なでしこリーグ2017開幕直前。3連覇を目指す女王・ベレーザの今シーズンを展望(1)
なでしこリーグ1部開幕を3月26日(日)に控え、今回はリーグ3連覇を目指す女王、日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の2017年シーズンを展望する。
昨シーズン、ベレーザはリーグ戦とカップ戦の2冠を制覇。内容も27試合で85得点9失点と、攻守にバランスの良さが光った。皇后杯ではアルビレックス新潟レディースに0-1と惜敗し、3冠は逃したものの、シーズンを通し、総合力では他のチームを寄せ付けなかった。
高い技術を活かしたパスワークで相手ゴールに迫る、クラブの伝統とも言えるスタイルは、近年になく完成度が高まっている。一方で、形にこだわらず、相手によって自在に戦い方を変えられる柔軟性も、今のベレーザの強みだ。
前からプレッシャーをかけてくる相手には、味方同士の連携と個々の駆け引きで対処してかわす。攻撃時にボールを奪われても、プレッシャーをかけてすぐに奪い返し、ショートカウンターで一気に相手ゴールに迫る。引いた相手に対しては攻め急がず、じっくり相手を誘い出し、自分たちのペースにしたたかに引き込む。
選手間の息の合った連携やイメージの共有を可能にしているのは、下部組織であるメニーナ出身の、いわゆるクラブ生え抜きの選手たちだ。昨シーズンは登録メンバー18人のうち、生え抜きのメンバーが13人に上った。志向するサッカースタイルも、メニーナから一貫しており、長い歳月をかけて醸成されてきた「あ・うん」の呼吸は、他のチームの追随を許さない。
【キープレーヤーは?】
攻守の中心は、MF阪口夢穂(さかぐち・みずほ)。なでしこジャパンの中心選手でもあり、女子サッカー関係者の多くがそのサッカーセンスをして「天才」と評する。ショートパスを多用するベレーザのサッカーで、広い視野で長短のパスを使い分け、リズムを変えることができる阪口の存在は絶妙のアクセントになっている。リーグ2連覇の立役者として、2年連続でリーグ最優秀選手賞(’15/'16)を受賞しており、森栄次監督も「今は夢穂が中心でチームが動いている」と、絶対的な信頼を寄せる。
キャプテンマークを巻いて7年目になるDF岩清水梓は、クラブ在籍17年目になる、クラブの象徴的な存在だ。高く設定された最終ラインをコントロールし、後方から通る声でチームを鼓舞しながら、的確にコーチングする。
GKの山下杏也加は、元FWという異色の経歴の持ち主で、身体能力の高さに加え、フィードやビルドアップなど、足元の技術の高さも特長だ。現在、山下はなでしこジャパンの正GK争いでも、一歩リードしている。
そんな中、森監督が今シーズンさらなる成長を期待するのは、FW籾木結花、MF長谷川唯、MF隅田凛の3人だ。
「3人がもっと点を取れると、チームとしてさらに良くなると思います。まだ夢穂たちベテランに頼っている部分があると思うので、自分がいけると判断したら、失敗してもいいから積極的にゴールを狙ってほしいですね」(森監督)
籾木と長谷川は20歳と若いが、なでしこリーグ1部でのプレーはそれぞれ6年目と5年目を迎える。今年3月のアルガルベカップのスペイン戦で、共に途中出場でA代表デビューを飾った。
籾木は昨シーズン、皇后杯も含めた公式戦32試合で20得点を決める活躍を見せ、20歳以下の選手では唯一ベストイレブンに選ばれた。代表選手を最も多く輩出してきたベレーザで、歴代のエースたちが背負ってきた伝統の背番号10を昨年から継承して、今シーズンはさらなる飛躍が期待される。
長谷川は、持ち場である左サイドだけでなく、豊富な運動量を活かしてピッチのあらゆる場面に顔を出し、チャンスメイクを担う。多くのチャンスを演出しながら、常にゴールを狙う積極性も忘れない。ヒールパスや浮き球、相手の裏をかいたキラーパスなど、相手との駆け引きと創造性溢れるプレーは必見だ。
隅田は、今後なでしこジャパン入りが期待されるボランチだ。危機察知能力に優れ、相手のパスコースの消し方やセカンドボールへの反応の速さに特長がある。特に守備面で貢献度が高い選手だが、攻撃的な右サイドハーフとしてもプレーすることがある。昨シーズンは難易度の高いゴールを決め、得点能力の高さも示した。
籾木、長谷川、隅田の活躍次第では、昨年、得点女王に輝いたFW田中美南(昨年は18試合で18得点)が今シーズン、さらなるゴールを量産する可能性もある。
【不動の左サイドバック、有吉の穴を埋めるのは・・・】
このように、まさに黄金期を迎えようとしているベレーザだが、不安要素がないわけではない。少数精鋭で戦ってきただけに、ケガで主力を欠くリスクは常にあった。
そして、その不安は現実になってしまった。
6年間にわたり、不動の左サイドバックとしてチームを支えてきた有吉佐織が、アルガルベカップで右膝を負傷。前十字靭帯損傷で全治8ヶ月と診断され、今シーズンのリーグでの復帰は難しいかもしれない。有吉はボールポゼッションを主体とするサッカーで、最終ラインからゲームを作れる貴重な存在であり、この離脱はベレーザにとっても、なでしこジャパンにとっても大きな痛手である。
そこで、今シーズン、ベレーザの左サイドバックは若手も含めて何人かが起用されることが予想されるが、最有力候補は、MF中里優だろう。昨年はボランチの一角で阪口を支えたが、流れの中でトップ下、ボランチ、サイドハーフ、サイドバックもこなせる器用な選手である。高いボールコントロール技術と球際の強さ、豊富な運動量を備えており、昨年からはなでしこジャパンにもコンスタントに呼ばれている。
3月19日(日)に行われたヴェルディユースとのトレーニングマッチでは、左サイドバックで難なくプレーしており、阪口も「優(の左サイドバック)が、なかなか良いんです」と手応えを見せていた。
【「打倒・ベレーザ」のプレッシャーは想定内】
ベレーザは3月上旬になでしこジャパンが出場したアルガルベカップに7人、U-23ラ・マンガ国際大会に3人の選手を送り出したほか、U-19の国内合宿も重なり、2月以降は主力の多くが各代表チームの活動でチームを離れていた。そのため、チーム全員でトレーニングする時間が他のチームに比べて少ないハンデもあった。
しかし、時間をかけて作り上げてきた土台は、簡単には揺るがない。そして、当然、チームとしては昨年からさらなる進化も目指す。
「昨年のサッカーをベースにしながら、守備面と攻撃面で1つか2つ、新しい要素をプラスできるように意識づけしています。攻撃面では、ゴール前でのスピードの変化をつけることにトライしています」(森監督)
ベレーザ戦になると、どのチームも「打倒・ベレーザ」のモチベーションがいやがおうにも高くなる。だが、それは今年に限ったことではない。
阪口は
「『打倒ベレーザ』感はやめてほしいですね(笑)。強いというイメージがあるかもしれないですが、去年も1試合1試合を必死でやった結果だったので、余裕があるわけではないんですよ」
と、話す。
ベレーザの開幕戦の相手は、2年ぶりに1部に昇格したちふれASエルフェン埼玉。
3連覇に向け、女王がどのようなスタートを切るか、注目だ。