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「見えない圧力」北欧クィアコミュニティが直面するボディプレッシャーと交差性

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
北欧における体型・外見差別を当事者たちが語る 筆者撮影

「プラスサイズ」で「クィア」など、複数のアイデンティティが重なることによって起きる特殊な差別、インターセクショナリティ(交差性)は、北欧でも議論されるようになってきている。

※ノルウェーではセクシュアルマイノリティ(性的少数者)は「LGBTQ+」よりも「クィア」(ノルウェー語で「シェイブ」)と表現するほうが一般的のため、記事では「クィア」で統一しています。

6月後半にノルウェーの首都オスロで開催中のプライド週間では、「身体的プレッシャーがノルウェーのクィア人口にどのような影響を与えているか」について話し合われた。

「まるで高校の教室みたい!」と主催者が喜ぶほど、イベント参加者は10~20代の若者が圧倒的多数を占めていた。それだけ、外見に対する現代の若者が受けるストレスは大きいことを反映している 筆者撮影
「まるで高校の教室みたい!」と主催者が喜ぶほど、イベント参加者は10~20代の若者が圧倒的多数を占めていた。それだけ、外見に対する現代の若者が受けるストレスは大きいことを反映している 筆者撮影

日本とは形は異なれど、非現実的な「理想的な体系」を目指すような社会的プレッシャーは北欧にも存在する。日本との違いといえば、それを「個人の問題」としてではなく、「社会構造」として、解決策の責任は政治家に求められている点だろう。

企業広告やSNSで溢れる「痩せた、小麦色の肌」「ジムでトレーニング中の写真」は多くの人々に否定的な自尊心を与えているとして、ノルウェーでも長年議論されてきた。

一方で、「身体に対する社会的プレッシャー」に「クィア」「マイノリティ」というさらなるレイヤーが重なると、問題は複雑化する。

クィアの背負う問題は危険なほど優先されていないとして、特にトランスやノンバイナリーの間で高いストレス、解決する政策や手段が少ないことなどが挙げられた 筆者撮影
クィアの背負う問題は危険なほど優先されていないとして、特にトランスやノンバイナリーの間で高いストレス、解決する政策や手段が少ないことなどが挙げられた 筆者撮影

「ボディ・プレッシャー」とは 理想的な体型を目指す社会的圧力のことである。 非現実的だが、この理想を現実にしようとして、SNSで他者と自分を比較する時代になったからこそ、市民は 否定的な自己イメージと不健康な行動に陥る。

体重や体格に基づく偏見や差別によって、体重スティグマや脂肪恐怖症のような社会問題が発症する。 固定観念、決めつけ、 社会的・職業的文脈からの排という形で現れる。

ノルウェーでクィア若者が感じる「もやもや」

イベントではこのような声があがった。

  • ダイエットの薬を飲んで、吐いている人は男性にも多い
  • トランスだと、極端な「男らしさ」「女らしさ」が期待されるため、摂食障がいに陥りやすい
  • 「もうちょっと、その言動を『ノーマル』に直したら、私たちは一緒に遊べるよ」と言われる
  • 「数キロ余分に」を意味するノルウェー語での「ヌ―エン・キロ・エクストラ」(noen kilo ekstra)という言葉が至る所で使われているの、なんなんだ
  • 服のサイズの「プラスサイズ」って何!?何がプラスだって言いたいの?
  • ダイエット用品は「あなたは、まだまだダメな存在」というメッセージを送る

SNSは「危険な場所」か?

若い世代にSNSが与える影響については、様々な意見があがった。

日本と比較して、北欧の人は「ジムでの筋トレ」文化が強いのだが、「ジムでトレーニングしている写真」をSNSにアップする人は以前から多い。そのような写真を見るだけでストレスを感じ、メンタルヘルスが悪化するという意見が会場から出て、共感を呼んだ。

「SNSでは、だれをブロックしてフォローを外すのかを毎月判断しなければいけない」ということが会場で共感を呼んだ。

ジェンダー平等センターのシニアアドバイザーであるカリーナ・エリザベス・カールセンさんは、「SNSは危険でもあるけれど、私のように太った体系など、自分に似た人にも出会えることができる。リアルな通りで歩いているほうが、否定的な視線を浴びることもあります」と指摘。

ボディアクティビストとしても知られるカリーナさん 筆者撮影
ボディアクティビストとしても知られるカリーナさん 筆者撮影

トランスといっても、さまざまなトランスの在り方があるように、「嫌なことを言ってくる人をブロックする、自分で検索する」などの「ちょっとした努力」をすると、「自分にとってプラスの発見」もすることができるのがSNSというプラットフォームだという意見も出た。

「あなたの身体の写真を見ていると、つらい」「身体のことを言わないで」と伝える勇気を

友だちではい続けたいが、相手の身体にまつわる投稿を「見ているだけで、つらい」。そういう時には、どうしたらいいのだろう。

「たとえ、相手が『仲良くしていたい友達』だとしても、ジムでの身体の写真を見るもの、友達を削除するのも辛いだろう。でも、時には相手にそのことを正直に伝えて、フォローを外すことが必要にもなる」「家族に『身体のことを言わないで』と言う練習を事前にするといい」という意見が会場からは出た。

ボディ・プレッシャーの責任は誰にあるのか?

筆者撮影
筆者撮影

ボディ・プレッシャーという構造の責任は「誰にあるのか?」という問いでは「家父長制」「資本主義」という答えが相次いだ。

そして、この構造を解体する責任者は政治家であり、「政治家には、自分たちが内在している体重が重い人たちなどに対する『フォビア』(恐怖症)を自覚してほしい」「ダイエットに関する研究には、スポンサーに(デンマークのヘルスケア企業)ノボノルディスクが大抵いる問題に自覚的になってほしい」という要望がでた。

イベントの主催者には、パネリストの顔触れが「ダイバーシティ」かどうか常に意識すること、クィアや車イス利用者を歓迎するイベントなら、「そのことは、はっきりと情報として明記してほしい」という意見も共有された。

執筆後記

ボディ・プレッシャーは北欧では長く指摘・批判され続けているが、クィアやマイノリティに起きるインターセクショナリティ(交差性)については、まだまだ深く認知はされていない印象を筆者は受けている。

アパレルショップでは定番となった「プラスサイズ」という言葉が「そもそもおかしい」という指摘も、ノルウェーの報道機関ではまだ深く議論されていない指摘だ。クィアが感じるボディ・プレッシャーは、まだまだ北欧では新しく、国会で議論され、政治家が構造にメスを入れるまでになるには、時間がかかるかもしれない。

外見に対する圧力が特に若者に大きなストレスを与えている現状に対し、政治家や社会のリーダーたちは、ジェンダーや体型に関する偏見を解消するための明確な措置を講じる必要がある。それは日本でも同様だ。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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