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藤井聡太挑戦者、不動駒わずか1枚の名局を制し王将戦七番勝負先勝 掛川城無敗の名将・渡辺明王将を破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

1月9日・10日。静岡県掛川市・掛川城二の丸茶室において第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第1局▲藤井聡太挑戦者(19歳)-△渡辺明王将(37歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9日9時に始まった対局は10日19時27分に終局。結果は139手で藤井挑戦者の勝ちとなりました。史上最年少五冠に向け、幸先のよいスタートです。

 第2局は1月22日・23日、大阪府高槻市・山水館でおこなわれます。

 掛川城対局でこれまで6戦全勝だった渡辺王将。ついに初黒星を喫しました。

 両者の対戦成績は渡辺2勝、藤井9勝となりました。

 藤井挑戦者の今年度成績は46勝10敗(勝率0.821)となりました。

長く続いた激熱の終盤戦

 藤井挑戦者先手で戦型は相掛かり。41手目、8筋の歩を突いた手が新手法かとまず注目されました。

 近年のタイトル戦では1日目でかなり手数が進むケースも増えました。しかし本局はスローペース。2日目夕方を迎えた時点でも、形勢はほとんど差がつかないまま、まだ中盤の段階でした。

 88手目。渡辺王将は相手の角筋を遮断しながら、相手の歩頭に桂を打ちます。これが藤井玉への王手でした。歩で取っては大勢に遅れを取る藤井挑戦者。角を渡す代わりに金桂の二枚換えをしながら、渡辺玉に迫ります。持ち時間8時間のうち、残りは藤井10分、渡辺17分。両者ともに残り時間が切迫する中、高度な技がとびかう、きわどい終盤戦が始まりました。

 95手目。今度は藤井挑戦者が桂を打って、渡辺玉に王手をかけます。広くて7か所も逃げ場がある渡辺玉。渡辺王将は17分のうち13分を使い、ぐいと上に逃げました。

 手番を得た渡辺王将は王手で歩を連打して藤井玉を中段に釣り上げます。両者の玉が接近する複雑な終盤戦。藤井挑戦者の駒台には9枚もの歩が並びました。

 渡辺王将は100手目、藤井挑戦者は107手目から持ち時間を使い切っての一分将棋。将棋ソフトが示す評価値の上では藤井挑戦者が抜け出したかにも見えましたが、やがてその差は縮まります。勝敗不明のまま、秒読みの中での勝負となりました。

 いつでも冷静沈着に見える藤井挑戦者。本局に限っては駒台に置かれている桂の駒が逆向きに置かれているあたり、余裕がないようにも見受けられました。

 しかし混迷が続く終盤の中、最後に突き放したのは、藤井挑戦者でした。

 137手目。藤井挑戦者はずっと動いていなかった4七の歩を突いて、4六に進めます。王手。対して渡辺王将は5六に玉を逃げました。一間空いて、5八にいる藤井玉。大将同士の一騎打ちを思わせる図となりました。

 藤井挑戦者は自玉を支えに金を出て、渡辺玉は詰んでいます。渡辺王将は潔く投了。名局の余韻が漂う、美しい終局図が残されました。

 王将位通算20期を誇る大山康晴永世王将(15世名人)は名局の定義を「盤上の駒が34、5枚が活躍して心にかなった勝負」としたそうです。本局は40枚の駒のうち、不動駒は先手藤井挑戦者側の1筋隅の香、わずかに1枚。両者にとってどれほど満足のいくほどのものだったかはわかりません。しかし観戦者から見れば、名局と呼ぶよりない、素晴らしい一局だったのではないでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『あなたに指さる将棋の言葉』(セブン&アイ出版)など。

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