で気持ち良くて割がいい仕事」だけを選び取りたくなるからだ。1万円札を振られないと止まらないタクシーのようにはなりたくない。「難しくて大変で割が合わない仕事」もきっちり引き受けることで、傲慢で強欲な消費者だった時代とのバランスを取ることができる気がする。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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